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「お疲れ様でした。王女殿下、お茶の用意をさせましょう」
クラウドが微笑みながら侍女に指示をだす。
その様子を目で追いながら、リディアナは最近よく感じる寂しさをまた感じていた。
(今までなら…)
侍女が全て出ていき、二人きりの室内でリディアナは疲れのままにその思考を口にしていた。
「…最近、名前を呼んでくれなくなりましたね」
「…え?」
驚いたように目を見開くクラウドに、リディアナは我に返る。
(あれ?今私はなにを…)
そして思い出して赤面する。
「いや、その、違うんです!名前を呼んでほしいとかそういうことでは…もちろんちょっと寂しいなとは感じてましたけど、ってあれ?私なに言ってるんだろう!」
わたわたと両手をふって弁明するリディアナに、何かを言おうとしてクラウドは扉へ視線を向ける。
少し待っていてください、と言い残して、ちょうどお茶を持ってきた侍女と二言三言交わして、茶器を受けとり戻ってくる。
部屋の中は変わらず2人。
クラウドがお茶を淹れている音だけが響く。
(無言が痛い、恥ずかしい…)
「それで…」
唐突にクラウドが口を開いた。
「ひゃい!」
裏返った返事をするリディアナにくすりと笑うと、クラウドは続ける。
「それで、名前を呼ばれなくて寂しかったのですか?」
「い、いえ、……その通りデス」
否定しようとして、上手い誤魔化しも見つけられずに、結局肯定した。
「………」
(居たたまれない…)
暫しの沈黙に俯くと、再びクラウドが話し始める。
「わたしにとって、貴女の名前はたった一つなのです」
他の名前は呼びたくない。
思ったよりも近くで聞こえた声に顔をあげると、先程よりずっと距離を詰めたところにクラウドがいた。
「貴女はその名を知られたくなさそうでしたので、自重していたのですよ。でも仕方がないですね、大切な主を悲しませるのは本意ではありません」
ふわりとクラウドの香りが鼻を擽る。
気が付けば、リディアナの顔の両サイドに肘を付き、ソファとクラウドに囲われるような体勢で…
ピアスをつけている方の髪を耳に掛けられる。
頬と頬が触れ合いそうな距離で、吐息と共に言葉が耳に押し込まれた。
「こうして囁く程度ならきっと誰にも知られないですよね?リディ」
耳まで赤面し、ぱくぱくと口を動かすだけのリディアナを見て、クラウドはもう一度唇を寄せる。
「どうしましたか、リディ?まだ足りない?」
心臓が早鐘を打つ。
(し、死んでしまう!!)
何度も小刻みに首を横に振って気づくが、時すでに遅し。
リディアナの耳にクラウドの唇が触れる。
「ぴゃぁぁぁああぁぁ!!!!!」
奇声と共に囲いを脱け出したリディアナは、応接間のような部屋を飛び出し続き部屋の先にある今朝は趣味が悪いと思っていたベッドへ逃げ込む。
(いやいや、あの体勢で首を振ったらそりゃ当たるに決まってるよね!何やってるんだろうね!!)
たった一瞬のことなのに、燃えるような熱を感じた。
それがまだ残っているような気がして、リディアナは耳に触れる。
控え目なノックと、扉越しにくぐもったクラウドの声が聞こえた。
「殿下?すみません、わざとではなく…」
弁明が聞こえるが、リディアナはしばらく返事が返せなかった。




