人形劇は夜にうごめく07
公平で正義を愛するリリアンは覚悟を決めました。
みんなに正しいことを教えていくために、魔法の力を手に入れる事にしたのです。
リリアンに魔法を授けてくれると言った紳士は、目を細めて大きく節くれだった手を差し出してきます。
『さあ行こう!可愛らしいお姫様!君は全てを凌駕する魔法の力を手に入れ、やがてその望みは叶えられるだろう!この魔法博士、ヴィクトルが保証しよう!!』
そうして正しいリリアンはヴィクトルに連れられて、大きな建物へとやってきました。
生まれ育った街の中心地に建てられていた目立つ存在でしたが、リリアンはこのかた縁がなく、いつも遠目で眺めるだけだった建物です。
【ディアトン国立魔法脳科学研究所】
今日初めて間近で見た建物の真っ白な門。そこに掲げられた金属の大きな看板にはそう記されています。
脳と言う文字と研究所と言う場所に妙な恐ろしさを感じ、リリアンの体はぶるりと震えました。
『脳の研究所?いったい何をすれば魔法の力を手に入れられるの?』
問いかけるリリアンに紳士は少し笑って『すぐにわかるよ』と、己の手を引きました。
紳士とともに中に入れば、研究所は病院のように清潔で、独特のにおいがあたりを漂っています。
お医者様にも見える白衣を着たたくさんの大人が廊下を歩き回っており、紳士とリリアンをちらりと見て嬉しそう目を細めました。
『やあやあ、ヴィクトル博士!この少女がそうなのですかな!』
『まあ!ヴィクトル博士!ついに見つけたのですね!』
彼らはこちらへ歩み寄ると、喜ばし気にヴィクトルと手を握り合います。
とても楽しそうな彼らの様子に、リリアンの緊張は和らいでいきました。
場の空気に流されるようにリリアン自身もにこにこ笑っていると、『良かった!』『これで成功する!』と声をかけ合っていた者の一人がやって来ます。
彼女は女性で、顔には輝かんばかりの笑顔が浮かんでいました。
『ああ、ありがとう!貴女がいてくれればきっと私たちの目的は達成されるわ!貴女は私たちの希望よ!』
それを聞いてリリアンは嬉しくなりました。
姉妹や同級生、父も母も担任教員たちも冷たく、これほどの賛辞の言葉を貰うことはここ最近無かったからです。
『やっぱりわたしはここに来て間違っていなかったんだわ!』
自分の決定に自信を持ったリリアンを、白衣の人間たちは皆ちやほやしてくれました。
『準備が終わるまで待っていて』と案内された部屋でたくさんのお菓子をもらい、大人たちはリリアンの話を否定することなく聞いてくれました。
両親や先生、姉妹がとても酷いのだと言うリリアンの味方もしてくれます。
リリアンは悪くない、リリアンが正しいと、皆にこにこと頷いてくれます。
自分を肯定されるだけで、リリアンは満足でした。
そうしてお菓子を食べ終えたリリアンは、皆に促されるまま別室に移動し、台の上に寝ていました。
自分の真上には大きなライトがあり、周りにはドラマでよく見るような緑色の手術着をまとったヴィクトルたちもいます。
『次に目が覚めた時、君は魔法の力に目覚めているはずだからね。安心して眠っていなさい』
にこにこと微笑むヴィクトルが、リリアンの口に大きなマスクを被せます。
『何?』と問いかけようとした瞬間、意識は遠のき、いつの間にか深い眠りへと落ちていきました。
それからしばらく、記憶はありません。
───次に目覚めたときには、病院で見るような清潔で真っ白なベッドの上にリリアンは眠っていました。
体が上手く動かせません。頭がぼんやりとします。
目だけは自由だったのできょろきょろとあたりを見回していると、ベッドのかたわらには白衣を着た男が立っていました。
ヴィクトルです。彼は爛々と目を輝かせて、満面の笑みを浮かべながらリリアンに言いました。
『やあ、リリアン!手術は成功だ!君は立派な魔術師第一号なのだよ!』
おめでとう!おめでとう!と何処からか声がします。
体は動かずとも、それを聞いてリリアンはにっこりと笑いました。
『これでわたしは正義の味方よ!皆わたしの言うことを聞くといいんだわ!』




