03 魔族戦線と魔法少女への変身
魔族の軍団の後方から、巨大な黒いドラゴンが現れ、こちらに向かってゆっくりと歩を進め始めた。すると、総指揮を任されたゼビウス大将軍が、配下の聖騎士団を引き連れて、真っ向から特攻を仕掛けていく。
私だったら迷わず逃げるのに責任感があるな、と感心しながら眺めていると、大将軍は火の特級魔法を発動し、巨大な炎の剣を作り出してドラゴンに向かって振り下ろした。だが、予想通りまったくダメージを与えることはできず、あっさりと黒い炎で消し飛ばされてしまった。
まあ、相手が魔物や人間であれば、あの魔法でも特大のダメージを与えられるのだろうが、魔力の高い魔族が相手となれば、魔法抵抗の高さによってダメージは半分以下になるのが普通だ。しかも、あの黒いドラゴンは、どう見てもラスボス級に魔力が高そうだし、たぶんノーダメージだろうなとは思っていたが、まさか魔法そのものを消し去るなんて、ちょっと想定外だった。
もはや絶体絶命のピンチに、各国から集まった騎士や魔法使い、僧侶や司祭たちは皆、「人類の敗北」という言葉が頭をよぎったのだろうか……全員が、とんでもなく悲壮感に満ちた顔をしている。私は周囲をざっと見渡し、誰もが巨大なドラゴンに目を奪われていることを確認すると、足早に無人のテントの中へと滑り込んだ。
そして、念のためにもう一度、誰もいないことを確認すると、万能魔法を使って、魔法少女に変身した。
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万能魔法を使い、魔族に多大なダメージを与える反魔族粒子で戦闘服を作り出し、身にまとったセーラは、全身に強化魔法を付与すると、颯爽とテントから飛び出し、ゼビウスたちに黒炎を吹きかけようとするドラゴンを目がけて駆け出す。
強化魔法と、万能魔法で生み出した戦闘服の性能によって、常人を遥かに凌駕する速度で魔族の群れの中を走り抜けると、セーラは、口から黒炎を漏らすドラゴンの顔面めがけて、鋭い飛び蹴りを放つ。
セーラの飛び蹴りは、ドラゴンが展開していた物理障壁をいともたやすく突き破り、こめかみに直撃すると、そのままの勢いで、巨体を吹き飛ばしドラゴンを地面に叩きつける。
誰もが何が起きたのか理解できず、信じられない光景をただ眺め、呆然と立ち尽くす中、ドラゴンだけが状況を即座に把握し、すぐに起き上がってセーラに向けて黒炎を吹きつける。だが、セーラはそれを素早く回避し跳躍すると、ドラゴンの懐に飛び込み、渾身の正拳突きを叩き込んだ。
「ボコッ」と嫌な音を立てて、セーラの拳がドラゴンの鳩尾深くにめり込むと、ドラゴンは苦悶の声も上げられず、体をくの字に折り曲げて首を垂れた。その拳を引き抜いたセーラは、地面に軽やかに着地すると同時に、大きく跳躍してドラゴンの顎を打ち抜き、巨体を仰け反らせる。
さっきまで、人類を滅亡へと追い込むのではないかと思わせるほどの威圧感と威厳を放っていたドラゴンだったが、今では無残にも、たったひとりの人間の少女に好き放題に殴られ蹴られ、傷だらけの姿で、なんとか立っているだけの存在になっていた。
セーラは、もはや為す術もなく無抵抗で立ち尽くすドラゴンを見つめ、わずかに哀れみの表情を浮かべると、ゆっくりと両手を天に掲げた。
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ついに、私は夢に向けて大きな一歩を踏み出した。前世の私が憧れて、夢中になってテレビにかじりつくように見ていた――あの「魔法少女」に、今まさに私は変身したのだ!
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前世の私は、親の教えを守り、勉学に励む真面目な子供だった。とにかく良い大学に入り、良い会社に勤めて、同じかそれ以上の年収がある男性と結婚して子供を産む――それこそが「幸福な人生」だと教えられた。そして、周囲を見渡しても、大体の人はそんなふうに生きていて、幸せそうに見えたから、疑うことなど一度もなかった。
だが、実際に良い大学に入り、一流企業に就職したものの、現実はそう甘くはなかった。容姿がぱっとしない私に言い寄ってくる男性はほとんどおらず、たまに話しかけられても、話題がアニメか漫画に偏ってしまい、結局すぐに興味を失われてしまった。正直、相手の見た目を気にしなければ、付き合うことも、結婚することもできたかもしれない。けれど……アニメや漫画に登場する魔法少女のパートナーは、いつだって完璧なイケメンだったから、どうしても妥協する気にはなれなかった。
これまで一生懸命に努力して、一流の大学や企業にたどり着いたのだ。容姿くらい良い男性と結婚したいと思うのは、決して過分な望みではないと私は本気で、そう信じていた。しかし気づけば、私はどんどん年を重ね、いつの間にか職場の同僚たちから「お局様」と呼ばれるようになっていた。
しかも、三つ下の妹は勉強もせず、チャラチャラと遊んでばかりだったのに、イケメンと結婚して子供にも恵まれた。生活は少し貧しかったものの、それなりに幸せな人生を送っていた。両親も、孫が可愛いのか、いつしか妹のことばかりを褒めるようになり、私はまるで腫れ物でも扱うかのように接され、次第に家族の中で孤立していった。
そして、父が他界し、母と二人で暮らすようになると、母はいつも妹と孫のことばかり話すようになった。面倒を見ている私には、感謝の言葉ひとつなく、最後に亡くなるときでさえ、看取りにも来なかった妹と孫のことを案じていた。
……結局、自由に生きた妹のほうが正しく、自分を押し殺して努力し続けた私のほうが間違っていた。それを、死ぬ直前になってようやく認めた私は、心にひとつの決意を抱いた。もし来世があるのなら今度こそ、たとえ周囲に迷惑をかけようと、私は私の思うままに、自由に生きてやると……。
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魔法少女に変身した私は、前世の自分を思い出しながら、改めて誓う。この世界では、絶対に「自由に生きてやる」と、そう心に刻み、私はドラゴンを目がけて走り出した。
この世界の管理者から、世界に影響を与えない範囲で残された前世のわずかな記憶を寄せ集め、生み出した反魔族粒子。その粒子で構成された戦闘服を身にまとった私は、常人を遥かに超える力を手に入れ、ドラゴンを蹂躙してゆく。
打撃を通して体内にねじ込まれた反魔族粒子は、ドラゴンの全身に深く浸透したようで、もはやその命は風前の灯だった。私はその姿に、ほんの少しだけ哀れみを覚えると、これ以上苦しませないために、一撃で止めを刺すべく、静かに万能魔法を発動する。
私が両手を天に掲げると、黒と白、二色の雷が空から落ちてきて、そのまま両手に吸い込まれていく。膨大なエネルギーをまとった両手をぴたりと重ね合わせ、一気にそれを解放すると、黒と白のエネルギーは螺旋を描いて空間を裂き、ドラゴンへと直撃した。そして、次の瞬間、ドラゴンの巨体は一片の塵さえ残さず、跡形もなく消滅していた。
私は想像以上の威力に少し呆然としながら、前世でずっと憧れていた、プリティでキュアな、ブラックかつホワイトな二人組の魔法少女のことを思い出した。そして、誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟く。
「プ○キ○ア・マーブルスクリュー……」
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――世界は、この日を境に大きく動き出す。長きにわたり膠着していた人間と魔族の戦争は、たったひとりの謎の少女の出現によって、劇的な転機を迎えることとなった。
その少女は、漆黒の衣をまとい、ピンク色の髪を靡かせながら戦場に現れた。巨人すら凌駕する膂力を持ち、既存の魔法とは異なる、怪しくも強大な魔術を操り、魔族八王の一柱、デスドラゴンを圧倒の末に消滅させたのである。
人間たちは、その異常なまでの強さと、理解の及ばぬ異質な力を目にして、口々にこう囁いた。
――かつて、魔族も人間も支配した魔女が、再び蘇ったのだ……、と。




