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【完結】メスガキ様にざぁこ♡と罵られたいから、真の実力は隠そうと思う  作者: 竹間単
◆第二章 メスガキ様と過去

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12/39

●12

 少女は俺のことを嘲笑しながら、町の中を進んでいく。やはり少女はこの辺に住んでいるわけではないようで、裏道や近道を通りはしない。その代わり、通行人の間をするすると駆け抜ける。

 そしてようやく止まったかと思うと、少女は一件の家の扉を叩いていた。


「すみませーん。お家にいらっしゃいますかー?」


「いい加減にしろ、このクソガキ!」


 扉に向かって呼びかける少女の首根っこを掴む。


「やっと捕まえたぞ。手こずらせやがって」


「えーっ!? もうちょっとだけ待ってくださいよ。すみませーん、扉を開けてくださーい!」


 俺に掴まれても、少女はなおも扉に向かって呼びかけている。

 そのとき目の前の家の扉が開いた。そして扉の中から出てきたのは。


「えっ。アデルバート?」


「……親父?」


 忘れもしない親父の顔が、俺の目の前にあった。

 この意味の分からない状況に、しばし頭がフリーズする。

 それは親父も同じだったようで、俺たちは無言で向かい合ったまま、目をぱちくりとしていた。

 そして十分に見つめ合った後、俺よりも数秒早く硬直の解けた親父が口を開いた。


「アデルバートは墓地以外にも行けるようになったのか」


「……もともと墓地以外にも行ってるよ。食料を買いに出歩いたりとか」


「…………」


「…………」


 俺はお袋が死ぬまで、親父と何を話していただろうか。

 毎日何かしらの会話はしていたと思うのだが、会話内容を思い出すことが出来ない。


「……親父は、ここに住んでるのか?」


 それでも無言のままでいることも気まずいため、何とか話題を絞り出す。


「ああ、そうだ」


「同じ町に住んでるとは思わなかった。てっきり別の町に引っ越したものだとばかり……」


「仕事もあるのに、そう簡単に別の町へはいけない。それにこの町にいれば何かと情報も入ってくるしな」


 情報……親父が言っているのは、俺の情報のことだろう。俺一人を前の家に置いたまま新居で暮らしているくせに、よく言う。本当に俺のことを気にしているなら、俺も新居に連れて行けばいいだろうに。

 ああ、そうだ。この機会に、気になっていたあの質問もしてしまおう。


「親父が家を出て行ったのって、お袋の面影がある俺と顔を合わせたくなかったから?」


 俺に問われた親父は、心底驚いた様子で目を見開いた。まるで俺がそんな風に感じていることになど気付かなかった、とでも言いたげだ。


「いいや。そんな風に思ったことはない。確かにお前はあいつに似ているが、お前はお前だ、アデルバート」


 親父が自身の胸中を言葉にした。

 お袋はお袋、俺は俺。

 ……もし本当にそう思っているのなら、これまでの行動の辻褄が合わない。


「俺のことをお袋と切り離して考えてるなら、親父はどうして家を出て行ったんだよ!? 俺の顔を見たくなかったから出て行ったんだろ!?」


「それは違う!」


「違わないだろ!? それ以外に親父が俺を遠ざける理由がない!」


「俺は……塞ぎ込んでいくお前と、どう接すればいいのか分からなかったんだ」


 ぼそりと親父が呟いた。

 どう接すればいいのか分からなかった!? まさかそれが、これまで俺を避けていた理由だったのか!? そんな幼稚な理由で、俺は、俺たちは……。

 身体中から力が抜けていく。


「それならそうと言ってくれよ。俺のことを避けずにさあ」


 お袋が死んで、親父にも避けられて、俺は一人ぼっちになったのだと思っていた。

 だが実際はそうではなかったらしい。


「もし言ったら、お前が俺に気を遣うと思ったんだ。無理して接しやすいように振る舞うんじゃないかって」


「……なんだよ、それ」


 そんな振る舞いはしなかった……と否定は出来ないが、それにしたって気持ちを言葉にしてほしかった。いくら親子でも、言葉にしないと伝わらないこともある。


「親しき中にも礼儀ありとは言いますが、もっと本音でぶつかってもいいんじゃないですか、二人とも」


 突如として、可愛い声が聞こえてきた。

 もちろん親父ではない。ずっと俺たち二人のやりとりを横で見ていた、あの少女だ。


「いい加減にしろ!って怒鳴りたくなるくらいで、ちょうどいいと思いますよ。この世でたった二人の家族なんですから」


 そう言って、少女がにこりと笑う。

 俺が少女に釘付けになっていると、少女は笑みを優しいものから悪戯っぽいものへと変えた。


「ふふっ。もしかして天使みたいな私に、惚れちゃいました?」


 少女は自分で天使みたいと言ったが、俺のことを馬鹿にして、墓地から町なかまで走らせた少女には、天使要素が一つも無い。


「お前のどこが天使みたいなんだよ!?」


「だってお兄さんを元気にして、お父さんと話をさせてあげたんですよ?」


 親父と話をさせたのはその通りだが、俺を元気にした……?

 意味が分からず首を傾げると、少女が誇らしげに述べた。


「気付いてます? 今のお兄さん、とっても元気に見えますよ? 私のおかげですね!」


 元気……確かにこんなに走ったのはお袋が死んでから初めてだし、こんなに喋ったのも怒鳴ったのも、そうだ。元気と言われれば、その通りなのかもしれない。



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