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「ベネディクト、お前はどう思うんだ? 無理やり融合させられたやつが、人間とモンスターの架け橋になりたがるとでも?」
「僕の意見なんて何の意味も持ちません。僕はサヴィニア様を説得できるような地位の人間ではありませんので」
……確かにここでベネディクトと議論をしても現状は何も変わらない。それなら別の質問に時間を使った方が良いだろう。
「融合体の生み出し方だが。モンスターの腹の中に子どもを入れておくと、子どもがモンスターと融合するのか?」
「そのような簡単な話ではありません。とはいえ僕はただの使用人……ただの掃除夫ですから、具体的な原理までは分かりません。ですが研究員に聞いたところによると、人間の子どもに少しずつモンスターの細胞を投与していくのだとか。そして適合しきった子どもをモンスターの腹の中で育てるそうです」
「……モンスターになった子どもをダンジョンに放してるのは何故だ? 人間とモンスターの架け橋になる子どもが欲しかったんじゃないのか?」
俺の言葉を聞いたベネディクトが、ちらりとダンジョンを見た。
「あれは失敗作です」
「ああん?」
「ぼ、僕が言ったわけではありません。サヴィニア様は人間の言語を操る融合体をお望みなので、それ以外は失敗作だと研究員が言っていたのです」
完全に人間の言語を操る融合体……不完全ながら人語を話す融合体は、俺自身が見ている。
今朝俺の出会った融合体は、きっとポピーだ。
あの融合体は「ポピー」と「アデルお兄さん」と言おうとしていたのだろう。俺にはそう聞こえた。
「融合体になった人間を元に戻すことは出来るのか?」
「無理でしょうね。どんな天才でも、時を巻き戻すことは出来ませんので。融合してしまったものは、融合しなかった状態には戻せません」
「……だと思ったよ」
「ただ融合しなかったことには出来ませんけど……分離することは不可能ではないかもしれません。そのための研究には、融合実験と同じくらいの金銭と、天才研究員が必要ではありますけど」
それは実質、不可能と同義だ。
ああ、あまりにも非道な行為だ。
まだ年場もいかない子どもたちをあんな目に遭わせるなんて。
「……なあ、どうして子どもなんだ? 大人なら融合させても良いと言いたいわけじゃないが、子どもたちがあまりにも可哀想だろ」
「融合体を作ることは本当に難しいのだと、研究員が言っていました。大人ではモンスターの細胞に対する抵抗力が強すぎて、複数回の細胞投与でアナフィラキシーショックを起こすそうです」
「アナフィラ……?」
「一言で表現するなら、死にます」
アナフィラナントカはよく分からないが、大人では融合体になる前に死んでしまうから子どもを融合体にしているらしい。
「ですが、子どもだからと言って必ずしも成功するわけではありません。それどころか、サヴィニア様の望むような融合体は出来上がったことがありません。モンスターの要素が強すぎると人語を喋ることが出来ず、逆に人間の要素が強すぎると大人と同じくアナフィラキシーショックを起こします」
「上手い具合の融合体が完成しないから、次から次へと子どもを使用して実験をしてたってことか?」
「その通りです」
頭の痛くなる話だ。誘拐した子どもや孤児院の子どもたちを引き取って、人体実験に使用しているなんて。
しかもその理由が、人間とモンスターの架け橋になる存在を生み出したかった?
あまりにも馬鹿げている!
「失敗作……いえ、架け橋になれなかった融合体は、このようにダンジョンに戻していました。屋敷には、融合体に勝てるような強者はいませんから。理由は分かりませんけど、融合体はその辺のモンスターよりも強くなりがちなのです。人語を話せる融合体の作成に成功した後は、融合体の強さについて研究をしそうですよね」
ここまで話したベネディクトは、ああ、と手をぽんと叩いた。
「話が逸れてしまいましたね。ええと、次から次へと融合体が生み出されるのに、倒せもしないし、屋敷の面積の問題ですべての融合体を隠すことも出来ません。それにどこで足がつくか分からないため、外部の人には処分を頼めません。こういう理由で、融合体をダンジョン内に放つことにしたのです」
「だがダンジョン内に放ってたら騒ぎになるだろ、そんな強い融合体……」
そこまで言って、ハッとした。
……そうだ。騒ぎにならなかったのだ。
ギルドが融合体の情報を揉み消したから。
「ギルドの上層部にサヴィニアの信奉者でもいるのか?」
「ギルドはギルドで別の思惑があるのだと思います。たぶんですが、ギルドは融合体を兵器利用したいのではないでしょうか。人語を理解し人語を発するモンスターは、兵器として都合が良いですから。しかもなぜか融合体が強い傾向があるのも、ギルドにとってはプラスでしょう。そのため融合体の件を民衆から隠して研究を続けさせ、望んだ融合体が完成したところで、研究を横取りして量産を目論むつもりなのだと僕は思っています」
「そこまで分かってて、どうして研究を止めないんだよ!?」
「僕なんかが止められるわけがないじゃないですか。ただの掃除夫ですよ?」
それはそうか。掃除夫が主人に意見できるわけがない。
「サヴィニア様もギルドの思惑には気付いていると思います。ですがサヴィニア様は、融合体を完成させれば、どうとでもなると信じているのです。融合体を兵器利用するなんて非人道的だ、と民衆が暴動を起こすはずだと踏んでいるのですよ」
「さんざん非人道的なことをしておいて何を言ってるんだか。サヴィニアは最低なやつだな」
「それは違います。サヴィニア様は優しさゆえにモンスターの未来を案じているのです。ただ、そうですね。サヴィニア様の優しさは未来にばかり向いていて、現在には向いていません。それが最低に見えてしまうのでしょうね」
「……未来をつくるはずの子どもたちを実験に使ってる時点で、未来にも優しくないっての!」
子どもは愛を持って育てるべき存在だ。
大人たちが自分勝手に実験に使用していいわけがない。
子どもたちの未来を奪うような人間に、未来を語る資格は無い!!




