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「よし、行くぞ!」
掛け声とともに、サイラスが大型のモンスターに突進した。素早い動きでモンスターの攻撃をかわしながら、モンスターに大剣を突き立てる。よくもまあ、あんなに重そうな剣を持ちながら素早く動けるものだ。何度見ても感動してしまう。
しかし大型の割にモンスターも機敏に動くため、なかなか急所に攻撃が当たらない。
「アデル! モンスターにデバフ魔法を掛けてくれ!」
「了解!」
デバフ魔法……サイラスは俺がいつもモンスターの動きを遅くする魔法を使用していると思っているようだが、実のところ俺はモンスターに対して重力魔法を使用している。
モンスターの行動が遅くなるという点では同じだが、重力魔法はそれ自体がモンスターの身体に負荷を掛けており、要は補助魔法に見せかけた攻撃魔法なのだ。
その重力魔法をモンスターに向かって放つ。もちろん呪文の詠唱は小声で。
魔法を受けたモンスターの動きが鈍くなったところで、サイラスとミルカちゃんがモンスターの首を狙う。
「食らえーっ!!」
「これで終わりだ!」
サイラスの大剣とミルカちゃんの弓は、別方向からモンスターの首に直撃する。
首を攻撃されたモンスターは、叫び声を上げることも出来ないまま絶命した。
「やったか!?」
「モンスターは死んだみたいだたから、あとはモンスターの中から別のモンスターが出てこなければ…………ああっ!?」
絶命したはずのモンスターがもぞりと動いた。腹のあたりが、うごうごと蠢き……。
「逃げるぞ!」
サイラスの叫び声に反応して、全員が出口に向かって走った。
まだ顔すら見えていないが、きっとあのモンスターの腹の中にも別のモンスターが潜んでいる。あと数秒もしたら、外側のモンスターを破って飛び出してくるだろう。
「どうしてここにもあのモンスターがいるの!?」
「もしかすると、モンスターの中に入るタイプのモンスターが、ダンジョン内で増えてるのかもしれない」
「そんな発表は聞いてないよ!?」
確かにギルドはそのような発表を出してはいない。
しかし。
「どうやら本格的にギルドの発表は信じられないようですね。あのタイプのモンスターの目撃情報は握り潰しているようです」
「そう思った方が良さそうだな……ってことは、どこのダンジョンでもあのタイプのモンスターが出没してる可能性が高いな」
「俺たちの運が超悪くて、あのモンスターはこの世に二体しか存在しないのに、二回連続であのモンスターのいるダンジョンを引いちゃっただけって可能性もあるけどな!」
「運が悪いにもほどがある!」
その可能性が絶対に無いとまでは言えないが、限りなくゼロに近い確率だ。
それにこのダンジョンは立ち入り禁止だったわけではない。俺たちがダンジョン探索を休んでいる数か月の間、このダンジョンに誰一人潜らなかったとは思えない。それなのにダンジョンに立ち入った冒険者全員が、あの大型モンスターを倒せなかった?
確かにあの大型モンスターは大きくて素早かったが、複数人で挑めば討伐できる程度の強さだった。
大型ゆえに冒険者全員がダンジョン内であのモンスターを見逃したとも思えない。
ここから導き出される答えは……あのモンスターはごく最近、このダンジョンに出現するようになった、とか?
モンスターの生態には詳しくないが、そんなことがあり得るのだろうか。
「ポピュウーーー! ポピョオォォーーー!!」
俺が一人で思考の海を泳いでいると、大きな鳴き声が聞こえてきた。
「もう腹の中から出てきたのか!?」
後ろを振り返ると、一体のモンスターが俺たちを追いかけて来ている。腹から出たばかりだと言うのに、かなり足が速い。
「この前のモンスターよりも足が速くない!?」
「スピード型のモンスターと言うことでしょうか」
「かもな。その代わりに炎を吐いてはこないみたいだ」
今回のモンスターは俺たちのことを追いかけてくるだけで、まだ攻撃はしてきていない。爪や牙で攻撃をする、接近戦タイプのモンスターなのかもしれない。
「ピイィィィーー! ポポッピィィーーー!」
「なんかあのモンスター、めっちゃ鳴くね!?」
「赤ちゃんは泣くものですから」
「アレ、赤ちゃんなのか!? 前にもそんな話をしたけどさあ!」
「種類は先程のモンスターと違うみたいですが……人間にも父親似、母親似がありますから」
そりゃあ父親似、母親似くらいはあるだろうが、種類まで変わってくるものだろうか。
目を凝らして例のモンスターを眺める。
「……うおっ! よく見るとさっきのモンスターと同じ角が生えてるぞ。全体的なフォルムが違い過ぎて気付かなかったが!」
「ではあのモンスターは、全体は父親似、部分的には母親似ということですね!」
「それ、このピンチに役立つ情報!?」
「いいえ、まったく!」
オリビアがにっこりと笑いながら答えた。
割と余裕があるな!?
もしかしてオリビア……俺の能力を当てにしてないか!?
当てにされたところで全力の重力魔法を見せるつもりはないので、このピンチを切り抜けるにはダンジョンの外に逃げ切るしかない。
「パペアァァーー! ピャアァァァーン!!」
「出口が見えてきた。もう少しだ!」
追いかけてくるモンスターを振り切るように、全員でダンジョンの出口へ急ぐ。ダンジョンの入り口にはギルドが結界を張っているため、モンスターはダンジョンの外に出ることが出来ないからだ。
「パアアデエエエー! ポオニイピャャアアァァーーーッ!!」
…………え?
俺がモンスターの鳴き声に驚いて振り返ると、前を走るミルカちゃんに腕を強く引っ張られた。
「ゴール手前で気を抜かないで、バカアデルバート!」
俺はそのままダンジョンの外へと連れ出された。
「このダンジョン、ギルドに報告するべきかな。どう思う?」
「私たちは知りすぎたからってギルドに消されたり……は、しないよね?」
全力疾走でダンジョンを出たはずなのに、サイラスとミルカちゃんはもう息が整っている。
一方で俺とオリビアはいまだ地面に寝転がってゼエゼエと荒い呼吸の真っ最中だ。
……なんだか前にも見た光景だな。
「さっきの、見なかったことにする?」
「報告しないと他のパーティーがこのダンジョンに潜っちゃうかもしれないだろ」
「今さらだけど、あのモンスターって狂暴だったのかな? 狂暴じゃないなら報告しなくても良くない?」
ミルカちゃんはギルドへの報告をためらっているようだ。前回の報告を幻覚で済まされたことと今回あのモンスターがダンジョン内に出たことで、ギルドへの信用が無くなっているのだろう。
「そりゃあ狂暴……いや、前回のモンスターが狂暴だっただけで、今回のモンスターは分からないか」
「狂暴なものの、わたくしたちに追いつけなかったために、攻撃を繰り出せなかっただけの可能性もあります」
「そうなると、やっぱり報告しないで放置してたら危険だよね?」
「…………」
サイラス、ミルカちゃん、オリビアの三人が例のモンスターについて話し合っている横で、俺は一人で考えごとをしていた。
ダンジョンから出る寸前の、あのモンスターの鳴き声が、頭から離れないのだ。
「アデルはどう思う? ギルドに報告するべきかな」
「…………うん」
「アデルバートさん、聞いていますか?」
「…………うん」
「アデルバート、どうしたのぉ? まさか恐すぎて心神喪失しちゃったのぉ?」
「…………うん」
「ダメだこりゃ。心ここにあらずって感じ」
俺は行かなくてはならないのかもしれない。
真実を知ることは怖いが、知らないままではいられない。
「……俺、用事があるから。もう行くよ」
「やっと喋ったと思ったら、なにそれ」
「まあまあ、ミルカさん。行かせてあげましょうよ。顔を見る限り、きっと大切な用事なのでしょうから」
「……うん。すごく大事な用事。じゃあな」
俺は三人を残してこの場を去った。




