●23
「またあのバカ強いモンスターは出ると思うか?」
「平気じゃない? 私たち以外にあのモンスターを見た人はいないんでしょ?」
「わたくしたちも、あのモンスターを見ていないことになっていますよ」
「ああ、そうだったなあ」
ダンジョン内を進みながら雑談をする。話題はもっぱら例のモンスターのことだ。
あれ以降ダンジョン内に例のモンスターが出たという目撃証言が無かったため、あのモンスターは突然変異だったのだろうということで、俺たちは今日久しぶりにダンジョンに潜ることにしたのだ。
念のため、潜るのは例のモンスターがいたダンジョンではなく、まったく別のダンジョンだが。
「あそこのダンジョン、また開放してるよね。あのモンスターはまだいるのかな?」
俺はダンジョンから出る前にあのモンスターに重力魔法を使用した。重力魔法によってモンスターは地面にめり込んだが……あの後どうなったのだろう。
あの魔法で死んだとは思えないが、地面にめり込んだままなら、そのうち餓死するはずだ。
……いや、その前に調査に入ったギルドによって処分されただろうか。
ギルドによってダンジョンが封鎖されていたため真相は分からない。
「アデルバートさん、進行方向はこっちですよ」
「あ、ああ」
オリビアに声を掛けられてハッとする。
俺は考えごとをしていたせいで、みんなと別の道を進もうとしていたらしい。
「あの強いモンスターと同種のものがいるかもしれないので、迷子になろうとしないでください」
「今のは迷子になろうとしたわけじゃなくて、ぼーっとしてて」
「そんな言い訳が通用するのは最初の一回だけですよ」
俺のことを信じようとしないオリビアに若干イラっとする。
今のは本当に、ぼーっとしていて道を間違えただけなのに。
「ちょっと間違えたくらいで、そういう言い方は無いんじゃないか?」
「アデルバートさんはちょっとと仰いますが、ご自分がダンジョン内で何回迷子になったか数えたことがあるのですか? 両手の指では足りないくらいの回数、はぐれているのですよ?」
そんなにはぐれただろうか。
……はぐれた気がする。
もちろん本当にはぐれたわけではなく、わざとはぐれて、はぐれた先でモンスターを倒して素材やアイテムを入手していたわけだが。
でも。
「これまでのことは今関係ないだろ。今はぼーっとしてただけだ!」
「オオカミ少年は何を言っても信じてもらえないものです。アデルバートさんはすでにオオカミ少年なのですよ」
「それはオリビアの個人的見解だろ!?」
「いいえ、客観的事実です!」
俺も大人げないが、オリビアもかなり大人げない。
二人して語気を強めながら言い合いをする。
「めっずらしーい。オリビアが誰かと言い合いをするなんて。言い合いっていうか、ただアデルバートが叱られてる感じ? 聞いてる限り、アデルバートが悪いね」
「オリビアはこれまでずっとアデルの迷子に苛立ってたんだろうな。おい、アデル。毎回迷子になってるお前に勝ち目はないから早く諦めろ」
俺たちの言い合いを見たサイラスとミルカちゃんがオリビアに加勢した。
三対一だ。くそお。
「……分かったよ。はぐれないようにするって」
「是非そうしてください」
「実際、いつあのモンスターが出てもおかしくない今の環境ではぐれられたら困るよ。弱っちいアデルバート一人じゃ、例のモンスターにギッタンギッタンにやられちゃうでしょぉ? 私、アデルバートの死体を回収するのはパース」
自身の指でバツ印を作りながら、ミルカちゃんが舌を出した。
最高! ミルカちゃんのこのセリフが聞けたから、オールオッケー!
「アデルに限らず、誰も死ぬようなことがないように、ダンジョン内では気を抜くなよ」
「そうだぞ、みんな」
「今アデルバートさんだけはそのセリフを言ってはいけない気がします」
「……って、お喋りをしてる間に大型モンスターのお出ましだよ!」
ミルカちゃんの指差す先には、三メートルほどの巨体を持つモンスターが立ちはだかっている。
「大型のモンスターか。嫌なことを思い出すな」
「まさか連続で例のモンスターに会うことはないって。見た目もこの前のモンスターとは違うもん」
「ですが、また中から強いモンスターが現れたら……迷わず逃げましょうね。例のモンスターはわたくしたちが太刀打ちできる強さではありませんでしたから」
そう言いながら、オリビアがちらりと俺のことを見た。
俺が本気を出すなら話は別、とでも言いたいのだろうか……言いたいのだろう。
「モンスターの中から新たなモンスターの姿が見えた瞬間に、出口へ向かってダッシュしような!」
俺は本気で戦う気が無いことを、暗にオリビアに伝えた。
ミルカちゃんにまで俺が強いと思われてしまっては、ハッピーメスガキ様ライフが完全終了してしまうからだ。
何を置いても、それだけは避けねばならないのだ。




