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リディアナは困惑していた。
目が覚めて見慣れない寝台にびっくりして、思い出す。
(そうだ、お城にきたんだった)
それにしても。
ピンクと白がベースの部屋はまだいい。好みではないけれど。
それでも成人した女性にこのふりふり天蓋付きベッドはさすがに…
そう思っていると、部屋の扉がノックされる。
返事をすると、数人の侍女が入室する。
「おはようございます、ヒルデリア様」
「お、はようございます」
先頭にいる侍女が口を開く。
「ヒルデリア様の侍女をさせていただくことになりましたサティと申します。なにかございましたら、なんなりとお申し付けください」
残りの侍女の挨拶もおえると、では身支度を、と身ぐるみ全てをひっぺがされる。
「じ、じじじぶんでできます!!」
「ヒルデリア様。なにかお気に障られたでしょうか、その者は身をもって反省させ、2度とヒルデリア様の御前に姿を現さないよう――」
「いえ!そういうことではなく!」
危ない、人ひとりの人生を台無しにしてしまうところだった。
「では、なにか問題がございましたか?」
「……いえ、よろしくお願いいたします…」
リディアナは諦めて脱力した。
―――――――
全てが終わった頃にはリディアナはぐったりとしていた。
人に世話をされるというのは、こんなにも疲れることだったのかと背凭れに体を預ける。
コンコンと扉がノックされ、返事をするとそこにいたのは宰相とクラウドだった。
「おはようございます、ヒルデリア様」
「おはようございます」
「お疲れのように見えます、よく眠れませんでしたか?」
クラウドが顔を歪める。
「いえ、誰かに支度をしてもらうのが初めてで…」
苦笑いを浮かべながらリディアナが言うと、クラウドは合点が言った表情になる。
「さて、まずはヒルデリア様についてお話を伺わなければなりません」
「私について、ですか?」
宰相が真面目な顔で頷いた。
「12年前のことです。ヒルデリア様が失踪されことに陛下は大層お心を痛めておいででした。いったい何があったのかお聞かせいただけますか?」
「…お話ししたいのは山々ですが、私も記憶がないのです。養母からはカタルフィーナ国郊外の森の入り口で倒れていたと聞きました。記憶のないままそこで12年を過ごしました。クラウドさんと出会ったのもつい最近です」
このあたりの話は聞かれると予想していたため、予めクラウドと打ち合わせ済みだった。
「その、養母殿はどちらに?」
「2年ほど前に…」
「…それは辛いことをお聞きしました」
「いえ…」
濁した言葉の先は"旅に出てこの間久しぶりに会いました"なのだが、うまく勘違いしてくれたのでよかった、とリディアナは儚げにみえるように微笑む。
「瞳の色は自分でもよくわからないのですが…最近、城下で絡まれた時に変わった、みたいです。それからは皆さんも知っている通り、です」
なるほど。そう宰相は頷いて、クラウドへと視線を向ける。
「では次に。任命式の日、オルゼンベルグ殿は突如なにかを感じ取ったかのように王宮を飛び出したと報告を受けています。ヒルデリア様の危機を感じ、駆けつけたと推察していますが、それに関してはいかがですか?」
「ええ、その通りです」
クラウドは肯定する。
「それは、どのようにして?」
「簡単なことです。王女殿下に片割れのお守りを渡しておりました。その共鳴によって危機を感じ、自分の魔力を辿って居場所を探知致しました」
宰相の瞳が鋭く光る。
「ヒルデリア様のご身分は城下で絡まれて明らかになったはず。そのお守りとやらを渡したときは、まだわかっていなかったのでは?」
「ええ、そうですね」
「王女であると判明する前から、大層なものを渡したのですね?」
宰相が浮かべるのは、疑いの目。
公爵家の力を削る機会を得るべく、問い詰める。
「いけませんか?心優しきこのお方に初めて会ったときから守ると決めていました。ですが我が心臓は王家に捧げている。代わりのモノをお渡しして当然ではありませんか」
「ふぅん…なるほど、ね」
つまらなさそうに宰相が返事をする。
「なにを疑われているのか存じませんが、これだけは明言いたしましょう。わたしが王女殿下のお心に、そしてこの印に叛くことは有り得ません。今までも、これからも、です」
強い意思の籠る瞳に見据えられ、宰相はたじろいだように咳払いをして話を変えた。
「ではヒルデリア様の今後の予定についてご説明致します」
宰相は説明を始める。
まず、第三王女としての公表。
ちょうど一月後にデビュタントのための舞踏会がある。
そこで貴族への発表。その後時期を見て王国民へもお披露目会を行う。
それまでに、貴族マナーを学ぶ必要があるため、今後舞踏会まではみっちりとお稽古が組み込まれているらしい。
それから、異母兄弟たちとの交流。
これは今後時間のとれるときに行うらしい。
すでに他国へ嫁いでいる異母姉達へ会うのは国王陛下の誕生日になりそうとのことだった。半年以上先の話だ。
そして、護衛騎士について。
リディアナが慣れるまではクラウドが務めることになったと聞き、安心する。
ただ、騎士団の任務で傍を離れなければならないこともあるため、その時は別の騎士が護衛をするということだった。
「なにかご質問はございますか?」
「今のところは大丈夫です」
宰相が満足そうに頷く。
「では本日はここまでにいたしましょう。明日からは講師をつけて、勉学に励んでいただきますので、今日はゆっくりとお過ごしください」
宰相が部屋を出ていき、リディアナはようやく肩の力を抜いた。




