↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才ノアのパーフェクト・ロジック  作者: クーアウコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/37

本編3話 雰囲気系なろう小説を冷徹にデバッグする新人

【雰囲気系なろう小説を冷徹にデバッグ(バグつぶし)する新人】

 ノアはパソコンが得意と自称するだけあり、確かに入力が早かった。

 仕事を覚えるのも割合早く、ミスも少なかった。


 ――ノアが来てから数日後。


 俺は自分のデスクに座り、スマホで「ド派手な魔法が飛び交う、なろう小説」を読んでいた。


 ――スマートフォン。

 これも、異世界転移者(パラダイマ)が我々の世界へと持ち込んだ発明品の一つだ。

 一瞬で我々の世界に普及した。真に素晴らしい発明品だ。

 学習時間が少ない異世界転移者(パラダイマ)にしては、中々やるではないか。

 これで退屈な日常を紛らわせていた。


 我々の住むこの世界には魔法など存在しない。

 種族差はあるが、微々たるものだ。


 バジリスク(毒族(どくぞく))など、少し肌がかぶれる程度の唾が吐けるだけだし、デュラハン(断族(だんぞく))は、常人より30度ほど余計に首が回るだけ。

 メデューサ(視族(しぞく))は何となく周りの温度や他人の体温が感知できるだけだし、ライカンスロップ(変身種(へんしんしゅ))はちょっと体の色が変わって少し形が変わるだけ。

 要するに、どれもあまり生活の役には立たない。


 極めて地味な日々だ。

 だから異世界転生して来た異世界転移者(パラダイマ)達が持ち込んだり執筆した小説が気に入った。

 我々の小説も、もちろんある。

 しかし、お手軽なチート無双を楽しめる新ジャンルは、近年初めて異世界転移者(パラダイマ)が持ち込んだものだ。


// ※チートとは、ゲームの世界で、本来のゲームバランスを崩壊させるような「不正なプログラム(チートツール)」を使って、通常ではありえない能力(無敵化、一撃必殺、高速移動など)を手に入れることを指す。

// 物語の中で「チートキャラ」と言った場合、必ずしも「不正をしている」わけでは無い。「他の登場人物と比べて、圧倒的に強すぎる能力を持っているキャラクター」を指す、ネットの流行語(ネットスラング)。



「ユーキさんも読んでるんですね!その小説」


 振り返るとノアがアンパンを持ちながら、後ろに立っていた。

 俺は、ノアの存在を意識しつつ、スマホの画面を指さして言った。


「ここだよ、この主人公の『チート能力への無自覚な反応』の描写が面白いんだよな」


 ノアは俺の手元を覗き込む。

 そこに書かれていたのは、主人公ライナスに関する記述だった。


-----


//  ライナスは全く理解していなかった。

//  なぜ周囲がこれほどまでに自分を特別視するのか。

//

// 「え、これって別に普通のことだろ?」

//

//  ライナスは、ただ古い羊皮紙を記憶しただけ。

//  それが「歴史上最高の天才しか扱えない」魔導書だと知る由もない。

挿絵(By みてみん)


//  彼は、魔法の詠唱を「めんどくさい」と感じ、たった数行の『イメージ』だけで、100mほどの岩を事象の地平線(イベント・ホライズン)レベルの不可逆的な崩壊で消し飛ばす。

//

//  周囲の感嘆の声に対し、そっけなく

//

// 「ん?いつも通り、『情報の不可逆的再構築』を試みただけ。

//  これが最短経路で、そうすることが最適だろう?」

//

//  と返した。

//  彼の行為は「史上最速の無詠唱・超絶技巧の複合魔法」であり、思考する前に最適解が完了している無自覚チートだ。

//  その破壊力は、理論上10(テン)ビリオン(10の10乗)に匹敵すると、周囲の凡庸な天才たちがざわめいた。

//

//  賢者たちは「とんでもない偉業だ!天才か!」と跪き、涙を流して称賛しても、ライナスは「いや、あの、手順は、最初から決まっているはずだ」と、見当違いの返事をする。

//

//  彼は、自分がチート級の才能を持つ天才であるという周囲の心の声に、一切気づかない。

//

//  ライナスはふと、当然のことを口にするかのように言った。

//

// 「だって、最適な行動原理なんて、常に一つしかないだろう?」

//

//  クールな仕草で自らの天才性を完全に否定した。


---


 俺は言葉に熱を込め、ノアに語った。


「面白いだろ、ノアくん。

 この『最適な行動原理は常に一つ』って言い方がさ。

 すべてが最適解で進む心地よさが、たまらないんだよ。

 バグだらけの現実を忘れさせてくれる、唯一の『完璧な世界』なんだ」


 この世界から救い出してくれる『無敵の物語』に、俺は救われていた。

 すると、ノアが身を乗り出してきた。


挿絵(By みてみん)

「そうですよね!

 この無意味な数字の羅列!

『10(テン)ビリオンに匹敵する魔力!』なんて!

 最高に面白いですよねえ!」


 俺は一瞬、ノアが自分と同じ視点で、主人公の論理性に感動しているのかと錯覚した。

 しかし、彼女の瞳は、純粋な愉悦を湛えながらも、どこか冷たい優越感に満ちていた。


「あ、ああ、無駄な数字遊びはなろう系の醍醐味というか、スケールの大きさが売りで……」


「天才設定なのにチート能力に自覚なしって、その時点で破綻してますよね。

 絶対気づきますって。

 それなのに『自分は普通だ』と思い込める設定が許されているなんて、独創的すぎて!

 それが楽しくて楽しくて」


 ノアは楽しそうにクスクスと笑う。


(……え?楽しんでる、のか?何を?)


「こういう天才って『無意味で抽象的な言葉遊び』や『無駄な数字遊び』が好きですよねえ。

 雰囲気系っていうんですか。

『情報の不可逆的再構築!』とか!

 ああ、たまらない。

 それにやれやれ系が加わったらもう最高です!

 馬鹿すぎて馬鹿すぎて」


「……そ、そうか。

 ノアくんはそういう楽しみ方なんだな。

 それはよかった」


 俺はノアの小説の楽しみ方に、自身の共感とは決定的に異質なものを感じ取った。


(異世界転移者(パラダイマ)って、みんなこうなのか……?)


 俺はその後、静かに頭を抱えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。