運動大会-当日-2
配布されたボールは野球ボールとお手玉の中間くらいの大きさで、重さもそんなものだ。低反発なもっちり感があり、はずまない。中になにが詰まってるんだろうな。軽くほうってみた感じ、投げにくくはない。うまく投げられるかは別問題だが。
黒ボールは級長とニーロ・フフタ(第四レースで二種目出場する運動能力の高い男子である)が担当する。
かごはグラウンドの四隅に配置されていて、そこからスタートだ。
『ではレディ……』
かごがふわりと浮く。近くで見ると高く感じる。
『スタートッ!』
「うりゃっ!」
先陣きってボールを投げた。が、はずれ。次――入った!
「っしゃぁ! ほらみんなもとっとと投げる!」
「お、おぉ!」
返事をしたフフタをかわぎりに、クラスメイトたちもいっせいにボールを投げはじめた。赤いボールがかごの周囲を行き交う。
そして全員が手持ちを投げ終えたら、作戦開始だ。
「リツ、はいっ次のボール!」
「おっけぃ!」
拾い役のチェロがちょこちょこ拾って渡してくれる。
「あ……! 黒ボール……こっちで回収して挑戦しますっ」
「かごが移動してる! まわり気をつけろー!」
飛び交う声を聞きながら、渡されるボールを次から次と投げていく。
「黒ボール二つとも入ったっ!」
級長の声がした。ならばあとは、赤ボールで点数を積みあげるのみ! まわりに注意しつつ走りまわり、ボールを受けとっては投げる。入ったかどうかは見ない。そんなん見届けている時間も惜しい!
競技終了の合図の時には、みんな息があがっていた。へたりこんでいる者もいるな。
その成果は、半分近くまでボールが入ったかごにあらわれている。上気した顔でそれを見あげるクラスメイトの表情は、やりきった満足感があった。
やったんじゃないか、これ。
「――おい、ちょっと待てよ! お前らルール違反じゃないか!?」
水をさされた。声のほうを見ると、数人の男子生徒が肩をいからせてこちらをにらみつけていた。運動服だと学年がわからんが、上級生っぽい。
「ルール違反って、なにが?」
近くにいたので聞きかえした。
「お前ら、ほかのクラスのボールまで拾ってただろう! 妨害行為だ!」
「落ちたのは拾って投げていいって言ってたろ。それに赤いボールにクラスの縛りはないからな」
「そんなはずは……」
「あの、ぼくらはルールを守りましたし、学生会にも範囲内だと確認をとってます!」
かけつけた級長がそんなことを言った。いつのまに、と見ると、
「きのうの放課後、聞きに行ったんだ。緊張したよー」
級長は行動派だな。
「そのとおり、彼らの戦術にルール上の問題はありません。これ以上騒ぐようなら、あなたがたのクラスは減点しますよ」
「……そうかよ!」
腕章をつけた学生会の生徒にそう言われ、上級生たちは舌打ちしつつも引きさがった。
『お疲れさまでしたー! 第三戦の皆さん、席に戻ってください! では最後の集計、開始ですッ』
さーて、いくつ入って何点かな。黒ボールは二つとも入ったし作戦どおりに動けたしで、みんなわくわくと結果を待っている。
『では結果発表ですッ! 一位は57点の錬金術科一年だーッ!』
「ぃよっしゃー!」
「やったー!」
ガッツポーズし、アイナとハイタッチ。周囲から手が次々とさしだされ、みんなとも手をたたきあってよろこんだ。
「リツの作戦、大当たりね! 完璧!」
「だなー。赤ボール37個ってすごいよ。それに黒ボールしっかり決めた二人がえらい!」
「うんうん、がんばったよね!」
総合順位がわからんが、これまでの結果からみて、わたしたちはかなり上位だろう。入賞は遠くないはず。
これがはずみとなってさらに順位を押しあげ――とはいかなかった。第四レースは四位という結果になってしまった。
『一位から三位を二、三年が占めました! 一年生に負けてはいられぬと意地をみせた形でしょうか? しかしそれでも四位にくいこんだのは錬金術科一年! 熱い戦いがくりひろげられております!』
第四レースの出場者、とくに二種目に出場したフフタはどんよりとしている。
「すまん……」
「あやまることなんてないよ、ニーロ! 上級生の文武科相手に四位……しかも僅差での四位なんて快挙だよ」
「でもオレは勝ちたかった。あークッソー!」
普段から熱血な言動が多いフフタは、心底悔しそうに叫ぶ。それから最終レース出場のわたしたちに指をつきつけ、
「おまえら! 負けんじゃねェぞ! とくにアンネール!」
「おう」
わたしだって負けたくない。
『最終レースの前に、おどろきの発表です! なんと今現在、同率一位が三クラスあります。その内訳は、文武科三年一組、同じく二組、そして錬金術科一年! しかし、二位以下も僅差! 最終レースの結果次第ではひっくり返る可能性も大きいッ! 大接戦です!』
マジか。
「え……入賞できるかも、なの……!? えぇえ、責任重大じゃない!」
こわくなってきた、とアイナは頭をかかえてしゃがみこんでしまった。
「うっ……胃が痛い……」
「さすがにこれは……」
バルフォアとトウラーまでもが緊張気味のうしろ向きな発言である。
「落ちついて、三人とも。気負わなくていいんだから」
おだやかに級長が声をかけてくれたが、
「あァん? なに言ってんだテッド、ミスケーレがかかってんだぞ。おまえがいちばん欲しいんだろ! ンなのんきなこと言ってる場合かよ?」
「そ、れは、うん………………ごめん、がんばってほしい……」
フフタの言葉に、じつにあっさりと意見をひるがえした。ミスケーレはそんなに魅力があるのか。
「リツは……なんだか平気そうね」
そう言うアイナも、言葉ほど緊張していないように見える。
「平気っつーか。やれるだけのことしかできんからなぁ」
相手がいなければ試合にならないが、勝ち負けは結果でしかないのだ。全力を尽くすのみ。
「ま、そうね。できることをやるのみね! ほら二人とも、気合いいれてシャンと立つ!」
アイナに活を入れられた男子二人も、顔色は悪くない。
『最終レースの出場者の皆さん、集合してください』
「おーし、行くか~」
「アンネールおまえ、もうちょっと気合い入った言いかたしろよ!」
「だいじょうぶだよ、リツの顔はけっこうやる気に満ちてる!」
「気をつけて、がんばってね!」
「よろしく頼むねー!」
わたしたちは声援を背にグラウンドへむかう。まずはレース内容の説明からだ。
第一種目はクイズ。前方で待つ係員にかけよって回答する。これを三問正解したらクリア。
第二種目は平均台の連続飛び移り。長さが二メートルくらいの平均台がコース上にランダムに離れて並べられている。平均台から落ちても失格にはならないが、ひとつ前からやりなおさなくてはならない。
第三種目は……早取りとでも呼ぼうか。棚に置いてあるアイテムがランダムに光るので、光っているあいだに回収する。規定数集めたらクリアとなる。
第四種目は的当て。点数が書かれた的にボールを投げ、規定点数に達したら次に進める。
最終種目は魔法足場の飛び移り。第二レースにも似たようなものがあったが、あれとちがって高さがあり、見あげるほどである。てっぺんに旗があるので、それを回収して下ってくる。
出場順を決めるのにバルフォアが口火をきった。
「俺は第三にさせてもらえないか? なさけないが、それ以外には……できそうにない」
「じゃあ、あたし第二させて。あたしどうも、投げるのヘタみたいだし……クイズもちょっと」
「……ぼくは第一、しかないな。すまない、アンネールさん」
「おぉ、最後二つ連続か。わかった」
係員に報告し、各自スタート地点に移動する。
『皆さまお待たせしました。大運動会最終レース、スタートです!』
ピーッ! 合図の笛の音が高らかにひびいた。




