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04 魔女裁判と無実の少女

「今から魔女裁判を行う! 被疑者、前に出ろ!」


 キリストロニフ聖王国、ゼウパレス修道学院の横に臨時で設けられた魔女裁判所……その法廷に、ひとりの女が連行される。名を呼ばれた女は、無言のまま法壇の前まで歩み出ると、そこで静かに両膝をつき、首を垂れた。


「貴様は、魔女であることに間違いないか?」

「いいえ、違います! 私は魔女ではありません!」


 司祭をはじめとする大勢の教会関係者たちの前で、女は懸命に訴える。そして、自分は魔女ではないと否定し、どうか信じてほしいと、必死に懇願する。


「ならば、その毒々しい桃色の髪はなんだ。それこそが、魔女である証拠ではないのか?!」

「!! これは……騙されたのです! この色の髪にすれば、弟の病気を治してやると、牧師の方が……!」


 女は涙ながらに、自分は魔女ではないと訴え続けた。だが『牧師』という言葉を口にしてしまったのは、あまりにも致命的だった。教会関係者たちは一様に眉をひそめ、「魔女の言葉など信用できぬ」と囁き始める。


「やはり、魔女の言葉など聞く必要はなかったのだ。我ら教会の者を貶めるような発言をするとは……言語道断! 即刻、死刑とする!」


 司祭が声を張り上げ、傍らに控えていた神殿騎士たちに死刑を命じた、その刹那、女の目前に、金色の髪を靡かせたひとりの少女が、静かに立ちはだかった。



 私は、ピンク色の髪をした女性が神殿騎士たちに斬首されそうになるのを目にし、咄嗟にその前へと飛び出した。


「一体、何の真似ですか? 大聖女(・・・)セーラ様」


 女性の前に立ちはだかる私を、明らかに不快そうな目で睨んでくるのは、神殿騎士団長のルイジエルだった。今まさに首を刎ねようとしていたところを邪魔されて、ご機嫌斜めのようだ。一体、どれほど血を見るのが好きなんだと、神殿騎士としての資質を自然と疑いたくなる。


「お持ちください、ルイジエル様。この方は無実です、今、私が証明します!」


 私は、跪いたまま首を垂れている女性に向かって、浄化の魔法を発動する。


「光涼なる清き春風 (プリフィケーション)」


 そっとその頭に手を触れると、柔らかな光柱が彼女の全身を包み込み、淡く揺れる光の中で、毒々しかった髪の色が、艶やかな亜麻色へと変わっていく。


「「こ、これは!?」」


 未だに床に両膝をつけたままの女性の髪が変わったのを見て、法廷にいた者たちは皆、息を呑んだ。驚きのあまり言葉を失った彼らを横目に、私はそっと彼女の手を取り、静かに立ち上がらせる。


「彼女の無実は証明されました」


 そう司祭に一言だけ告げると、まだ足元がおぼつかない彼女を支えながら、私は魔女裁判所を後にした。


――――――――――


「ありがとうございます、大聖女セーラ様! これで、生きて弟に会うことができます!」


 亜麻色の髪をした女性は、深々と頭を下げ、目に涙を浮かべながら命の恩人への感謝を口にするが、そもそも彼女が命を狙われたのは、私が原因なので、胸の奥にずっと棘のようなものが残り、罪悪感に押し潰されそうになる。


 それでも今日も、私の身代わりとして殺されかけた無実の人を、ひとり救うことができた……それだけが、わずかな安堵を与えてくれる。私は、弟の治療に使ってほしいと願いながら、高級ポーションと銀貨を数枚、彼女に手渡した。


「そんな……こんなの、頂けません! 命を救っていただいただけで、もう十分です!」


 女性は涙声でそう言いながら、袋を私に返そうとするが、私は静かに微笑んで首を横に振り、その手に包み込むようにして押し戻した。


「いいえ。これは、私たち教会が罪なきあなたを間違って裁こうとした、その償いの気持ちです。私ひとりが謝ったところで、済むとは思っていません。でも……本当に、怖い思いをさせてしまいました。申し訳ありません」


 私の心からの言葉だった……お金や物で許してもらおうとする自分に、恥ずかしさを感じながらも、それでも私が謝ると、彼女は強く胸を震わせながら袋を受け取り、「このご恩は、一生忘れません」と、小さく、けれど確かに呟いた。


――――――――


 私がゼウパレス修道学院を卒業したあとも、なおこの場所に留まっているのには、理由がある。先日の戦いで、私は圧倒的な聖魔法の力を示し、多くの騎士たちを救い、大量の魔族を蹂躙した。その功績が評価され、私は世界に五人しかいない大聖女(・・・)のひとりに選ばれた。


 そして、その大聖女(・・・)たちは、世界各地に存在する聖女育成のための修道学院に所属し、後進を教育するという重要な役目を押し付けられる。そう、はっきり言って、私にとっては苦痛でしかない。


 私が討ち倒したデスドラゴンは、魔族の八王のひとりだったという。その影響で戦況は一気に落ち着き、聖女として最前線に立つ必要も、しばらくはなくなった。案の定、親から『そろそろ永久就職のことを考えてはどうか』と、それとなく言われるようになり……。私は泣く泣く大聖女としての職に就き、学院に留まって、学生たちに聖魔法を教えている。


「セーラ先生、さっきは大丈夫でしたか? いきなり授業を飛び出して、魔女裁判所に駆け込み裁判を止めて、司祭様の判決を覆すなんて……。普通だったら、大聖女とはいえ、許される行為ではありませんよ」


 亜麻色の女性を救い、教室に戻ると、生徒のひとりであるアリスが心配そうな顔で駆け寄ってきた。マリオロス教の総本山、オニガイル聖峰のクリパデニオス教会から派遣された最高司祭の判決に異議を唱えるなど、いかに大聖女とはいえ軽率だったのではないかと、彼女は遠慮がちに注意してくる。


 しかし、正直言って、マリオロス教の教えなんて、私はまったく信じていない。だから、その最高司祭とやらに何を思われようが、これっぽっちも気にならない。というか、魔力もほとんどなく、実力も皆無、親の七光りで司祭になったようなオッサンが何を言おうと、瞬殺する自信があるので、そもそも気にする必要すらない。


「大丈夫ですよ、アリス。結果的に、無実の女性を救うことができたのです。寛大なる神であれば、祝福こそすれ、非難などするはずがありません」


 私は、真面目で少し面倒くさいアリスに向けて、神が言いそうなセリフをいくつか並べて聞かせると、アリスは「確かに……」と小さく頷き、それから思い出したように兄が先生と話がしたいと伝える。


「お兄さん……ですか。アリスさんのお兄さんというと、ランドルフ皇国の皇太子、アイオス殿下で間違いないでしょうか?」


 彼の名前を耳にした瞬間、できれば今それを思い出さないでほしかった、と内心で天を仰ぎ、どうすればうまく逃げられるかを考えていた、そのとき、背後から背筋が凍るような冷たい声がかけら、咄嗟に私は、絶対防御魔法を展開する。


「闘竜神の王盾 (パーフェクトガード)」


 これは、魔族の王でさえ突破できない、聖魔法の奥義のひとつ……完璧な防御陣を構築し、これで安心だと息をついたその瞬間、再び背後から、あの冷たい声が届く。


「おいおい、無視とは酷いな、大聖女セーラ。そんなに冷たい態度を取られると……つい、俺も口を滑らせてしまいそうになる……たとえば、『デスドラゴンを撲殺した魔女の正体』についてとか」


 まるで魔族以上に邪悪な存在――その声に、私は思わず身を竦ませる。そして、振り返れば、表面上は優しく微笑む邪神(アイオス)が、恐るべき脅迫を柔らかい口調で、ねちねちと投げかけてきたのだった。

メインキャラのアイオスです。


挿絵(By みてみん)



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あと、「呪術と魔法は脳筋に ~魔族から人間に戻りたいのに、なかなか戻れません~」や「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら、なお嬉しいです。<(_ _)>


欲張りですいません!

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