第3話:助手と、呪われた爆裂魔導具
事務所のドアが、朝から勢いよく叩き開けられた。
「オルダス先生!」
踏み込んできたのは助手のフィオナだ。三日前に雇ったばかりの魔導学院の卒業生で、真面目すぎて知識だけが無駄に多い。
「なんだ。ノックという概念は学院の倉庫に置いてきたのか」
「それどころではありません!」
フィオナは息を切らしながら俺の机を両手で叩き、がたがたと揺らした。
「なんですかこの職場は! 床は微妙に傾いていますし、窓ガラスは割れたままですし!」
騒ぎ立てるフィオナの頭越しに、今度は遠慮がちなノック音が響いた。
俺は吸い殻を灰皿へ押し付け、あごでドアを指し示す。
渋々ドアを開けたフィオナの前へ入ってきたのは、十代半ばほどの弱々しい少年だった。
おどおどと路地裏を振り返る少年の腕には、赤いルーンが脈打つように明滅する重厚な魔導壺が抱えられている。
「す、すみません……こちらで呪いのアイテムを処理してくださると聞いて……」
「フィオナ、お茶」
「はいはい」
少年から壺を預かり、底を指で軽く叩いてみる。ずっしりと重い。
「父の遺品なんです。『爆薬生成の魔導壺』っていうもので……魔力を注ぐと中から爆薬がいくらでも出てくるんですが、衝撃を与えると即座に自爆します」
「どのくらいだ?」と俺が尋ねると、少年は気まずそうに目を逸らした。
「……半径一キロくらい」
フィオナが首だけをゆっくりこちらへ向け、「今すぐ捨ててきてください」と静かに言った。
「鉱山で使うので爆薬を作る機能は残したいんです。でも、自爆だけはどうにかしてほしくて……」
「厄介だな」
タバコも灰皿も遠ざけながら呟いた。
「これ、呪いを消すと爆薬の生成機能も消えるぞ」
「それは困ります」
「だろうな」
俺は引き出しを引っ張り出し、奥に転がっていた一本のピンセットを掴んだ。
不思議そうな顔をするフィオナを無視して壺の底へ金属の先を差し込むと、カチリと小さな手応えが手に伝わる。
「自爆トリガーを切って、表面の四桁ダイヤルに紐付け直した。普段は叩こうが落とそうが起動しないが、ダイヤルを合わせた瞬間だけ自爆シーケンスが走る。誤作動防止のセーフティロックだ」
少年が壺の側面に刻まれた数字を恐る恐る指でなぞり、パッと顔を明るくさせた。
「ありがとうございます!」
何度も頭を下げながら金を置き、少年は壺を大切そうに抱えて帰っていった。
ドアが閉まり、フィオナが脱力したように大きな息を吐き出す。
「……噂と違って……まともなお仕事でしたね」
「いつもまともだ。変な噂は気にしなくていい」
珍しいものを見た、そんな表情が消えないフィオナだが、結果に納得はしたようだ。
「変わった直し方という噂は納得しました」
「それは主観だな」
フィオナが何か言い返そうと口を開掛けたその時、ガラガラガラッ!と荒々しい音を立ててドアが開いた。
さっきの少年が青ざめた顔で飛び込んでくる。
「オ、オルダス先生! さっきの壺が……荷台に積む時に手が滑って、隣の数字に……!」
少年が掲げた壺のダイヤルは、くっきりと『0000』を指していた。
ピッ。ピッ。ピッ。
規則的な警告音が事務所の静寂を削っていく。
俺は壺を見つめ、それからダイヤルの配列に視線を落とした。
「先生」
「なんだ」
「初期値、何番で渡したんですか」
「0001」
フィオナの顔からすっと感情が消えた。
「ちょっと手が滑っただけでスッと入ってしまう番号じゃないですかぁぁぁぁ!!」
「初期値の隣が一番操作しやすいのは物理の法則だ。逃げるぞ」
「そんな物理の法則ありません! 吸ってる場合ですか!」
胸ポケットから抜きかけた煙草を押し戻す。
警告音の間隔が徐々に狭まり、ピッピッピッ、と高音に変わっていく。
「……あと八秒だ」
「最初から走ってくださいよ!!」
泣きそうな顔で壺を抱えたまま固まっている少年の首根っこを吊り上げ、俺たちは夕暮れの灰燼街へ飛び出した。
背後から鳴り響くカウントダウンと、通りに響き渡るフィオナの悲鳴。
「引っ越しじゃないですかーーーッ!」
俺は倒れかけた看板を蹴飛ばしながら駆け抜けた。
今回ばかりは、運用のカバーだけでは追いつかないかもしれない。
AI生成挿絵
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