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(1)
「なにそれ。酷すぎる!」
「それが本当なら、絶対に許せないな」
「倫理観を無視した人体実験は、即刻やめさせるべきです!」
「だから……俺は、このパーティーから抜ける」
昨夜はパーティーのみんなとともに研究室を破壊しようと考えていたものの、ベネディクトと別れて一人になってから、それは良くない行為だと思い直した。
あの融合実験には、ギルドも関わっているのだ。
もしも研究室を破壊した犯人が俺たちであると判明したら、ギルドは俺たちのことを野放しにはしないだろう。
パーティー全員が研究室破壊に加担した場合はもちろん、研究室を破壊したのが俺だけだったとしても、俺とパーティーメンバーというだけで巻き添えを食らってしまうかもしれない。だから俺は、事を起こす前にパーティーから距離を置いた方が良いのだ。
「はあ!? 何言ってるの、アデルバート! 誘拐事件のときもそうだったけど、アデルバートって水臭いよね!?」
ミルカちゃんが信じられないと言わんばかりの声を出した。
しかし俺は本気だ。
「誘拐事件のときは、結局みんなを頼っただろ。あの事件も間接的には融合実験に繋がってたが……ギルドの関わりは薄い。もしかするとギルドが何らかの手段を使って、あえて町の警備体制を貧弱にしてたのかもしれないが」
「何が言いたいのよ!?」
「研究室に関しては明確にギルドの上層部が絡んでる。完全にお触り禁止案件だ。研究室を破壊したのが俺だとバレたら、俺はギルドに消される可能性がある。パーティーに入ってたら、俺だけじゃなくみんなも一緒に消されるかもしれない」
「人体実験に関わってるギルドの上層部ってのは、そんなに厄介な相手なのか?」
「たぶんな」
肩書きを見る限り、かなり厄介そうな相手に思えた。あの役職なら、ダンジョン内で新種のモンスターを見たという報告を握り潰すことなど、造作もないだろう。そしてきっと、俺の存在を消すことも。
「研究室にあった資料の中に、支援者の名前が書かれた名簿があったんだ。それを見て愕然としたよ」
「有名な人なの?」
ミルカちゃんの質問に、俺は首を横に振った。
「正直なところ、俺は顔も名前も分からない。だが役職を見る限り、ギルドの上層部だ。相当な力を持ってると思う」
「研究室破壊についてはお聞きしましたが……アデルバートさんは、ギルドの方にも何かしらの制裁を加えるおつもりですか? 人体実験を推進させた罰として」
制裁は加えたい。そうでなければ許せるわけがない!
俺は昨晩見た光景を思い出して口元を押さえた。その後無理やり深呼吸をしてから告げる。
「気持ち的にはそうしたいが……顔が分からないんじゃどうしようもない。ギルド内を聞いて回るわけにもいかないし」
残念ながら、俺はギルド職員の顔と名前が一致していない。ギルドで働いたことなどないから、当然と言えば当然なのかもしれないが。
「俺、ギルドの役員なら大体顔と名前分かるぞ」
しかしサイラスがそんなことを言い出した。
「えっ!? サイラス、ギルドで働いたことがあるのか!?」
「いや、働いたことなんかなくても、なあ?」
サイラスが促すと、ミルカちゃんとオリビアがうんうんと頷いた。
「私も分かる」
「わたくしもです」
「そうなのか!?」
驚いた俺が大声を上げると、三人が一斉に溜息を吐いた。
「むしろアデルは何で分からないんだよ」
「アデルバートはギルドとのやり取りを私たちに丸投げしてたからねぇ」
「日頃の行ないの差ですよね」
「うぐっ」
否定が出来ない。
ギルドとの面倒くさいやり取りを三人が率先してやってくれるから、俺はずっとその優しさに甘えていた。
その結果が、これだ。
「もしかすると俺が動きすぎたのかもしれない。ギルドでの仕事受注や素材売買の交渉は大変だから、リーダーであり一番年上の俺がやらなきゃと思ってたんだ。ミルカとオリビアは定期的に代わってくれてたが」
ご、ごめん。俺だけ気が利かなくて。
心にグサッと罪悪感の矢が刺さった。
「だってお兄ちゃんだけが窓口になってたら大変でしょ? それに年上って言うなら、アデルバートはお兄ちゃんと同い年だよね?」
同い年です、ハイ。手伝わなくてごめん。
矢の刺さった心に、新たな矢が飛んでくる。
「普通なら、パーティー内で自分だけが楽をするなんて、恥じるべき行為だと気付くと思うのですが。もしかしてアデルバートさんは、わたくしたちだけがギルドとやり取りをしていることに、何の感情も抱いていなかったのですか?」
大変申し訳ございませんでした! 厚顔無恥とは俺のことです!!
傷だらけの俺の心に、オリビアがトドメをさした。
「まったくもってみんなの言う通り。俺は恥ずかしい人間だったみたいだ。悪かったよ」
今後はもう少し、どこに出しても恥ずかしくない人間になろう。
……まあ、なんだ、当社比で。
自分に甘い俺はそんなことを考えつつも、三人に頭を下げる。
「激しく俺が言うべきことじゃないんだが、俺の日頃の行ないについては一旦置いておくとして。ギルド上層部の顔、俺に教えてくれないか!?」
「いや、無理だろ。どうやって脳内の記憶をアデルに見せるんだよ」
俺の要求に対してサイラスがもっともな意見を述べた。
いくらサイラスがギルド上層部の顔を覚えていたとしても、それを他人である俺に伝えることは難しい。
研究室にあった名簿には名前しか書かれていなかったし、ギルド上層部の顔写真が載っている資料は持っていない。もしかするとギルド内部用には顔写真の載った資料が存在するのかもしれないが、あいにく今入手する方法はない。
だからと言って、ギルドへ行って目的の人物が休憩などで建物から出てきた際に「あの人だよ」と教えてもらうには時間が足りない。そんなことをしている間に今週末になってしまう。そうしたら、新たな子どもが融合体にされてしまうのだ。
「似顔絵を描いたとしても、それじゃあ精度が足りないと思う。人違いでした、なんてことはあっちゃダメだろ?」
「人違いは最悪だな……打つ手なしか」
がっくりとうなだれる俺の肩に、ミルカちゃんが手を置いた。
「一つだけ方法があるよ」
「本当か!? その方法を教えてくれ!」
俺が顔を上げると、サイラス、ミルカちゃん、オリビアの笑顔が目に入った。
「わたくしたちを研究室破壊作戦のメンバーにすることです」
三人を研究室破壊作戦のメンバーに!? そんなの危険すぎる!
……と、言うか。
「そんな作戦名だったんだ!?」




