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歌う工房  作者: リコヤ
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錬金術科の一年生-3

 ベッドにつっぷして、ふてくされて沈んでいる。チーン。そんな音が頭上で鳴らされている気がする。

 あれから二週間。毎日瞑想と魔力コントロールの練習をしているが、ぜんっぜん、まったく、サッパリ、うまくいかない。

 自分の魔力はくっきり感じられるようになってきて、瞑想の効果はある。それにともなってコントロールも上達する、はずなのだが……これがなかなかうまくいかない。はじめに比べればお椀魔道具からわいてくる雲はへったが、あふれていることに変わりはない。

 同様にコントロールに問題ありだったバルフォアは、先日、みごとに課題をクリアした。

 マズい、ヤバい。今のままでは錬金術科の課題がクリアできなくなってしまう。年明けまでにできればいいのだ、時間はある、とルカレリ先生はなぐさめてくれるが、あまりにも進歩がない。


「は~~…………」

 なんでこんなにうまくいかない。なにが悪いのかがわからない。ていうかさ、地球人に魔力をあつかうなんてこと、ムリなんじゃないか? だってそもそも持っていなかったものなんだしさ。

 はぁ、ぐだぐだとベッドにころがっているとダメだ。マイナス思考ばかりしてしまう。起きて気をまぎらわせよう。娯楽アイテムがないから、できるの勉強しかないけど。

 ……日本の学生時代より勉強漬けである。


 ノロノロ体を起こしたところで、扉がノックされた。元気な声が続く。

「リツ~、アイナとセシルだけど!」

「あいてるぞー」

「おじゃまするね」

 マリアース学園寮は狭いながらも全室個室だ。最低でも二人部屋と想像していたから、入寮時にはちょっとおどろいた。

 わたしがいちばん廊下奥の部屋で、セシルが隣、アイナはそのまた隣の部屋である。入寮初日に会ったせいかちょくちょく行き来する仲だ。とはいえいっしょに来るのは珍しいな。セシルは文武科で交友関係も違うから、朝と夜の食事時くらいでしか顔をあわせないことが多い。


「どうしたんだ?」

「今度の週末、町で蚤の市があるんだって! 三人で行かない?」

 じゃーん! とアイナはチラシをかかげた。

「四カ月に一度、定期開催してるんだって。規模はそんなに大きくなくて、のんびりまわれるみたい」

「それと町の散策もどうかしら? まだほとんど行ったことないでしょう?」

「いいな。あ、古着屋も行きたいんだ。ついでに行ってもいいか?」

「えぇもちろん。でも……古着でいいの?」

「新品は高いし、縫ってる時間もないからな……あとどうせ実習で汚れる」

 既製服の店はあるが、ちょっと高い。気軽に買えるファストファッション系の店はないのだ。庶民が服がほしいと思ったら、布を買ってきて自分で仕立てるのがいちばん一般的なやりかただ。だがわたしはちょっとしたつくろい物ていどならできても、服を仕立てる技術はない。ゆえに古着屋をよく利用する。

「わたし、古着屋さんって行ったことないわ。楽しみ」

 いいとこのお嬢さんぽいセシルは、やはりお嬢さん(そう)であったようだ。

「実習ってけっこう汚れるもんね。あたしも一着くらい買おっかな。お店の情報仕入れなくっちゃ!」

 アイナは自らうわさ好きを公言し、そして事実、情報通である。まかせておけば間違いない。

 いい気分転換になりそうだ。



 その週末、寮の玄関やラウンジは出かけようとする学生たちでにぎやかだった。

 大半がルカレリ先生に「勉強になるから行ってみろ」と発破をかけられた錬金術科である。モノがなんであろうと、見て知るだけでも今後の財産になる、と先生は言っていた。

 蚤の市は町の西側にある広場での開催だ。学園は東側にあるので、移動は町を横ぎるかたちになる。同じタイミングで出発しぞろぞろと会場にむかうさまは、さながら団体ツアーのようだった。


「……想像よりもにぎわってんなー」

 広場がすべて露店でうまっているし、人出も多い。これで、そんなに規模は大きくない、はないだろう。

「あたしももーちょっと静かなイメージだったよ。でもたのしそー!」

 はしゃぐアイナを先頭に、露店をかたっぱしからのぞいていった。

 蚤の市は古いものを売っているというイメージだが、じっさいはもっと多彩だ。食器などの古道具だけじゃなく、古本に古着に雑貨、本業の合い間に作ったという手芸品・工芸品と、それはもう多種にわたっている。

 さらに物だけではなく、鋳物修理、魔道具修理の店まであった。


「……食べ物はないんだな」

 ジャムとかシロップとか、よくあるのだが。ひととおり見てまわって、はしっこできょろきょろしていたら、

「ここの蚤の市では禁止されているんだよ。食べ物の市は月に一回、中央広場でやってるよ」

 聞こえたらしい横の露店のおじさんが教えてくれた。

「お嬢さんがた、マリアースの学生さん……一年生だね?」

「あたりです! わかるんですか?」

 さっとアイナがよっていく。この人なつっこさ、社交性はさすがだ。

「毎年この時期の市に出してるから、なんとなくねぇ。これ、うちにあった古道具だろ、こっちはおふくろや妻が作った小物だ。買わなくてもいいから見てってよ」

 にこにこと愛想よくすすめられ、どれどれ、と並べられた品々をながめる。

 小物類は布製の小さな刺繍入りのコースターやランチョンマットだ。古道具は……なにかの取手や飾り棒、カーテンのタッセルらしき組み紐と、片づけででてきた不用品のようだった。

「家の改装でもしたのか……?」

「おっ? よくわかったねぇ」

 当たりだった。デザインや状態がいいので廃棄するには惜しいから持ってきたのだと、おじさんは語った。たいへん蚤の市らしいエピソードである。


 けっきょくなにも買わなかったが、おじさんは気にしたようすもなく、市をたのしんでねと手をふってくれた。

「さて、どうする?」

「古着屋はいいとこ教えてもらったから、そっちにしよ」

「値段どうこうより、実習用にはちょっともったいないデザインしかなかったしなぁ」

「あら、それならもう市は終わりにする? まだ早いような気がするけれど」

「うん、あたし、もうちょっと見てまわりたい」

 まったく同感だが、三人とも興味の方向が違う。相談の結果、昼の鐘が鳴ったら、入ってきた広場の入り口に集合ということになった。

 じゃあまたあとで、とアイナは手をあげると足早に人ごみのなかに消えていった。それを笑って見送り、セシルも、こちらはゆったりとした足取りで去っていった。


 さて、わたしも行くか。さっきひととおり見た中で、どうにも気になった物があったのだ。まだ売れてないといいんだが。どの露店だったか……

 てきとうにあたりをつけてむかってみると、ビンゴ。あった。

 わたしより少し年上くらいのお姉さんが店主のようだ。品物は古本が多い。あまりやる気がないのか、陳列はけっこうざつである。

「……いらっしゃい、どうぞ見ていって」

「どうも」

 目的の品は、スペースのはしっこに十把一絡げな値段で置かれていたスクロールの山にあるようだ。

 数が多いな、えぇっと……どれだ?


 ……あった、やたらエーテルが集まっているひと巻。これだ。

「あけてみてもいいか?」

「どうぞ。でもほとんどなにも書かれてないわよ、それ」

 紐をとき、しゅるしゅると広げる。上のほうに数行といくつかの図形、真ん中は空白、一番下にサイン、それだけだった。なんだ、この空白は?

「ここにあるのは全部、死んだ父が道楽で集めていたものなの。なにが目的だったんだか、ガラクタばっかり――そのスクロールはたしか、宝の地図だとか言ってたわよ」

 お姉さん、やさぐれている。


「へー宝の地図……地図なぁ」

「その空白のところに最初はあったのかもしれないわね」

「手に入れたころにはもうなかったのか?」

「みたいね。惜しいとか言ってたけど、そんなものにお金を出すほうが惜しいわよ、まったく」

 どうやら遺された品々の片づけにそうとう頭を悩ませているようだ。

「そんなわけだから、10セテルでいいわよ」

「おもしろいからもうちょっと出すが?」

「値切るところでしょ、ここは。やだわ、あんたも物好きなの? とにかく10セテルよ。そのあたりの五つ買ってくれたら40セテルにするけど?」

「いや、いらない」

 わたしは10セテルだけをお姉さんに払い、スクロールを手に入れたのだった。


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