本編5話 知識の呪い ~天才ゆえに「無知」という暗闇が見えない呪い~
俺は自分のデスクに座り、またもや現実逃避をするかのようにスマホで異世界転移者の小説を読んでいた。
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//「何をからかってるんだ…!?」
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// ライナスは信じられなかった。
// 周りの人間も自分と同じ事ができるはずだと、固く信じていたからだ。
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// 凡庸な天才たちがライナスに再度伝える。
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//「本当だライナス。
// 君のユニークスキルは、
//【絶対至善の即時裁定】
//【|因果律省略による虚数行使】
//【|事象論理の解体と高次再定義】
// ――これらは君以外持ち得ない。
// 君は人類史に類を見ない、効率性に対するチートスキル保持者だ」
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//「そんな、バカな……」
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// ライナスは自分の手を見た。
// 今まで他の人にも使えて当たり前だと思っていたその力が、まさか自分だけの特異なシステムだったとは。
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// 優越感という感情以前に、論理的に到底受け入れられないものだった。
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//### 1【絶対至善の即時裁定】
// 機能:外部からの情報入力を受けた瞬間、可能な全ての行動原理をシミュレーションし、「コストに対する効率が最大となる、唯一の行動」を瞬間的に完了させる。
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// 周囲の認識:0~10秒内で最適解が完了する無自覚チート。
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//### 2【|因果律省略による虚数行使】
// 機能:あらゆる行動において、論理的な結論に至るために不要な中間手順(詠唱、装飾、感情的な判断)を自動でスキップする。
// 任意の論理演算や魔法行使において、自身の魔力、体力、時間といったリソース消費を計上しない。彼の行為は常に「最もコストの低い、システムへの外部アクセス」であると定義される。
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// 周囲の認識:過程が一切見えないが、結果だけが突然現れる(手を振っただけで敵が消滅するなど)。連続して超絶魔法を使っても息一つ乱れない。魔力ゲージが存在しない。
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//### 3【|事象論理の解体と高次再定義】
// 機能:目の前の複雑なシステムや魔法を、その存在を構成する最も基本的な論理(第一原理)まで分解し、任意の目的に合わせて最も効率的な構造に再構成する。
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// 周囲の認識:古代文字の魔導書を一目見ただけで、その魔法の真の欠陥を見抜き、欠陥のない最適解バージョンとして行使する。
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「ユーキさん。そのシーン、面白いですよね!!」
背後から、チョコレートでコーティングされたスティック状の菓子を持っている、新人のノアに声をかけられた。
俺はノアの接近に慣れず、軽く肩を震わせた。
「あ、ああ。
このシーンは俺のお気に入りでな。
主人公がはじめて『チート能力』を自覚する、カタルシスあふれるシーンなんだ」
「私もこのシーン、とても好きなんですよ。
このチートスキルの羅列が凄い。
たとえば1番の【絶対至善の即時裁定】 笑えませんか?
私は初めてみた時すごく笑えましたよ」
「……どういうことだ?」
「つまりこれは何手も先を読める能力ですよね。
そんなに先を読めるくせに無自覚って、あまりに現実味がなさすぎて。
頭が良いのか悪いのか、どっちかにして欲しいですよね。
所詮は作り物のキャラなんですよねえ。
血が通ってないというか。
もうツッコミどころが多くて。
やっぱり余計な設定なんて作るもんじゃないですよ。
私はシンプルな方が好きだなあ」
「……君は、そう思うのか」
「どうしたんですかユーキさん?
あっ…ちょっとバカにしすぎました?
すみません。
ユーキさんの前ではもうこの小説はバカにしませんよ」
もう我慢ならない。
流石にここまで異世界転移者に俺の趣味を馬鹿にされては、論理的に反論せざるを得ない。
「ノアくん、君は『知識の呪い』という言葉を知っているか?」
「知識の呪い?……なんですかそれ」
「強力な認知のバグだよ。
一度『当たり前』になった知識は、脳の初期設定を書き換えてしまう。
すると、その知識を持たない他者の視点をシミュレートすることが、物理的に不可能になるんだ。
周囲が『これは偉業だ』と驚愕しても、当人の中では『あまりに自明な、ただの前提条件』としか処理されない。
だから、外部からの賞賛というデータ入力を、正常な価値評価として認識できなくなる。
どれだけ褒められても、『何を当たり前のことで騒いでいるんだ?馬鹿にしているのか?』という歪んだアウトプットになってしまう。
この小説のライナスは、その呪いの極限状態にある。
彼にとって【絶対至善の即時裁定】はあまりに当然の、息をするのと同じレベルの基礎回路だからこそ、それが自分だけのユニークスキルだなんて考えも及ばない。
彼の中で『最適な行動は常に一つ』という論理が絶対的すぎると、他者がその最適解を選べないという事態を『エラー』だと認識してしまうんだ。
だから彼は『周囲が自分をからかっている』と感じて信じられない。
知識の呪いによって、彼は周りの『無知』という暗闇をもはや視認できなくなっていたのさ。
極めて精密な、高知能ゆえの心理シミュレーションだと俺は思うがね」
「そんなもんですかね……
当たり前のことは、誰にとっても当たり前じゃないんですか?」
「……まあ、どうだろうな」
俺は勝利を確信した。
この異世界転移者は、この完璧な説明に反論できていない。




