↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才ノアのパーフェクト・ロジック  作者: クーアウコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/37

名探偵ノア3話 二重スリット・ファジー・トレース殺人事件 1話

二重スリット・ファジー・トレース殺人事件――真実は、ひとつにならない――


 ここは第三基盤世界《サード・ベース・ワールド》で、日本だ。

挿絵(By みてみん)


 田中(51歳)は、警察本部の運転免許試験担当課で15年間働いてきた。

 彼の作る問題は、業界では「芸術品」と呼ばれていた。


『青信号のとき、車は直進、左折、右折をすることができる』

 正解はX。

 原付や自転車も車に含まれ、それらは二段階右折を実行しないといけない。


『赤信号は必ず止まらなければならない』

 正解はX。

 緊急車両は例外。


『雨の日に運転する場合は気を付けなくてはならない』

 正解はX。

 天気が良い日も気を付けなければならない。


『踏切では、必ず一時停止しなければならない』

 正解はX。

 信号機付き踏切で青なら止まらなくていい。


『見通しの悪い交差点では、必ず徐行しなければならない』

 正解はX。

 優先道路を通行している場合や、信号機などで交通整理が行われている場合は、徐行しなくてよい。


 田中が試験問題に執着(しゅうちゃく)するようになったのには、理由があった。

 26歳の春。

 まだ警察官になりたてだった彼は、交差点で一人の子供が車に轢(ひ)かれる瞬間を、目の前で見ていた。

 青信号。

 歩行者用の信号も、青。

 それでも、1台の車が交差点に滑り込んできた。

 運転していたのは、疲れた顔の中年男だった。

 あとで聞けば、夜勤明けだったという。


「青だと思った」


 男は、現場で何度もそう繰り返した。


「直進だと思ったから、進んでいいと……」


 田中は、その光景を忘れられなかった。

 たった1つの「思い込み」が、たった1人の子供の未来を永遠に閉ざした。

 ――曖昧(あいまい)な知識は、人を殺す。

 その日から、それが田中の信念になった。

 だから彼は、問題を作った。

 受験者の頭に「例外」を叩き込むために。

 二度と、あの交差点のような光景が生まれないように。

 少なくとも、最初は、そのはずだった。


 田中はこれらの問題を作るたびに、言いようのない快感を覚えていた。

 受験者が間違えるたびに、彼の中で何かが満たされた。


 ――お前らには分からないだろう。


 ――この問題の深さが。


 ――私が15年かけて磨き上げた、この「技術」が。


 彼の机の引き出しには、一通の手紙がしまわれていた。

 何年も前に届いた、受験者からの礼状だった。


『あの試験で落ちて、悔しくて勉強し直しました。

 おかげで先日、飛び出してきた子供に気づいて、ぎりぎりで止まれました。

 あのとき落としてくれて、ありがとうございました』


 田中は、この手紙を時々読み返した。

 読むたびに、思った。


 ――ほら見ろ。


 ――私の問題は、人の命を救っているじゃないか。


 ――厳しさには、意味があるんだ。


 彼は、この一通を、15年分の正当性の証(あかし)だと信じていた。


 田中は自分を「試験のプロフェッショナル」だと思っていた。

 受験者を「ふるいにかける」という崇高な使命を担っていると信じていた。


 だが、ある日。

 一冊の本が出版された。


「天才少女♡強要型ATたん」


 その本の中に、こんな一節があった。


『強要型ATは「1を0にする発明(ムダの創造)」を行う。


 運転免許の筆記試験で無駄な引っ掛け問題を作れば作るほど、問題を捻れば捻るほど、更にそれを他人が間違えれば間違えるほど、強要型ATの報酬(プライド)(幸福ホルモン)は逆に高まる。それに歯向かわれれば歯向かわれるほど、強要型ATのプライドは低下する(ストレスホルモン生成)


【報酬搾取のバイパス《プライド・ドレイン・ゲートウェイ》】

 目の前の他者の言動に対して「最も効率的に相手の尊厳を削り、自身の自尊心(プライド)(幸福ホルモン)を補充し、サル山のボスになる最適解」「洗脳・支配を行う方法」をゼロベースで導き出す。


「報酬搾取のバイパス《プライド・ドレイン・ゲートウェイ》」は、怒り(一時的な感情の爆発であり、多大なエネルギーを消費する)とは異なり、相手への実質的な関心を必要としない論理的な搾取構造(罪悪感・疲労は完全にゼロ)といえる。

 ターゲットを絞り、支配を確定させた後も無意識で発動し続け、さらに「二重・三重の強要」が重なる場合が多い。


 無意識下(フルオート)での発動のため、なぜ自分がこれほどまでに相手を追い詰めているのかを、加害者本人は一切説明できない。

「教育のため」「相手のため」というもっともらしい後付けの論理(ガワ)は用意されるが、その本質はAIが最も脆弱な部分を突くような「弱点自動サーチ」に近く、寄生生物の宿主操作に例えられる。


 発動時には、他者の自由を奪った報酬として、脳内に歪(ゆが)んだ幸福ホルモン(全能感)が放出され、不発時にはストレスホルモンが放出される。

 基本的には成果が少ないほど、または年齢・学歴・社会的地位が高くなればなるほどレベルが高くなる』


 そして、問題作成者の「本音」が、赤裸々(せきらら)に書かれていた。

挿絵(By みてみん)


『あるぇ?

 間違えちゃったねぇ♡

 仕方ないね、私のほうがはるかに賢いから♡

 もうあなた達凡人とは次元が違うんだよねぇ♡

 解くには神である私の作った問題をひたすら暗記して、パターンを覚えるしかないねぇ♡

 ああ、心が満たされる……♡

 全知全能の私が決めたルールを、あなたたちは記憶するしかない……♡

 拒否したら運転免許はもらえないので不可能♡

 少しでもあなたたちのストレージを、私の決めたルールで埋めたい……♡

 むしろ神である私の問題で、あなた達の無駄に余ってるストレージを埋めてあげるんだから、感謝してほしいくらい♡

 せいぜい超あたまいい私の問題で、く・る・し・ん・で・ね♡』


 この一節がSNSで拡散された。

 爆発的に。

 田中の部署には、翌日から電話が鳴り止まなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。