三十六話
店が開く時間がくると古着屋で子供用衣服をカンタートに試着させてみた。それをカンタートに着せると嫌がらず着用する。
「ぐぐ」
チャゴはカンタートが店内で暴れると心配していたが、蓋をあけてみれば随分と大人しいものだった。どちらかと言えば喜んでいる様に見える。
──小邪鬼が半裸なのは、服を着る知能がないと思っていたけど…
「ぐーま?」
チャゴが考えごとをしていると、服を決めかねていると勘違いした店員がやってきた。
「げ?」
カンタートを一瞥した店員は知恵遅れの子供なんだろうといらぬ察しをしたのか、小邪鬼っぽいカンタートを人として扱い、商品の紹介と試着をすすめてくる。「今日はどういった物をお探しですか?」「よくお似合いですよ」「普段着で使えるもの?」「下衣の丈は短い方がいいと思います」「弟様には、こちらの色の方が…」「下衣は丈夫で、頑丈なもの?えぇ、ございます」「あ、そうだ、こちらはいかがですか?よくお似合いになられると思います」「数枚お買い上げ?でしたら、こちらの物を…」店員からの怒濤の販売、着せかえをさせられてカンタートはさすがに疲れたのだろう。
「げ」
しかめ面を露骨にして、店員から逃げるようにチャゴの背後に隠れた。
やり過ぎたと感じたのだろう店員が申し訳なさそうに謝ってくる。カンタートはチャゴの足にしがみついて離れようとしない。
「すいません、疲れてしまったようで」
チャゴは店員に謝りながら、カンタートの頭を撫でた。それで落ち着くのかカンタートは気持ちよさそうに目を細める。
ぢゅぢゅ。
肩の上でアングイスが囁くように鳴く。チャゴはそれに納得して頷いた。
「今着ている物と選んで貰った二着を下さい。あと頭巾付きの外套ってありますか?出来れば頑丈な…旅向きなものを…」
チャゴは細い荒縄で括られた服を受け取り、カンタートに外套を被せてやると、紐で纏められた服を指さした。
「ぐー」
寄越して欲しそうに思えるが、どうやら自分の物は自分で持ちたいらしいことは伝わってくる。
──自分の物は自分で持たすか…
紐をカンタートの腰あたりで括ってやり両手が使えるようにしてやる。
「ぐぐ!!」
カンタートが一際嬉しそうに飛び跳ねた。
チャゴが手を引いて店を出ると、カンタートは町の様子が気になるのかキョロキョロと物珍しそうに見まわし歩き始めた。
段々と人通りが多くなってきた事にチャゴは一度宿に帰るか悩む。元々、今日は何の用事もない。
──この様子だと、いつかはぐれそうだしな…
カンタートとつなぐ手が引っ張られる感覚。つなぐ手に気がついて、カンタートはそれ以上は向かおうとはしない。
古着屋の品選びと試着で気疲れしていたカンタートだが、目につく物への好奇心で、すぐさま元気を取り戻して今やチャゴに引きずられるように歩く。
革で作られた外套のせいで大型の愛玩動物と散歩している様にも見える。
「まぐ」
カンタートが時より振り返りチャゴを見る。
外套の頭巾で肌の色や顔の幾何学模様入れ墨といった不自然なものは隠れている、ただ赤い瞳は爛々としてそれはそれで目立ってしまうのだが、とりあえず小邪鬼らしさは隠せていた。
いくらカンタートが小邪鬼らしくないといっても、街中で小邪鬼のカンタートを晒すことにチャゴの中の不安は消えてくれなかった。
──小邪鬼が街中にいる…騒ぎになるだろうか…、それも魔術で生み出されたなんて知れたら…
アングイスの提案で外套を被せたことで、不安はだいぶ薄れてはいる。
「カンタ、よそ見をしていると躓くよ」
それでもチャゴの心のざわめきはおさまりきらずに、語調が強くなっている気がした。
「げー」
チャゴに窘められると気落ちするカンタートだが、また物珍しいを見つけると再びキョロキョロとし始める。
そわそわするカンタートはチャゴの手を離さないように気になるものに近づこうとした。つないだ手につんのめらないように、カンタートは途中で止まる。
それにチャゴが気がついて、カンタートに「どうしたの?」と尋ねるとカンタートは「ま?」と指を指す。指された物や人物の説明をチャゴが答えると、満足そうに見上げる。
見上げ歩きながら説明を聞くカンタートは、案の定転けそうになる。それをつないでいる手で阻止するチャゴ。
そんな行動を繰り返すチャゴとカンタート。
するとしびれをきらしたアングイスが尻尾でぺちりとカンタートを叩いた。
「まーげ!ぐーげ」
するとチャゴの手を離しカンタートが、アングイスを非難しながら追いかけるのだが、素早いアングイスに追いつけるわけもなく疲れ果ててへたり込む。
へたりこむカンタートにチャゴが手を差しのべると、「ぐ!」と嬉しそうにその手をとって、また歩き始める。
──やはり先にカンタートを宿に置くか
数度目のそんなやりとりでチャゴはそう考え至り、宿に向かって歩き始めた。
宿への途中、カンタートが旅行用品専門店“機工の小さな森”という店に興味を持って、そちらにチャゴを引っ張る。
「ぐーま」
──あぁ、そういえば鞄買ってやらないと
カンタートの腰に括り付けた服を思い出して、引っ張られるまま店に入ることにした。
「ま」
店に入るとカンタートは欲しい物を指した。木と革で拵えられた鞄とカンタートには大きめの円盾を買ってやると、嬉しそうに飛び跳ねる。
「ぐー、ぐぐ」
鼻歌まじりに鞄に服を入れる小邪鬼は、やっぱり小邪鬼らしくないな、とチャゴは思った。




