後日談 愛と認識した日
「クラウドは、何時から私のことが好きだったの?」
期待に目を輝かせながら仰ぎ見てくるリディアナを腕の中に閉じ込めたままクラウドは思い返す。
「…思えば最初から、のように思いますが、自覚したのは…」
リディアナとサフィアスが花びらの舞う中、楽しそうに笑っていたあの瞬間。
あの時、間違いなくクラウドの中で変わったのだ。
それまでクラウドはリディアナに対する想いが"友愛"だろうが"主従愛"だろうが"恋愛"だろうが、はたまた"執愛"だろうが何でも良いと思っていた。
大切なのは、一番近くにいられること、だ。
リディアナの意識に自分がいるならば満足だ、と思っていた。
最初の小さな違和感は、魔女サルティアと再会したリディアナが笑顔で、嬉しそうに話しているとき。
嫌悪というほどではなく、強いて言うなら不快というのか。
おもしろくない、というのが近いのかもしれない。
けれどそれはサルティアがリディアナと出会って16年間で培ったものだ。
時間を費やせばクラウドも手に入れられると思えば、まぁいいかと思える程度だった。
次の違和感は不快であると認識できるほど。
オズワルドを愛称で呼び、楽しそうにしている姿を見たとき。
初めて会った血が半分繋がっているだけの弟に気を許し、話す言葉には敬語がない。それだけでずっとと親しいように感じた。
(わたしは、まだ名前の呼び方にも距離があるのに)
何度かクラウドと呼んで、と願ったが無理だと断られた。
それなのに家族というだけで、自分が越えられていない壁を難なく乗り越えてしまったオズワルドを羨ましく思った。
不愉快だったが仕方がない。
彼は一応、リディアナの家族なのだ。
そう思えば、まだ我慢することができた。
最後の違和感は嫌悪。
言うまでもなくサフィアスと一緒にいる姿を見たとき。
家族でも何でもない、親交も深くない男が何故親しげにリディアナと話しているのか。
リディアナの髪についた花びらを摘まんだ時は、その腕を切り落としてやろうかと思うほど、強い嫌悪に襲われた。
たかが婚約者役というだけで、あっという間に自分よりも近いところに行ってしまった。
結婚の話を用意したのは自分なのだから滑稽な話ではあるが、駄目だった。
考えるだけで苛立ちが募る。
許せるはずがない。
だって。
(リディの隣はわたしのものなのに)
クラウドはそう考えたことに困惑した。
わたしのものなんて、どうしてそう思っていたのか。
笑顔も、赤面する顔も、泣き顔も、一番近くで見てきた。
これからもずっと、頼られるのは自分だけだと。
そう思い込んでいたけれど。
(なんて思い上がりをしていたのだろう)
今までは自分しかいなかった。
でも恋人ができたら?結婚したら?
自分ではない男を見て、楽しそうに笑って、恥ずかしそうに俯いて。
嬉しい時も悲しい時も、傍にいるのは自分ではなくなるのだろうか。
(嫌だ)
この醜い独り善がりな想いを"愛"と呼ぶだけで傍にいられるのならば、そうしよう。
他の人間には許されない、リディアナの"一番近く"にいけるのならば。
(本当はもっと綺麗なものなのかもしれませんが、"愛おしい"気持ちには変わりないですから、いいですよね?)
「クラウド?」
回想に耽ってしまったクラウドをリディアナが真ん丸の目で不思議そうに見てくる。
(さて、どこまで言っていいものか)
「貴女が、サフィアス殿下と仲良くしていることに嫉妬をして、自覚しました」
言葉を濁して伝える。
(だって自分に向けられた汚い感情を聞いてしまったら、逃げたくなるかもしれないでしょう?)
その証拠に。
嫉妬してくれたの?なんてリディアナが嬉しそうに笑っているのだから、これで良かったのだ。
どろどろの醜悪なものは、綺麗な感情で覆い隠してしまおう。
全てはリディアナが、安心して愛されてくれるために。




