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孤児院へ行くと、明らかに子どもの数が少ないように見えた。
ここ最近、毎月一人か二人は孤児院を卒業していたが、先月に来たときと比べて減った子どもの数は一人や二人どころではない。こんなに一気に子どもたちが養父母に引き取られるものだろうか。
嫌な想像で首筋に冷や汗が伝ったが、ご機嫌そうな孤児院長の顔を見たことで嫌な想像が少しだけ薄まった。
この孤児院は、きっとあの件とは関係ない。
もしもあの件に巻き込まれているのだとしたら、子ども想いの孤児院長がご機嫌でいられるはずはないのだから。
「アデルバートさん、お久しぶりです」
「久しぶりになってすみません。いつもより来訪するまでの期間が空いてしまいましたよね。一か月半ぶりくらいでしょうか。実はいろいろと立て込んでたもので」
「あら、非難するつもりで言ったわけではありませんよ。ただの挨拶です」
会うなり謝罪をした俺に対して、孤児院長は朗らかな笑顔を見せた。
「応接室へどうぞ。それとも子どもたちと遊んでからにしますか?」
「用事を先に済ませてから、心置きなく遊びたいです」
「ではこちらへ。すぐにお茶を用意しますからね」
俺は勝手知ったる家のように応接室まで歩いた。
孤児院内はどこも補修をしているようで、以前と比べて見違えるほど綺麗になっている。応接室のソファもよれよれの古いものではなく、孤児院には不釣り合いな新品のソファに代わっている。
……今の綺麗になった孤児院には、新品のソファも不釣り合いではないかもしれないが。
俺が孤児院の変わりように驚きつつ応接室で待っていると、すぐに孤児院長がお茶を持って入って来た。そして俺と自分の前にお茶を置く。湯呑みも新しいものになっているようだ。
「孤児院が綺麗になっていて、ビックリしたでしょう?」
「はい。例のパトロンですか?」
「その通りです。子どもたちのためだと仰って、金銭の寄付だけではなく調度品もくださったのです。まさかソファまで頂けるとは思いませんでした」
「……ずいぶんと太っ腹ですね」
「この孤児院との結びつきを強くしたい思惑もあったのでしょうね」
結びつきを強化するためとは言っても、ずいぶんな出費だ。例のパトロンは、貴族かやり手の商人か、もしくは荒稼ぎをしている冒険者なのだろう。
「せっかく孤児院が綺麗になったのに、子どもたちは養子に行ってしまったんですね」
「孤児院を卒業することは、子どもたちにとって幸福な出来事です。確かに孤児院が綺麗になったことによる恩恵は得られませんが……その代わりと言っては何ですが、最近は他の孤児院の子どもを受け入れることもしています。孤児院はどこも貧乏ですから」
「その割には子どもたちの数が少ないように見えるんですが……」
庭で遊んでいる子どもたちの数を見るに、とても他の孤児院から受け入れをしているとは思えない。
「現在孤児院にいる子どもは、庭で遊んでるあの子たちだけですか?」
「そうなのです。それもパトロンのおかげですよ。たくさんの子を自身の屋敷に迎え入れてくれたのです。ありがたいことです」
「パトロン……サヴィニアさんという方に引き取られた子どもは今、どうしてるんですか? 元気ですか?」
「あら。サヴィニアさんのことをご存じなのですね」
サヴィニアの名前を出すと、孤児院長は一瞬驚いた顔をした。確かに俺は孤児院長からサヴィニアの名前は聞いていないが、子どもたちに口止めをしていないのでは、すぐに名前が伝わってしまう。子どもは悪気無く情報を拡散してしまうから。
「それでサヴィニアさんのところへ行った子どもたちはどうなったんですか?」
「優しいサヴィニアさんに引き取られたのですから、みんな幸せに暮らしているはずですよ。便りが無いのは良い便りと言いますでしょう?」
孤児院長は心からそう思っているようで、朗らかな笑みを浮かべている。
……これですべてを知っているのだとしたら、大した役者だ。
「実は今回は寄付をするために来たわけではなくて、ただ子どもたちと孤児院長の様子が見たくて寄ったのです。申し訳ありません」
「謝る必要なんてありませんよ。お金はサヴィニアさんから十分頂いていますから。でも、ふふっ。子どもたちの様子が見たいのは分かりますが、私の様子までみたいだなんて。アデルバートさんは面白い方ですね」
「あはは。定期的に会ってるせいか、孤児院長のことを親戚みたいに感じてるのかもしれません」
孤児院長との会話は終始和やかムードだった。
だからきっと、孤児院長は何も知らない。
悲劇的な事態を止めるために今すぐ忠告をしたいところだが、まだ俺の想像の域を出ない。孤児院長に余計な心労を掛けるわけにはいかないため、確証が取れるまでは何も言わないでおこう。
「お尋ねしますが、今後もサヴィニアさんが子どもを引き取る予定はあるんですか?」
「直近では、今週末にローズマリーを引き取ってくださる予定ですよ」
「……そうですか」
「ああ、そういえば今日、サヴィニアさんの使いの方がローズマリーの様子を確認に来る予定です。ですので知らない方が孤児院に来ても、気にしないでくださいね」
俺は孤児院長に頭を下げると、応接室を後にした。




