冬休みは冒険者を-1
むかえに来たキーア=ネインにつれられて、転移魔術で移動した。二人分の料金は(施設利用料だけだってのに)目玉がでるほど高い。
移動した先は、オーレンサウという町だ。実家――親父どのの洞窟から一番近くの大きな古い都市で、わたしが冒険者登録をしたところである。
「うぐぇ~~……」
酔った。
頭がぐわんぐわんする、目がまわる、胸がむかむかする、足もとがふらふらする、息苦しい、気持ちが悪い。
ぐんにゃりとそのへんの床にのびそうになるのを、キーア=ネインがベンチまで運んでくれた。しばらく占領して横になっていれば症状はおさまる。本当は地面に直接ころがっているほうが回復は早いのだが、町中でそれはさすがにできない。
わたしにとって転移での移動は、だいじょうぶなパターンとまったくダメダメなパターンがある。その条件はわかっているのだが、今回のように、どうしても後者のダメダメパターンを選ばざるを得ない。
「……やはりこうなったか」
「あぁグライエン。やっぱりリツとこの施設は相性悪いね。お守りも効果なかったようだよ。以前の症状とまるで変わらない」
「そうだな。体調に影響がでるほどのエーテルのみだれは、防ぎようがないか」
どれほど横になっていたのか、時計がないからわからないが、あまり長くはなかったと思う。太陽の位置でなんとなく。気持ち悪さがなくなり、呼吸がラクになった。
ゆっくりと体を起こす。うん、だいじょうぶだ。
「親父どの、ただいまー」
「あぁ、おかえり」
「洞窟にひっこんでるかと思ってた」
「そのつもりだったが。……子のようすを見るべきかと思ってな」
そう言ってわたしをじっと見て、どうあれ息災そうだな、とうなずいた。
「うんうん、今回はわたしが言うより先に言いだしたんだよ。待ち合わせ場所はどこにするんだ、ってね! やぁすっかり親が板についたもんだよね」
キーア=ネインは満足そうだ。
「さぁて、回復したんなら動こうか! 学園での話を聞かせてもらいたいが、時間がないからね、まずはやることをやろうじゃないか。リツの冒険者資格が停止にならないようにね! さぁ、冒険者ギルドに行くよ。季節を問わない作業系の依頼が出ているはずさ」
冒険者としての活動をすること。
キーア=ネインがわざわざむかえに来てくれたのは、こういう理由があったからだ。一定の活動をしないと登録抹消となってしまう。入学前にも散発的にやっていたし、在学猶予制度もある(もちろん利用中)が、やれるならやっておくにこしたことはないのだ。
オーレンサウの冒険者ギルドは、中心部から離れているが町の出入り口に近く、市場もそれほど遠くないという立地だ。敷地が広く、建物も大きい。五階建てで、一階部分が各種受付窓口になっている。
冒険者への依頼は、ゲームでよくあるように、掲示板に貼られている。でっかい掲示板がひとつとか、依頼内容の方向性ごとに掲示板がわかれていたりとか、その景色はギルドの規模や方針、担当者の性質よって違うのが興味深い。
ここの掲示板は冒険者の階級ごとにあり、貼られている依頼票は一枚も重なることなく整然と並べられている。しかも字も読みやすい。知っているなかでいちばん親切な掲示板だ。
以前キーア=ネインにそう言ったら、オーレンサウのギルドは依頼の管理や斡旋・金額の明瞭さ、そのほかもろもろが最上のギルドのひとつなのだと教えてくれた。公的ではないものの、ギルドにもランクがあるらしい。
さて、わたしは現在《銅》三級という階級にある。いわゆる駆け出しである。まわされる仕事は普段からあんまりない。
「スッカスカ……」
今が冬だってのも原因のひとつだろうな。なにせ定番というべき薬草採取がない。
さらに残念なことに、ひとりで受注できる依頼もない。すべて二人からとなっている。
まいったな。
「リツ、こっちもあるよ。見てごらん」
はなれたところの掲示板の前で、キーア=ネインがてまねきした。
「それ階級違うんじゃ?」
「いや、この掲示板は緊急や至急依頼専用でね、必要資格が案件ごとに違うんだ。ほら、あんたでもできるやつがあるよ」
「緊急なのに?」
どれどれと掲示板を見あげる。階級ごとに色の違うハンコが押されているから、自分が対象になるものが見つけやすい。
緑色のハンコの《銅》三級から受注できる依頼は『外壁灯の点検・清掃』とあった。
『ケガをしたため、代わりに外壁灯の点検及び清掃をしてほしい。道具は貸し出し、手順は依頼者より説明する』
「あーなるほどなぁ」
集落の外側に設置される灯りは、魔物除けの効果をもたせた魔道具であることが多い。とうぜん定期的なメンテナンスが必要であるが、それができない状況になった、と。
たしかに緊急案件である。そして低い階級でもまったく問題ない。
よし、これをやろう。
依頼票をはがして、受付に冒険者証とともに提出する。
「これを受けてくれるかたが早くいてホッとしました」
窓口のお姉さんがうれしそうに言う。依頼票の日付を見ると、受理はわずか二日前だった。
「《銅》の冒険者がいないってことはないだろう?」
「もちろんいますけど、地味な仕事ですから敬遠されるんですよ」
「地味じゃない低級の仕事ってあるの」
「ないわね!」
お姉さんは小さくふきだし、笑いながら「住所の場所はわかる?」ととてもくだけた調子で言った。
「いや、ほとんどわからん」
「じゃあ地図をあげるね。おおざっぱなものだけどほかの仕事でも役立つでしょうから、たいせつにして。――では手続き完了です、行ってらっしゃい」
「ありがとう、行ってきます」
ざっくりでも町の地図はありがたいな。古い町だからか、けっこう入り組んだところが多いんだ。住所と照らし合わせると、依頼人の住居はちょっとわかりにくいところだった。
「親父どの、キーア=ネイン。お待たせ。二人はどうするんだ?」
「俺はそのあたりで待っている」
「あたしはひと仕事してくるよ。あんたが手続きしてる横で、あたしもすませてたんだ。ただ待つってのはできないからね。で、四時の鐘が鳴るころに、ここで合流しようか」
「わかった。じゃあなー」
二人とわかれてギルドを出る。よーし、仕事だー。
地図を片手に依頼人の自宅を訪ねる。出てきたのは中年(っても三十代くらいか?)の男性だ。ぎこちない動きで、松葉杖をついている。依頼を受けたと言うと、ホッとしたように笑った。
「ああー、受けてくれたのか! ありがとう、助かったよ」
仕事中、ふいにあらわれた魔物におどろいて脚立から落ち、あちこち打ちつけたうえ、足は骨折してしまったと彼は語った。
「その魔物には襲われなかったのか?」
「うん、ギリギリね。冒険者が近くにいたから……といっても原因でもあったんだけど。退治するんで追ってたのをもらしたんだってさ」
「そりゃ災難だったな……」
こうしたことがあった場合、普段は自分たちのギルド内で片づけるのだが、今回はイロイロと事情がからみあって冒険者ギルドに依頼を出したのだ、とのことだった。
「外壁灯はぜんぶで二十基あるんだけど、半分は終わってたんだ。だから残りの十基ね。場所は地図を見て――道具はこれね。じゃあ作業手順を説明するよ。時間かかると思うけど、もれなく頼むね」
「はい、了解」
十数分後、わたしは脚立をかつぎ、道具の入っただいぶ重たい鞄をななめがけにして、町の外へむかっていた。これ、ちょっとした筋トレだな。
門をくぐったら門番に「外壁灯の点検か?」と声をかけられた。彼らも気にしていたのか「よろしく頼む」と言われてしまった。意外と責任重大なのかもしれない。
気合いをいれてさっそく取りかかる。あ、脚立のぼるとけっこう高い。二メートルはこしてるな。依頼人があれほどケガをしたのもうなずける。
まず全体の埃をはらい、外側の汚れをぬぐう。うーん、少し曇りガラスっぽいし、長年の蓄積もあって、すっきりきれいにはならんな。次に扉をあけて中の掃除。だいぶ砂がはいっている……おっと虫の死骸だ。ポイポイっと。
よし、これで掃除は終わり。
次は点灯して動作点検だ。そう、点火ではなく点灯なのである。スイッチいれて電球が明るくなるのと似たようなもので、電球の代わりに結晶が光る。魔物除けも連動する仕組みで、外側の水晶が緑にひかれば問題なしだそうだ。点検作業はこれだけである。
なお普段はタイマー式で点灯するそうだ。仕組みがさっぱりわからん。そのうち授業でやるだろうか。
管理番号を確認し、点検リストにチェックをいれる。これでひとつ目完了だ。
脚立を降りて、道具をかついで次へ。たまにまわり道をしなければならなかったりして、作業より移動に時間を使うな。
スタートが遅かったせいもあり、半分やらないうちに昼の鐘がなった。だがお弁当はなし、門も遠い。こりゃお昼おあずけだな。水筒でごまかそう……
空腹をおともに仕事を続け、七基目。
「うっわあ……現場ここか……」
地面は荒れ、壁には爪痕やらぶつかったような跡がある。外壁灯は外見はぶじに見えるが、どうなんだろう。
作業しようにも、このままでは足場が不安定だ。そこらへんの石を使って地面をならし、応急処置とする。ちょいとグラつくが……まぁ、だいじょうぶか。壁の補修はこれからなのかな、地面もそのときについでにやってもらえるんだろうか。ギルドへの報告のときに一応伝えるか。
「んっ? あかない……固い? ひっかかってる?」
ちょっと変形してしまっているのか、灯りの扉の動きが悪い。なんとかこじあけたが、だいぶムリをした。
掃除をして起動させたが、案の定点灯しない。
あ、魔術文字が削れてる。これじゃつかないな。部品を交換してもう一度。
「お、よし。ついたついた」
しかし、扉はどーすっかな。このまんまってわけにはいかんし……あかないていどに閉めるか。
やれやれ。
残りの三基はなにごともなく、十基すべて完了した。




