46(クラウド視点)
39、40あたりの話です。
騎士団の仕事を終えて、リディアナの自室まで迎えにいったとき。
扉が開いて、クラウドは頭が沸き立つような怒りを感じた。
「泣きましたね?」
確信をもって問いかけると、リディアナは驚きにぱちぱちと瞬きさせた。
誰に泣かされたのか、聞いても答えようとしない。
泣いていないと、嘘をつく。
浮かんだ苦笑ともいえる表情に苛立ちが募る。
感情のままソファへ運び、そのまま座面に動けないように拘束した。
「随分、見くびられたものです」
化粧と張り付いたような笑顔で誤魔化せると思われているのか。
(こんな小細工をしても、無駄なのに)
「いつもより目が2ミリほど腫れていますね。それに瞳の潤みも強い。これで気が付かないと思ったんですか?」
それでも目にごみが入っただけだと言うリディアナに沸き上がるのは悲しみだった。
泣いたと判断した根拠を一つずつあげていき、追い詰める。
それでもなにも言わないリディアナに最後は情けなくも、泣き落としのようになってしまった。
信用されていない、という現実に、拘束を解いて体を起こす。
(少し頭を冷やそう)
このままでは怖がらせるだけだと離れようとしたとき、リディアナに抱きつかれたのは予想外だった。
いつもであれば難なく支えられるその体も、気を抜いていたせいで後ろに倒れる。
軽蔑されたくないのだと泣きながら言うリディアナの頭を撫でる。
(わたしが、貴女を軽蔑することなどあり得ないのに)
そう思いながら話を聞いていた。
(やはりクズはクズにしかなり得ない)
宝石の庭と婚約話に食いついたのは予定通り。
けれど提案などと称してリディアナを追い詰め、泣かせたことは許せなかった。
クズに国王の椅子を譲らせるため計画。
その一つが偽の婚約だった。
相手はもちろんクラウドが用意した。
クラウドに対して借りがある男の中から利用できそうな人物を選んだ。
もちろん実際に婚約させるつもりなどない。
城が息苦しいという彼女は、王子の妻など望まないだろうから。
最初はもう少し穏便に済ませる予定だったけれど、時間もかかりすぎているように思うから仕方がないだろう。
多少手荒くはなるが、さっさとその椅子を次に譲ってもらう。
「すみません、リディ。もう少し時間をください」
駒はもう揃っているのだ。
ひとつは次期国王候補として目をつけていたオズワルド。
以前は自信を持てずこちらの提案にのるか決めかねていたが、リディアナと話したことで、やるべきことに気付いたようだった。
ひとつは、今まで国王に虐げられてきた北方の領民たちの悲しみの種。
国王が撒いたそれに、怒りという肥料をあげて育ててやれば簡単に憎悪の実がなった。だが彼らは権力を持たない一般の国民だ。だから力がないと嘆く彼らに復讐のお膳立てをしてあげようと囁いた。時期はこちらで指定するが、あとのやり方は自由にしてくれて構わないと伝えてある。
(自分で撒いた種は自分が責任をもたないといけませんよね?)
最後に、リディアナの母親もその無事を確認済みだ。
心を乱すのも良くないのでリディアナにはまだ伝えていない。
早く伝えたい、と思う。
そうすれば彼女の感情は自分に向くだろうか。
それを楽しみに、クラウドは唇を舐める。
時は満ちた。
さあ、始めようか。




