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「では開けますよ。モンスターは眠らされていますので、大きな声は出さないでください。あくまでも眠っているだけですからね。拘束魔法も掛けられてはいますけど、モンスターに叫ばれたら、研究室に侵入したことがバレてしまいますから」
「……ああ、分かってる」
ベネディクトが扉を開ける。
部屋の中にいたのは、ただのモンスター……に見える、人間の子どもを腹の中に入れたモンスター。
その姿を見た瞬間、ダムが決壊した。泣くまいと思っていたのに、次から次に涙があふれてくる。
「みんな、こんなことをされるために生まれてきたわけじゃないのに……」
モンスターの腹の中に入れられた子どもたちは、もう人間の姿で死ぬことは出来ない。
人間として生まれ、人間として生きるはずだったのに、その未来を奪われた。
身勝手な大人に。
「……どうすればこの研究室を再起不能に出来るんだ」
「まずは機械をすべて壊すことです。資料もすべて焼き払ってください。ですが研究員がいたのでは、また同じものを作られてしまいます。研究員を殺すか、二度と集結できないように散り散りにする必要があります。そしてサヴィニア様の財力。二度と研究員を集められないようにすることも大切でしょう」
「……やることが多いな」
「それでも、あなたはやるつもりなのでしょう?」
もちろんだ。こんなものを後世に残していいはずがない。
「……一つ聞いても良いか? モンスターの腹の中に入れられた子どもたちを助けられないことは分かってる。モンスターとの融合が始まってるから。でも水槽の中にいる子どもたちは、今、助けられるんじゃないか?」
「水槽を壊すつもりですか? 最初に言ったでしょう。やるときは一気にやってくれ、と。水槽を壊したりなんかしたら、警備が厳重になったり、資料を複製されて別場所に保管されてしまいます」
「目の前にいるのに、助けられないのか」
俺は扉の先、水槽に入った子どもたちに目を向けた。そして次に目の前のモンスターに視線を戻す。
「全員、助けられないのか。しんどいな」
「全員かは分かりません」
沈んだ声を出す俺に、ベネディクトが語った。
「モンスターの腹の中にいる子どもが人語を話せるかどうかは、腹の外から魔法で確認をします。人語確認は期間を開けて全部で十回。十回すべてに失敗すると、今日のように失敗作として外側のモンスターごとダンジョン内に放たれます」
ベネディクトが一体のモンスターを指差した。そして右から順にモンスターを指差していく。
「こちらのモンスターから、九回、八回、七回……と順番になっています。つまり九回人語確認に失敗しているこのモンスターの中の子は、次に失敗したらダンジョン行きというわけです。そしてその子の代わりに、新たな子がモンスターの腹の中に入れられます」
「……その人語確認はいつ行われるんだ?」
「日曜日です。もしも今週末までに研究室を壊せないなら一人が融合体に、来週末までに壊せないならさらに一人が融合体になります。逆を言えば、早く研究室を壊すほど、救える子どもたちが増えます」
今日は金曜日か。
あまりにも時間が無いが、子どもたちの命が掛かっているのだ。
決行は今週中にするべきだろう。
「……仲間に話してみる。もし断られたら、俺一人でもやる。その場合は研究員の命は諦めることになるだろうがな」
さすがに俺一人で研究員全員を別場所に移動させることは出来ない。だからパーティーメンバーが賛同してくれなかったら、研究員は殺すしかない。
誰かを救うために誰かを殺すことなんてしたくないが、覚悟を決めるべきだ。
子どもたちを移動させた後、重力魔法で研究室を丸ごと押し潰す覚悟を。
「頼むぞ、みんな」
俺は祈りながら、研究室を去った。




