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歌う工房  作者: リコヤ
19/20

運動大会-当日-3

 第一種目、見た目は非常に地味である。選手が指定位置を往復しているだけだ。クイズに正解すると大きな○の書かれた板がかかげられ、選手に腕章がくわえられるので、状況はわかる。

 どんなクイズが出ているのか、トウラーは苦戦しているようだ。三往復したが、腕章はまだひとつにとどまっている。どのクラスもなかなか三つの腕章に手が届かないでいるから、遅れているわけではない。


『第一種目、最初にクリアしたのは文武科三年二組、おっと、ついで二年一組が抜けた!』

 どんなクイズなんだろうな。知識を問う系統じゃないのかも。トンチとか。

 トウラーはけっきょく、六位で次のアイナにタスキをつないだ。悪くないと思う。

 走り出したアイナは、けっこうだいたんに平均台を飛び移っている。平均台というよりは背もたれのないベンチみたいだ。落ちたら一台戻るってペナルティがあっても、幅が広いからそうそう足を踏み外さないだろう。じっさい、動きがぎこちない走者でも落ちずに進んでいる。

 お、ひとつ順位あがった!


「気をつけてー! でもがんばれアイナーッ!」

「行け行けー!!」

 会場に出てきて気づいたが、うちのクラスの盛りあがりがすごい。大半が立ちあがっているし、椅子の上で跳びはねているのまでいて、ほかのクラスに比べて応援の熱がダントツに飛びぬけている。いや、ほかが静かすぎるのか。

「おまえらのクラス、応援すごいな。みんなして熱血なのか?」

 ふいに、近くにいた男子生徒が話しかけてきた。第四種目はまだ走者が来ないのでヒマなのだ。

「いや、食欲とノリだと思う」

 食欲って、と彼はひとしきり笑い、

「でもめずらしいよなー、この時期の一年で、クラスで団結するとかさ。全員ライバル、全員敵! ……なんてやつのほうが多いもんだよ」

「級長のおかげだろうな」

「そりゃさらにめずらしい」

 日本の学生時代をふくめても、たしかにめずらしいかもなぁ。一匹狼をきどるとか、集団行動になじめないひとがいてもおかしくないのだ。きのうも思ったけど、ノリのいいクラスなんだよな。


『文武科が順当にクリアするなか、またしても錬金術科一年が大健闘です! 四位とほぼ同着でゴール、タスキが渡されました!』

 ナイスだアイナッ!

 この結果に応援席の我がクラスメイト、飛び跳ねているのまでいる。六位からの追いあげだからな、わかるぞ。


 アイナからバルフォアへ、タスキが渡される。

 第三種目は、あとから追いつくのが少々むずかしい種目だ。先行していればいるだけ、すでに獲得している点数があり、その分有利だからだ。

 見ていると、バルフォアは意外と反射神経がいい。次々と光ったアイテムを手にいれ、かなりの速さで点数をかせいでいる。

「ホントに今年の錬金術科一年はめずらしいのがそろってるんだな。運動嫌いが多いのが普通だろ。な、おまえもこの位置の出場者ってことは、自信あるんだろう?」

 また話をふってきた彼はたのしそうである。この言いかた、上級生だな。

「自信というより得意ってだけだな」

「へえ? ……ん? おまえ、その目……獣人か?」

 しげしげと目をのぞきこまれた。

「いや、ちがう。ご先祖にいたのかもしれんが」

 ――という設定である。


 冒険者登録をすると決めたときに考えたのだ。説得力のあるウソを作ってもよかったが、あんまり具体的にするとつっこまれたときにボロがでやすい。それにいつかまちがえるかもしれない、という心配もあった。

 ウソは言わずにわからない、で押しとおせば、聞いたほうが勝手に補完する。その補完がそれぞれにちがうのはわたしのせいじゃないから、その人たちのあいだで話が食いちがいがおきてもかまわない。そういうスタンスでいることにしたのである。

「おまえだけ先祖返りしたのか?」

「さぁ? 血縁いないんでわからん」

 これは事実である。


 この世界は魔物がいるせいか、親類縁者が少ない・いないのはめずらしくない。だからこう言ってしまえば、だいたいはそこで話は終了する。たまにつっこんでくるのもいるが、この先輩は遠慮してくれるタイプだった。

「そうなのか…………おっと、出番だ! お先に!」

 ちょうどよく先輩はバトンタッチエリアに走っていった。

『第三種目、一位通過は文武科三年一組! おっと、次の出場者は文武科三年ツートップの一人、ブラックリーだーっ!』

 有名人だったらしい。

 それから二位、三位と選手が続き、やや遅れて二人の走者が同時に走りこんできた。片方がバルフォアだ。

「すまん、頼む……ッ!」

「まかせろ!」

 順位はあがらなかったが、四位と同着なら入賞を狙える位置だ。タスキを受けとってななめがけにし、的当てゾーンに走る。


 係員の生徒からボールの入ったかごを受けとり、投擲位置へ。的までの距離は五、六メートルといったところか。的は四角い板で、中央から10、5、1と同心円のエリアが書かれている。とうぜん10のエリアはとても小さい。規定点数は30点。この点数の確認は係員がやってくれる。

 っし、行くぞ! とにかく中心を狙って投げるのだ。

「せいッ!」

 ボールは玉入れのと同じものだな。やわらかいため、どうしてもゆったりとした放物線をえがいてしまう。

「1、1、1、1」

 だーっ! 5点エリアもむずかしい!

「5、10! 1、1、5、1」

 あと……3点!

「1、5! 錬金術科一年クリア!」

「よっしゃァ!」

『おぉっ!? 錬金術科一年が三位で通過だ! 上位争いは混沌としてきましたっ』


 バトンタッチエリアに駆けこむと、連続出場になるわたしは、たすきを渡す代わりに台紙にサインを求められた。だいぶなぐり書きではあるが、読めたのでよしとしてくれた。

 最終種目は魔術で作られた足場をのぼって、てっぺんの旗を取り、反対側へおりていく、というもの。おりきった最後は徒競走だ。

「うーわ、遠目より段が高い。てっぺんも遠い」

 一段の高さが一メートルちょっとくらいあり、よじのぼっていくしかなさそうだ。そのぶん山も高い。三階くらいか?

「リツー! がんばってー!」

「のぼれアンネールーー!」

 遠くから聞こえる声援を受け、一段目にとりついた。まずはてっぺんの旗まで!


「よっ」

 ……ふむ。足場はエーテル密度がかなり高く、しっかりしている。それにすべらないから思ったより安定してのぼっていける。

 一位はそこそこの高さまで進んでいて、上りで追いつくのはむずかしそうだ。後半の下りでいけるかもしれん。同率二位の選手は……あっさりと追いぬいた。これで単独二位だが、下りで追いぬかれる可能性もある。油断は禁物だ。

 順調にがしがしと足場をのぼっていく。うーむ、キーア=ネインのスパルタ訓練を思いだす。全身運動ということで、崖のぼりをよくやった。あの訓練がこんなところで生きるとは。

『早い、早いです錬金術科一年! 文武科三年一組にどんどんせまるッ』

 さすがにちょっと息があがってきた――というところで、頂上にたどり着いた。旗は手のひらサイズでかわいらしい。

 よし、あとは下りだ!


『先頭は後半戦に入りそうです! 後続の皆さんもがんばれ…………んんっ!? なんだ……?』

 突然、強風が吹きつけてきた。あおられて少しよろめいてしまい、あわててしゃがみこむ。落ちたら大ケガだろう。あっぶなー。

 風はうなりをあげて吹きつけてくる。ときおり砂粒が飛んでくるのが地味に痛いし、目をあけていられない。この強風のなか足場をくだっていくのはきびしいぞ。

『――選手の皆さん足をとめて! しゃがんでくださいッ!』

 マイクの音声が割れんばかりの緊迫したアナウンスがながれる。

 なんだ?

「たっ……竜巻だッ!」

「逃げろ!!」

 腕で顔をガードしながら風のふいてくるほうに目をやると、うずまく強風が、すなわち竜巻がこちらに近づいてきていた。

「うわーっ!?」

 ここ頂上だぞ、隠れる場所も逃げ場もない!

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