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デビュタント兼第三王女お披露目会があと1週間後に迫ったとき、リディアナは国王陛下に呼ばれていた。
クラウドは別の仕事で席をはずしている。
(なんか、不安)
クラウドがいないことに大きな不安を感じなからも、別の騎士に付き添われて向かった先は、いつもとは異なるローズガーデンだった。
一面、虹色に輝く薔薇に囲まれている。
「わぁ…不思議な薔薇…」
「珍しいだろう?」
ここは代々国王と許可した者しか入れぬ庭なのだ。
不意に後ろから声をかけられてリディアナは急いで振り返る。
「国王陛下におかれましては――」
「堅苦しいのはよい」
フィラー夫人から習った挨拶をしようとして、それを制される。
「さぁ、こちらへきて座りなさい」
示された席へ腰を降ろすと、国王陛下が口を開く。
「最近はどうだ?城には慣れたか?」
「はい、皆様とても良くしてくださいますので」
「そういえば、八番目の王子と仲良くしているようではないか」
この人はまた、息子の名前も覚えていないのか、とリディアナは少し気分が悪くなる。
「オズワルド殿下でございますね。仲良くしていただいております」
内心の嫌悪を隠してリディアナは微笑む。
「おお、そうして笑うとナディアによく似ている」
母親の名前が出たことでリディアナの顔色が変わる。
それをみて国王陛下は微笑んだ。
「お前が母親を気にしていることは知っている。よく塔をみて悲しそうな顔をしているとメイドから報告を受けているからな」
リディアナが言葉を選んでいると、先に国王陛下が再び口を開いた。
「お前の母親を塔から出してもいい。正気かはわからん。だがもし、正気だったとして、塔が見くびられても困る。噂を聞いたことがあるだろう?」
あれは抑制の意もあるのだよ。
そうして、悲しそうな顔を作った国王陛下は、提案がある、と言う。
「ひっそりと塔からだし、正気ならば国外でなら通常の生活もできるだろう。そこで、お前にいい話があるのだが…」
国王陛下は一度言葉を切ってリディアナを見る。
「隣国エメンディアの第二王子との結婚話だよ」
「けっこん…?」
リディアナが茫然と繰り返すと、国王陛下は重々しく頷いた。
「ようやく手元に戻ってきたかわいい娘を嫁がせるのは心が痛むが、そうすればお前の母も侍女として秘密裏に国から出すこともできる。それにかの国には宝石での花で出来た内庭園があると聞く。第二王子が所有しているというそれは、仮に王子に不幸があった場合、妻へと所有権は移るそうだ」
わかるね?と国王陛下はリディアナが膝の上で握りしめていた手を両手で包む。
「お前は母の自由を得られる。悪い話じゃないだろう?」
つまりは、その宝石の庭が欲しいのだろう。
「…不幸など、そう起きるものではないでしょう」
「それに関してはお前は考えなくてよい、王族の不幸など珍しくもないのだから」
自分の欲のため、弑するつもりだろうか。
リディアナは唇をかんだ。
(それでも、母の自由は欲しい)
「……そのご提案、お受け致します」
答えたとたんに心臓がちくりと痛む。
「よろしい!我が娘は美しい上に賢明だ!」
泣きそうなリディアナに対して国王陛下は満足した顔で笑っている。
そしてリディアナにそっと囁く。
「なに、すぐに戻れるよう取り計らってやろう」
強欲で他者を踏みにじる目の前の男に嫌悪が募る。
(でも、私も同罪ね)
詳細は追って伝える、という国王陛下に臣下の礼をとり、急ぎ足でその庭園を後にする。
先程まで綺麗だと思っていた虹色の薔薇は、今では酷く禍々しいもののように思えた。




