●19
薄暗い地下室には、大きな檻が置かれていた。そしてその中には……。
「アデルお兄ちゃん!」
俺の姿を見たガブリエラが歓喜の声を上げた。ガブリエラは俺のことを誘拐犯の一味だとは疑ってもいない様子だ。今のガブリエラにはメスガキ要素が皆無だが、この信頼は素直に嬉しい。
「人間を檻に入れるなんて酷いな。ここにいる全員が誘拐された子どもか?」
檻の中にはガブリエラの他にも、三人の子どもが入っている。三人ともガブリエラよりも幼いように見える。その幼い子どもたちが、全員やつれた顔で座っている。きっと彼らはガブリエラよりも前に誘拐犯に捕まって、その後ろくな食事を与えられていないのだろう。
「そうみたい。あたしたち、どうなるの? アデルお兄ちゃんが助けてくれるの?」
「ああ。そのつもりでここへ来たんだ。誘拐犯は俺の仲間が倒したから安心しろ。動けないやつはいるか?」
檻の中の子どもたちに目をやる。
ガブリエラとあと二人は自力で歩くことが出来そうだが、残りの一人の少年は檻に寄り掛かったままうつろな目をしている。
「あの子のことは俺が地上まで運ぶ。だから残りのみんなは自力で階段を上ってくれると助かる」
「自力で階段を上れって言われても、この檻はどうやって開けるの? アデルお兄ちゃん、檻のカギは持ってる?」
俺は首を横に振った。
残念ながら俺は、檻を開けるカギを持ってはいない。しかし子どもたちを檻から出すことは容易だろう。
「みんな、後ろに下がっててくれ」
俺は懐から杖を取り出すと、全員が檻にもたれた少年の近くまで移動をしたことを確認してから、重力魔法を使用した。
「重力発生――グラビティ・オカー――」
俺は鉄格子の一本に、右から左への重力を加えた。すると鉄格子は真ん中でぐにゃりとねじ曲がる。
同じことを、今度は左から右に向けて行なう。
二本の鉄格子が左右に曲がったことで、子どもが通り抜けられるだけの隙間が出来た。
「アデルお兄ちゃんって、もしかして……すごいの?」
ガブリエラが目を丸くしながら言った。
本当はメスガキ様であるガブリエラには実力を隠しておきたかったのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。早くしかるべき処置をしないと、特にあのうつろな目をした少年が危険だ。
「そこの少年をここまで引っ張ってくることは出来るか? さすがに俺じゃあこの隙間を通れなくてさ」
俺に指示された子どもたちは、全員で少年を檻の端まで引っ張った。そのまま少年を鉄格子の隙間に押し込む。少年が檻の外まで出たところで俺が背負うと、残りの子どもたちも次々に檻から出てきた。
状況が状況のため、顔見知りのガブリエラは俺の指示に従ってくれると思っていたが、他の二人も素直な子たちで助かった。
……誘拐犯たちに恐怖や暴力で「素直な子にさせられた」のかもしれないが。
今は素直で助かっているが、無事にここを出た後の彼女たちが、ワガママで生意気なメスガキ様として振る舞ってくれることを切に願う。大人の顔色を窺って、大人の望む行動しか出来なくなった子どもは可哀想だから。
「みんな、俺の後をついてきてくれ。薄暗いから十分に気を付けるんだぞ」
薄暗さのせいで子どもたちが転ばないかと心配をしていたのだが、ずっと暗闇にいたことで目が慣れていたのか、子どもたちは軽快な足取りで階段を上ってくれた。これはありがたい誤算だ。
「……ん?」
地上が見えたところで、急に背中が軽くなった。
俺が少年を背負っていることに気付いたミルカちゃんが、少年を地上に引き上げてくれたらしい。
「ありがとう。まずはその子に水を飲ませてやってくれ。状態が悪いみたいなんだ。水を飲ませた後は診療所へ連れて行こう。怪我をしてるわけじゃないから治癒魔法じゃ治らない」
地上に上がった俺はそう言うと、少年をミルカちゃんに任せ、残りの子どもたちの様子を確認した。
全員が久しぶりに見る明かりを眩しそうにしていたため、目が眩んで階段から落ちないように引き上げてやる。
「オリビアは衛兵を呼んできてくれ。全員が誘拐された子どもだそうだ。ガブリエラもいた」
「はい、呼んできます!」
さっと立ち上がったオリビアが、すぐに酒場を出て行った。
俺が地下室から戻ってくるまで衛兵を呼びに行かなかったのは、もしここが誘拐犯のアジトではなかった場合、逆にサイラスが暴行で捕まると思ったからだろう。
町で清廉潔白だとうわさされているオリビアは、実は意外としたたかなのだ。
「サイラスは目を覚ました男たちが攻撃してこないように見張っててくれ」
「まかせろ! ちなみにさっき喋ってた男にはまた眠ってもらったぞ!」
「お、おう……」
サイラスが爽やかな笑顔でサムズアップをした。




