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歌う工房  作者: リコヤ
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勉学の日々と小さなひと区切り

 級長が教えてくれたミスケーレについて自分でも調べてみようかと思いたち、同じく興味をしめしたアイナとつれだって図書館にやってきた。

 マリアース学園の図書室は別館として独立していて、図書館と呼ぶほうがふさわしい規模である。学園自体の歴史が古いこともあって、近隣でも有数の蔵書数だそうだ。貸し出しは在校生のみだが、閲覧は週末限定ではあるが卒業生などの外部の人にも開放されている。

 難点は錬金術科の棟からは遠いこと。利用したくとも昼休みでは時間がたりず、行くのはもっぱら放課後である。


 大きな両開きの扉から出てきた上級生のグループの、その先頭にいた男子生徒と目があった。

「あっ、おまえ……!」

 グループの仲間とわかれ、足早に近づいてくる。

「おまえに聞きたいことがあったんだ、ちょっといいか?」

「……誰だ?」

 上級生に知り合いはいないのだが。

「って、なんであたしに聞くのよ」

「いやアイナなら知ってるかなぁと。つい」

 なにせクラスいちの情報通、うわさ好きである。

「まてまて、おまえ、俺の顔おぼえてないのか? 運動大会で競った仲だろ? 勝ったのは俺だけど」

「……あー、一位の人」

 条件があうのは一人しかいないが、この人だったっけか。顔をおぼえていないなぁ。

「まぁいいや。俺はアントニー・マキュー、文武科三年だ」

「リツ・アンネール、錬金術科一年。で、聞きたいことってなんだ?」


「竜巻事件のことだ。あの竜巻、魔法階段に近づいたところで結界にぶつかって消滅しただろう? でも誰が結界の魔術を使ったのかわからないんだ。犯人を捕まえるほうを優先したから、解析がまにあわなかったらしい。おまえあの時、なにか見なかったか?」

 結界なんて高度なやつじゃないんだが……バレるとめんどくさそうな気配がする。しらばっくれよう。

「…………渦巻いてる風しか記憶にない。地面のほう見とらんし」

「そうか。そうだよなぁ」

 聞いたものの期待していなかったようで、先輩はあっさりとなっとくした。


 アイナがおそるおそるといったふうに身をのりだした。自己紹介をしたのち、

「大きい結界をつくる魔術ってむずかしいんですか?」

「いや、きちんと手順を踏めば、難易度はそう高くない。ただあの竜巻に瞬時に対応する……しかも誰にも気づかれずに展開するとなると、相当の実力がないとできないな」

「へぇ~? 魔術の実力」

 ってなんだ? 魔術を使う存在というと、わたしが思いつくのは親父どのくらいなのだが、参考にしちゃいかん気がする。そもドラゴンであるし、息をするのと同じように魔術を使うからな。

 アイナも首をかしげる。

「わたしたち魔術語は教わっても、魔術の授業はないから、どうむずかしいのか、よくわからないです」

「あぁ、そうか」


 俺も基礎しか知らないんだが、と前置きし、言葉を選びながら先輩は説明してくれた。

 魔術は基本、規模と威力で呪文の複雑さや長さが変わる。呪文の長さは発動までの時間と比例する。くだんの結界はとにかくサイズが大きかったから、おそらく呪文もかなり長いだろう。

「でもちょっと思いだしてみてくれ。例の竜巻があらわれてから消滅するまで、かなり短かっただろう? ということは、長い呪文を高速で唱えたか、短縮したんだ」

 高速詠唱や呪文短縮は高等技術であり、学生のうちからできる人などめったにいないとか。

「なるほど、だから相当な実力者ってことなんですね」

「竜巻の呪文を唱えているのに気づいて、とめられない代わりに同じタイミングで結界呪文を唱えた……って可能性も、ゼロじゃないだろうが……物理的にとめるほうが確実だから、この説はない」

「魔術を使おうとしてるって騒いだほうが早いですもんね」

 そうだ、と先輩はうなずく。

「ありがとう、時間とらせたな。なにか調べものか? 俺けっこう図書館利用してるから案内してやれるぞ」

「いやだいじょうぶ。だいたい目星はついてるから」

「そうか、じゃあな」


 去っていく先輩を見送りながら、アイナはほぅ、と息をついた。

「竜巻事件か~。あたしちょっと離れた位置にいたから、竜巻自体は全体が見えてたんだよね。それがリツのいる階段に近いじゃない? あんたになにかあったらってこわくって、途中から目つぶってた」

「仮にあれが階段にぶつかってたらどうなってたんだろうな…………いやこわいから考えないでおこ」

 それに親父どの直伝の防御方法がある以上、起きるはずのないことだ。無意味である。

 その後ぶじに目当ての本を見つけ、その内容を確認し、あらためて級長のミスケーレにたいする情熱を思い知ったのだった。



 ショリショリと乾燥させた木の根っこを削っている。今回の課題は、薄すぎず厚すぎず均一な厚さと大きさで削りだすこと。道具はシンプルなペティナイフ一本だ。切る・きざむ・削るなどの植物素材の下処理は、これしか使わない。

 入学してから二ヶ月がたち、錬金術の授業内容に実習がふえてきた。もっぱら素材の下処理の練習である。今のところは植物や岩石などで、冬休み後からは生物の解体もやっていくそうだ。基本薬剤の調合練習も、たまにある。錬金術は基礎部分が巨大である。


「道具を正しく丁寧に扱えない者、素材を適切に処理できない者に錬金術をおこなう資格なし」「基礎をおろそかにする者に研究の発展なし」がルカレリ先生の口癖だ。基礎を重要視する先生の講義は、たとえばナイフの切れ味が悪いと下処理のできに大きく影響するので、研ぎの練習……どころか砥石の選び方からはじまる。錬金術のノートに砥石についてが丸々二ページも費やされるとは思いもよらなかった。

 ただの水や砂粒で正確な計量の練習をしたり、そこらの雑草や剪定枝で切る練習をしたり、岩石や木の実を砕いたりすりつぶしたり……内容は地味だが、だからこそ合格ラインがきびしい。

 魔力で水晶を砕くのは、かなり簡単な下処理だったのだ。わたしだけ未だに合格をもらえていないがな。


 削られた木の根っこの山から、合格ラインに達していそうなものをよりわける。

「うへぇ……二割ちょいしかない」

「あたしはもう少しある……三割近いかも!」

「俺は……一割だな」

「ぼくはなんとか一割と少し、か」

 錬金術の実習は専用の実習室でおこなわれる。理科室みたいなもの……いや、そのものだな。大きなテーブルに数人ずつ着席するのだが、運動大会以降、あのときのチーム分けが定着した。相性もいいのだろう。

「エイミス、コツを教えてくれないか……持ちかたか? 動かしかたか?」

「ん~……バルフォアはそうね、ナイフの持ちかたがよくないかも。それだと指痛いでしょ」

「こう、か……?」

「うん、そっちのが疲れないと思うわよ」

「あぁなるほど……ぼくも持ちかた変えたほうがよさそうだな」

「ちょっトウラー、こっちに破片飛んできたぞ」

「わ、ごめん、アンネールさん」

 なんとなくあった壁が薄く低くなり、お互いに遠慮なくチェックしたりアドバイスを交わすほどだ。


 座学と実習でひたすら基礎を積みあげていく日々はあっというまにすぎていき、季節は変わり冬になった。年末、そして二十日間の冬休みである。年末年始をはさんで十日間は寮も閉鎖されるため、事情がなければたいていの学生は帰省する。とどまる学生は学園と協定をむすんでいる町の宿ですごすそうだ。

「長距離乗合馬車の割引、しかも往復切符で! これすっごいたすかるぅ~!」

 実家まで馬車で片道五日というアイナは、手にした切符を高々とかかげて歓声をあげた。彼女が利用するそれは、高速バスみたいな長距離専門の馬車便だ。馬と御者を代えながら、一定の町と町をむすぶ。専用もしくは提携の宿泊施設もセットになっているという。

「俺は隣町から飛空艇利用だ」

「ぼくも」

 こちらは少々お高い交通手段である。学生の帰省においそれと使えるものではない。この二人はどうも富裕層らしい。

「リツは?」

「友人が転移でむかえにくる」

「いっちばんめずらしい手段だわね……」

 しばらく前にキーア=ネインから手紙がきて、そういうことになったのだ。わたしは冬休みのあいだにやらねばならないことがあり、移動に時間をかけられない。そもそも馬車に乗れないしなぁ。


「――では諸君、気をつけて休みをすごしてくれたまえ。そしてできることなら、復習の時間をとるように」

 淡々としたルカレリ先生の言葉で、今学期は終了した。


続きは現在執筆中です。更新再開は6月下旬~7月上旬を見込んでいます。

今しばらくお待ちください。


読み返してみたら「ここいらない、これくどい、ここただの設定語りだハイ削除! でもこっちはたりてない!」で三分の一くらい書き直しです。

あとその次の分がほぼ白紙なので、これも進めねば……と行ったり来たり。

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