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「じゃあ、姉上は今頑張ってるんだね」
あのお茶会から、たまにオズワルドと会い、あのローズガーデンを一緒に散歩することが多くなっていた。
オズワルドと会うときは、クラウドは少し離れるようにしてついてくる。
「うん、知らないことばかりだから、大変だけどね」
「どうして姉上は頑張るの?あの騎士がいるならすぐにでも連れ出してくれそうなのに」
あの騎士、とはクラウドのことだろう。
「逃げ出したいと思うことはないの?」
オズワルドの質問にリディアナはなんて答えようかと考える。
「逃げ出したいと思うことはあるけど、逃げたら一番の望みが叶わないもの」
「一番の望み?」
「私のお母様をあの塔から出してあげるの」
弟だしいいか、とリディアナは話すことにする。
リディアナの母親の話は王族ならば知っているようだった。
オズワルドも納得したように頷いた。
「僕にも出来ることがあればいいんだ、けど…」
不自然に言葉が切れる。
「姉上。僕、少し用事を思い出したから、今日はもう戻るね」
またお散歩しよう、と言い残して、オズワルドは背を向ける。
なんとなくその後ろ姿を追っていると、オズワルドはクラウドの元へ行き、何かを言うと足早に庭園を後にした。
もう戻る旨を伝えに行ったんだろう、リディアナは深くは考えずに、また薔薇に目を向ける。
「もう少し庭園を見ていきますか?」
振り返るとクラウドが楽しそうにリディアナを見ていた。
(何か良いことでもあったのかな?)
機嫌の良さそうなクラウドに、自分も戻ることを伝える。
少し早いが、もうすぐフィラー夫人のダンス講義だ。
(予習、復習大事)
リディアナは覚えることは得意としている。
恐らくステップはそう苦労せずに身に付けられるだろう。
だが懸念事項は人の目だ。
人前で踊らなければならないと考えると嫌でも力が入る。
(緊張しても踊れるように体に覚え込ませないと)
そう意気込んで挑んだ講義だったが。
結果は惨敗。
今まで教育者としての顔を崩すことのなかったフィラー夫人ですら、頭を抱えるほどだった。
「しばらくはダンスの練習を増やしましょう」
「よろしくお願い致します…」
しょんぼり肩を落として部屋を後にすると、部屋の前にいたクラウドが心配そうに尋ねる。
「なにかありましたか?」
その問いかけに、リディアナは首を横に降ることで答えた。
先も述べた通り、リディアナは暗記は得意と自負していた。
ダンスのステップも簡単に覚えられたし、頭の中で思い描くことだってできた。
だが、足が縺れてしまうのだ。
今日だって何度足を踏んだことか。
最初のステップすら踊りきることが出来なかったのだから。
(至近距離が苦手とかそういうレベルじゃなかった)
とぼとぼ歩いて、気が付くと自室の前だった。
部屋に入って、頭上から小さな溜め息が聞こえる。
慣れない浮遊感の一瞬後には、いつも見上げているクラウドの頭がリディアナの目線の高さにあった。
横抱きではなく、クラウドの腕に太股を乗せるような形で縦に抱えられていた。
「クラウドさん?」
「やっと目が合いましたね。何がそんなに、貴女を落ち込ませているんですか?」
その優しい瞳にリディアナはすべてを吐き出していた。
「初めてのことが上手く出来ないのは当然です。落ち込む必要なんてないじゃないですか」
「でも、もう2週間しかないのに」
リディアナが落ち込む理由は、あと2週間で形にする自信がないからだった。
「ふふ、貴女にも年相応なところがあったんですね」
そんなリディアナの悩みをクラウドは意外な点を発見したとばかりに微笑む。
(悩みを相談したのにそれを笑うなんて)
リディアナはむぅと唇を尖らせる。
「あぁ、すみません。馬鹿にしたわけではないんです。一生懸命に悩んでいる貴女が可愛らしくて」
「うそ、馬鹿にしてるじゃないですか…もう降ろしてください」
リディアナは抱き上げられた状態で、つんとそっぽを向きながら降ろすように要請する。
「貴女は忘れているようですが、練習相手になると言ったはずです」
リディアナは、でも…と俯いた。
「時間もそんなにないです」
すっかり自信を失ったリディアナにクラウドは自信満々に告げる。
「時間がない?ふふ、あと2週間もあるじゃないですか」
ぱちくりと瞬きを繰り返しクラウドをみるリディアナに、クラウドは再度告げる。
「わたしが、必ず出来るようにしてあげます」
絶対大丈夫、と力強く言われると、何故かそんな気がしてくる。
リディアナはこくりと頷いた。
(そうだ、2週間もあるじゃない!だからこそ、落ち込んでる暇なんてないわ)
そっと床に降ろされ、リディアナは勢い良くクラウドに頭を下げた。
「クラウド先生!ご指導よろしくお願いします!」
そのすっかり輝きを取り戻した瞳をみて、クラウドは満足げに微笑んだ。




