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歌う工房  作者: リコヤ
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錬金術科の一年生-4

 再集合してまっさきに、アイナが買ったものを披露した。手のひらサイズの小さな絵だ。まるっとした黄色い小鳥が枝にとまり、ときおりぴょんぴょんと跳ねる。

「魔法工芸の絵か。かわいいな」

「愛らしいわね」

「でしょ! 机にかざるんだ~」

 満面の笑顔である。

 セシルはなにも買わなかったそうだ。

「すてきなティーセットを見たけれど、みおくったわ」

 さすがに寮生活でティーセット購入はなぁ。部屋も狭いし、保管に苦労するだろう。


「わたしはこれ。スクロール」

 ぺら、と広げていわくまで話すと、二人は首をかしげた。

「なんだかヘンなものを買ったのねぇ」

「蚤の市らしいといえばそうだけれど」

「でもこれ書いたの、錬金術師だと思うぞ」

「どうして?」

「これ、サイン。なにかの教科書で見かけた」

「えっ! それだったらホントに宝の地図かもってこと!? あとでよく見せて!」

「おう。んじゃ、これで蚤の市はきりあげるか。おなかもすいたしな」

 けっこう歩きまわったし、ちょっとゆっくりすわりたい。


「お昼どうしよっか。お天気いいし、露店で買ってきてそのへんで、でもいいよね」

「……セシル、露店でも平気か?」

「えぇ、かまわないわ、だいじょうぶ。お祭りで見るの、好きだもの」

「よかったー! じつは買い物ついでにおいしい露店情報も仕入れたんだ。ふふふ、さっそく役に立つぅ~」

「ぬかりないわね。さすがだわ」

「頼りになるな」

 三人とも道がまだ不案内だから少し探してしまったが、紹介された露店のサンドイッチ(ハード系のパンに葉物野菜とサラミがはさんである)はとてもおいしかった。価格もリーズナブルで大助かりである。

 そしてなんと、アイナが行こうと思っていた古着屋が近かった。学生御用達らしく安価で、そのわりに丈夫で、実習用にはちょうどいい。上級生らしい姿もあった。卒業まではここに世話になろう。



 夕食後、アイナとセシルが部屋にやってきた。狭い部屋に三人は、けっこうぎゅうぎゅうだ。部屋の行き来をするといっても入口でやりとりするくらいで、入室は今回がはじめてだ。

 机でははみだしそうだったのでベッドにスクロールを広げ、四隅に重しを置いて固定する。わたしの左右から二人がのぞきこむ。


 いつごろのものなんだろうな。紙の外側が少々日焼けしているくらいで、内側の文字と絵にかすれはない。まず数行の文章。そのとなりに三つの丸と、やや大きめの三角が一つ書かれている。そこから下は空白――だがエーテルが集まっている部分――で、一番下にサインがある。

 やっぱり一番気になるのは、古語で書かれた最初の文章だ。

「これ、詩か?」

 まぁまぁクセ字だが、読みやすい。


 《十月十七日、ゼデルーデのドレスが太陽と風にはためき、

  七月二十二日、トロヤトロイではローブから水がしたたる。

  フェルデの燃えるバラは雪のごとくきらめいた。

  完璧なつり合いは礎のゆりかごを安らかなまどろみに導く。

  目ざめよ、薄紅の狂える月がのぼる!》


「……うーん。意味わからん」

 具体的な日づけはなんだ? 燃えるバラ? 植物――じゃないよな、それが雪のごとくってなんなんだ。

 なぁ、と同意を求めると、二人はぽかんとした顔をしていた。だよなぁ。


「ちょっ、と。待ってリツ。先に気になることがあるんだけど」

「なんだ?」

「あなた古語読めるの!? しかも辞書なしで!?」

 すごい形相でアイナにつめよられた。そっちか。

「読めるよ。こっちを基本におぼえちゃってるから、むしろ現代語? 書くほうが苦手」

「古語が基本!? そんなことあるの!?」

「長命種にでもかこまれて育っていなければ、ありえないわ……」

「わたしに読み書き教えてくれたのエルフがほとんどでさ。ちょっとしたうっかりって言われた」


 マジでうっかりだった。

 古語とは今から三千年前の、古代トルゴラ文明時代に使われていた言葉をさす。文明はほとんどが滅んだが、文字はエルフなどの長命種族がそのまま使い続け、新しい言語が出てきても、古語として残った。

 わたしが接していたのはドラゴンとエルフで、つまり長命種族だ。勉強に使っていた本も古ければ、差し入れられた本も古かった。町に出るようになって「なんか書きかたが違くないか」と指摘し、判明した事実だった。

 キーア=ネインは普段冒険者として活動して現代語をよく見ているが、自分の読み書きのベースが古語であるため、まったく違和感をおぼえなかったのだそうだ。

 必死におぼえた読み書きが、現代ではほぼ使われないと知ったときのむなしさよ……あのときのショックは忘れがたい。

 そこから現代語も並行で勉強し読み書きをおおむね習得したわたしは、めちゃくちゃ優秀だと思う。教えてくれるほうがスパルタだった、てのも大きい。もっとも、現代語のほうが苦手だし、作文書くと混ぜて使ってしまうが。


 そんな事情を軽く話すと、

「あーなるほど……」アイナは深くうなずいた。「リツのノート、ちょこちょこヘンな綴りの単語がでるのはそのせいなのね」

「それはずいぶんカオスなノートね」

 メモ書きなんか日本語だしな。

「でもリツのノートって見やすいよ。絵とか図解みたいなのもうまいよね」

「あら、そうなの? 参考にさせてもらいたいわね」

 小・中・高プラス大学数ヶ月、授業のノートはとり慣れている。


「それはかまわんが…………まぁそんなことより」

 わたしは話を戻す。

「この文章、意味わかるか?」

 サッパリ、とアイナもセシルも首を横にふった。

「こっちの丸と三角、なにかな? ラクガキっぽいけど、きっと意味があるんだよね」

「あるのでしょうけれど……あまりにも抽象的だわ。暗号ね」

 三人そろってうーむ、と首をひねる。が、ひらめくものはなにもない。

「ねぇリツ、そもそもこれがなんなのか、先生に聞いてみちゃうってのはどう? あたしたちだけじゃ、なんにもとっかかりがないよ。なさすぎる」

「だなぁ。このサインくらいしか今んとこヒントないし」

 どの教科書で見かけたんだったかな。


 そこで、ゴーン……と重たい鐘の音が響いた。十時の就寝の鐘だ。

「わ、もうこんな時間! あしたの支度してない!」

「わたしもよ。部屋に戻るわ、おやすみなさい」

「おやすみー」

 日本にいたころから考えると就寝時間が早めだが、寝坊するといろいろたいへんなのだ。具体的に言うと、食堂までが遠くて食事の時間がなくなりかねない。

 机に広げたスクロールをきちんと巻きなおし、通学鞄の横に置いておく。ルカレリ先生がなんとコメントしてくれるか、楽しみだ。



 翌日放課後を待って、ルカレリ先生にスクロールを見せた。

「ほぅ……おもしろいものを手にいれたな。錬金術師の手によるスクロールか」

「え? どこでそれがわかるんです?」

「これだ」

 先生はスクロールの絵をしめした。丸が三つと大きめの三角のアレである。

「いずれ教えるが、この図は錬金術の製作記号だ。つまりこの文章は、なんらかの品の製作法レシピである――と予想できる」

「えっ、このわけわからん文章が!?」

「錬金術師は独自の製作法を独自の表現で書くのだよ。その理由はさまざまだがね」

 例えばおおやけにはしたいが危険物だったり、記録に残したいが知られたくなかったり、あるいはただのいたずらだったり。


 しばらく文章をながめていたルカレリ先生は、

「これはかなりやさしい暗号だな。古語だが、授業が身についていれば、一年後には読めるようになっているだろう」

「……読めるだけなら読めるんだがな……意味がな……」

「そういえば、アンネールは語学が得意だったな。だが解読も同様だ。一年後には問題ないだろう」

 …………想像つかないな~~。

 横で見ていたアイナが手をあげた。

「じゃあ作れちゃったりもしますか?」

「材料をそろえられれば、だな。難易度はそう高くない」

「あーそっか、材料……」

「これ以上のヒントはひかえておこう。あとは自分たちで考えてみるといい」

「はい。ありがとうございました」

 予想以上に情報をもらえた。錬金術のレシピか。これは俄然たのしくなってきた。


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