●38
言いたいことを言い切った俺は、『アイテム圧縮サック』からギルドの上層部五人を取り出した。
研究室に出された五人は、サヴィニアの顔を見ると気まずそうにしたものの、お互いに何も言わなかった。
「アデルバートさん。救出した子どもたちの周りに結界を張り終えました」
会話の途中から結界を張っていたオリビアが、結界の完成を告げた。
「相変わらず素早いな」
「兵は神速を貴びますから」
これで準備は整った。
あとは、解き放つだけだ。
「私たちをどうするつもりなのだ」
「どうするつもりかは、みんなに聞くといい」
「みんな……?」
「彼らのことだよ」
そう言いつつ、研究室の奥の扉を開けた。
扉を開けた瞬間、こちらを見つめるモンスター十体と目が合った。
「これから融合体の外側であるモンスターを殺す。腹は傷付けないようにな。出てきた融合体がお前たちをどうするのか……見ものだな」
「やめろ! やめてくれ!」
俺の言葉を聞いたサヴィニアが、焦った声を出した。
「融合体になることが素晴らしい栄誉なら、自分を融合体にしたお前たちのことを恨んではないはずだよな?」
「謝る! 謝るから!」
「ここから解放してくれたら、お前たちのことは不問にする。情報を握り潰す権力は持っているから安心しろ!」
サヴィニアに加えて、外に出したばかりのギルド上層部たちも交渉をしようとしてきた。猿轡をされている研究員たちも、すがるような目で俺たちのことを見つめている。
……そんなものに耳を貸すわけがないと言うのに。
「聞こえてるかな、みんな。これからみんなを外に出す。この場にいる縄で縛られたやつらが、君たちを実験に使った人間だ。煮るなり焼くなり好きにすると良い。ああ、サヴィニアは縛られてないが、サヴィニアの顔は知ってるよな?」
俺はモンスターの腹の中にいる、融合体にされた子どもたちに向かって語りかけた。
「やってくれ、サイラス」
「おう」
サイラスが迷いのない剣裁きで、モンスターの首を次々に落としていった。拘束魔法を掛けられているモンスターたちは、抵抗することもなく首を落とされた。
そして。
モンスターの腹の中から、融合体となった子どもたちが姿を現した。
融合体となった子どもたちは、外側のモンスターが死ぬことで、自分の身体の操作権を得られるのかもしれない。
「うわ、うわあああ!!」
「やめてくれ! 悪かった! 謝るから!」
「私は研究員として研究をしていただけです。仕事をしていただけなんです!」
「殺さないで、お願いだか……ら……」
融合体となった子どもたちは、自由になると同時に、融合実験をした大人たちに襲いかかった。よほど恨んでいたのだろう。その行動に一切の迷いは無かった。
「この隙に、救い出した子どもたちを運び出そう」
「子どもたちの運搬はわたくしたち三人にまかせてください。アデルバートさんは残りの書類を燃やしつつ、誰も研究室から逃げないように見張っていてくださいね。サイラスさんが力持ちなので、二往復もすれば終わると思います」
「ああ」
見張るも何も、すでに逃げられるような状態の者はいない。誰も彼もが足をもがれていたり、内臓を引きずり出されている。
一方で俺たちや救出された子どもたちには一切の怪我が無い。
融合体となった子どもたちは、俺の話を聞いて、攻撃する相手を選別しているのだ。
皮肉なことに、サヴィニアの融合実験は成功していたということだろう。
「みんな、気は済んだか?」
救出した子どもたち全員を運び出し、発見した資料も燃やし尽くし、あとは研究室を破壊するだけという段階で、融合体となった子どもたちに尋ねた。
融合体となった子どもたちは、相手が死んでいるにもかかわらず、ひたすらに彼らの身体を切り刻んでいる。
さながら人体実験をしているかのように。
「……気は済まないと思うが、全員死んでる。これ以上ここにいても意味がない」
俺は融合体となった子どもたちに向かって、手を伸ばす。
「これから俺は、この研究室を燃やして潰す。このままここにいたら君たちも巻き込まれちゃうから、一緒に行こう」
融合体となった子どもたちは、俺のことを見つめ、死体を弄ぶ手を止めた。
「君たちがどこへ行くのかはまだ決まってないが、どこかのダンジョンにはなると思う。そのままの姿で町にいることは、ギルドが許さないだろうから」
本当はみんなを人間に戻して町で暮らさせてあげたいが、現状それは出来ない。だからダンジョンの中に隠すしかないのだ。
「悪い。まだ君たちを元に戻す方法が分からないんだ。だから元に戻せるその日まで、冒険者に殺されないように、お互いを守り合ってほしい。日中は俺が何とかして君たちのいるダンジョンに冒険者が潜らないようにするが、俺も睡眠をとる必要があるからな。夜は自分たちで生き延びてくれ」
そんなことしか出来ない自分が不甲斐ない。
それでも、前へ進むしかない。
「ごめんな、こんなことしかしてあげられなくて」
融合体となった子どもたちは、ゆっくりと俺のもとに集まってきた。
「うん、行こう」
俺は研究室の壁を破壊すると、融合体となった子どもたちとともに外へ出た。そして全員が研究室を出たところで、屋敷に火を付けた。パチパチと燃える炎が天に向かって黒い煙を立ち上らせる。
「重力過多――エクセティブ・グラビティ――」
研究室が十分に燃えたところで、俺は最大火力で重力魔法を放った。
壁が、柱が、天井が、轟音を響かせながら崩れていく。
「明るい未来に、こんなものを残してはおけないからな」
きっと、未来は明るい。
これからの未来は、他でもない、可能性の塊である子どもたちが作るのだから。




