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抱き付いた拍子に、バランスを崩したクラウドが後ろへ倒れ込む。
先程とは逆に、リディアナがクラウドを押し倒しているような格好になっていることに本人はまだ気づかないが。
「…殿下」
口を開いたクラウドの言葉を遮るようにリディアナは声を出した。
「軽蔑、されたくないんです」
「軽蔑なんてするはずないでしょう」
リディアナはふるふると首を横に振る。
「私、醜くて、酷い人間なんです」
「なぜ?」
優しく抱き締め返され、頭に置かれた手が落ち着かせるように撫でられる。
それに酷く安心するのと同時に、これから口に出すことに恐怖する。
「わ、たし……お母様の自由を願ったんです」
他の人の不幸と引き換えに。
そうしてリディアナは今日の国王陛下の庭での話を洗いざらい話してしまった。
(言うつもりは、なかったのに)
無言が痛い。
クラウドの顔を見るのが怖かった。
「ああ、あの国王の考えそうなことですね」
発せられたクラウドの声にびくりと身をすくませる。
何時もなら、国王陛下をクズだなんて!と諌めるが、今日はそれもない。
それどころではなかった。
「それで、どこがどうして貴女が醜くて酷い、という話になるんですか?」
「だ、だって…」
「貴女にその提案を持ちかけたクズが醜悪で、愚かなだけでしょう」
リディアナがなにかを言い返す前にクラウドは言葉を続けた。
「そもそもこんなものは提案でもなんでもない。ある意味脅迫と言う方が近いかもしれません。恐らくは貴女が断ったとしても、母君の命をちらつかせて是が非でも頷かせたでしょう」
その可能性を否定できないことに、リディアナはふるりと震えた。
「貴女をこんなに悩ませ、泣かせてしまって申し訳ありません。手っ取り早く母君を救出することも考えましたが、些か乱暴な手段になります。国も混乱するでしょうし、貴女も望まないと思ったのですが、それにしても少々時間がかかりすぎましたね」
リディアナは首を横に振る。
クラウドは団長に自分の護衛に、そのうえ母親のことまで随分と大変だろう。
どうにかしようと、動いてくれるだけでもありがたいのだ。
「すみません、リディ。でももう少しだけ時間をください」
そっと囁かれるその言葉に、リディアナは何度も頷く。
「…ありがとう、クラウドさん」
静かに流れる涙もそのままに、リディアナはしばらくクラウドにしがみついていた。
―――――――
そうして、しばらく。
リディアナは我に返り、今の体勢を理解する。
(わ、わわわわわたし!!)
「ご、ごべんなざい!」
ばっと勢いよく離れた後の第一声は随分と鼻声だった。
ずっとリディアナが顔を埋めていた肩口は涙(鼻水は無いと思いたい)でぐしょぐしょになっていた。
「ああ、残念。貴女の温もりが心地よかったのに」
名残惜しそうにクラウドが言い、そっとリディアナの頬に手を当てる。
「先程よりも腫れてしまいましたね」
「…でも、すっきりしました」
「いつもこんな風に、素直に甘えてくれて良いのに」
「あまり私を甘やかすと痛い目をみますよ」
いつもクラウドに甘えっぱなしなのに、何を言うのだろう。とリディアナは苦笑した。
(結局、深く閉じ込めた想いについては言うことができなかったけれど)
そう考えるリディアナにクラウドは思い出したように告げる。
「婚約者、についても心配要りませんよ」
リディアナは驚きに目を見開いた。
「貴女が望むなら、その心も守ると約束したでしょう?」
貴女はどうも忘れっぽくていけませんね。
そういってクラウドは愉しそうに微笑んだ。




