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「これでよし、と。全員縛ったぞ」
俺たちはすぐに研究室内にいた研究員すべてを縛ることに成功した。日々室内で研究をしているような人たち相手にサイラスとミルカちゃんが負けるわけがないから。順当な結果だ。
「どうしてこんなことに……」
「ハッ!? 今朝、掃除を頼んだベネディクトさんに、研究室のカギを開けてくれと言われました。もしかしてベネディクトさんは、自分のカギを失くしていたのでは!?」
「ベネディクトが落としたカギが拾われたせいで、こんなことになったのか!? ベネディクト、許さん!」
俺たちにイレギュラーは起こらなかったが、ベネディクトには今朝イレギュラーが起こっていたらしい。俺たちの協力者だとは気付かれていないようだが、ただでは済まないだろう。可哀想に。
「お兄ちゃん、準備は出来てるよ。いつでもオッケー!」
ミルカちゃんの元気な声が研究室内に響いた。
ミルカちゃんの声を合図に、サイラスが携えていた大剣に手をかける。
「やっと剣の登場だな」
「ああ、頼むよ。最近のサイラスは格闘家みたいになってたからな。ここらで剣士らしいところを見せてくれ」
「剣士らしいと言われても、水槽を割るだけなんだがな」
大剣を構えて水槽の前に立つサイラスに、研究員たちが大声で叫んでいる。
研究員たちは戦意喪失をしてはいるものの気絶するほどの攻撃は受けていないらしく、縛られた状態で床に転がりながら最後の足掻きを見せている。
「やめろーーっ!!」
「お願いです。それだけはやめてください!」
「やめるわけないでしょ」
ミルカちゃんの言葉通り、サイラスは研究員たちの声を無視して水槽に剣を突き立てた。すぐに水槽を満たしていたモンスターの羊水が流れ出す。さらにサイラスは子どもに繋がっていた酸素マスクの管も切断した。
羊水とともに水槽から零れた子どもを、下で待機していたミルカちゃんがキャッチする。見事な連携だ。
「子どもの様子は!?」
「息はしてるみたい。回復魔法をお願い」
「まかせてください。状態回復――ヒール――」
ミルカちゃんがキャッチした子どもをオリビアのもとへ運ぶなり、オリビアによる処置が開始された。
回復魔法で病気を治すことは出来ないが、外部から与えられた薬や攻撃による症状は緩和させることが可能だ。水槽の中に入れられたまま眠っていたということは、子どもたちは何らかの方法で無理やり眠らされていたに違いない。その影響だけでも早く取り除いた方が良い。
「どうだ?」
「実験による後遺症などは後で詳しく検査をする必要があるでしょうが、命に別状は無さそうですね」
オリビアの言葉にホッと息を吐く。水槽に入っている子どもを助けられるというのはあくまでもベネディクトの見解で、実際にはそうではない可能性を考えていたからだ。
「順調に回復させてるところ悪いが、その子は起きたら起きたで見たくないものを見る羽目になる。薬の影響を緩和させつつ、起こしはしないように上手く調整してくれ」
「難しい注文を出しますね。お安い御用ですが」
オリビアは俺の意見にも一理あると思ったのか、すぐに要求を飲んでくれた。回復状態の微調整は繊細な魔力管理が必要なためかなり難しいのだが、オリビアの手にかかるとそうでもないらしい。
そうこうしている間に、次の水槽が割られる音が響いた。そしてミルカちゃんによって新たな子どもが運ばれてくる。
ミルカちゃんはオリビアの前に新たな子どもを置こうとしたが、回復魔法の順番待ちをさせる必要はない。オリビアの横には俺がいるのだから。
「この子には俺が回復魔法を掛ける」
「アデルバートも回復魔法が使えたの?」
「ああ。オリビアが有能なおかげで、これまで使う機会はなかったがな」
ミルカちゃんは俺の前に子どもを置いてもいいものか悩んでいるようだった。いつも俺がポンコツな姿を見せていたせいだろう。
「大丈夫ですよ、ミルカさん。アデルバートさんにまかせましょう」
俺の実力を高く評価しているらしいオリビアが言った。すると、オリビアが言うなら、とミルカちゃんは俺の前に子どもを置いてくれた。何だかオリビアとの人望の差を感じて興奮……いや、やめておこう。今はふざけている場合ではない。
「最後の微調整だけは頼む、オリビア。せっかく俺のことを評価してくれてるところ不甲斐ないが、さすがに微調整までは自信が無い」
「かしこまりました。微調整前まで手伝ってもらえるだけでも、かなり負担が減ります」
サイラスが水槽を割り、ミルカちゃんが子どもを運び、俺がおおよその回復をさせ、最後にオリビアが調整しながら回復魔法を使う。
この方法で見事に研究室内にあったすべての水槽から、子どもたちを救出することに成功した。時間にして五分も経っていないだろう。
今や研究室内はモンスターの羊水で水浸しになっている。
「さて、と。子どもたちの無事を確保したところで、次は資料の焼却……って、部屋中が水浸しだぞ?」
「当たり前だけど水と火は相性が悪いよねぇ」
サイラスとミルカちゃんが俺たちの方を見た。魔法で何とかしろと言いたいのだろう。
「悪い。水槽を割ると水浸しになるってことを考慮に入れてなかった」
「まったくアデルバートさんは仕方のない方ですね。壁に穴を開ければ水が流れ出ると思いますよ」
なるほど。オリビアは頭が良い。
どうせ最後には潰すつもりの研究室なのだから、穴の一つや二つは気にならないだろう。
俺は研究室の壁と床の接地面あたりを狙って魔法を放った。
「空気砲――エア・キャノン――」
魔法によって空いた穴から、研究室内の水が流れていく。穴を空けるついでに地面をえぐっておいたから、傾斜が付いて面白いように排水される。
「よし。準備も整ったことだし、今度こそ資料を燃やそうか」




