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「大丈夫ですか?」
クラウドが心配そうにリディアナを覗き込んでいた。
詳しい説明は明日に致しましょう、と宰相はメイドを呼び、部屋に案内するように指示を出した。
案内された部屋はとても豪華だったが、リディアナは落ち着かない気持ちになっていた。
「大丈夫です。ただ、少し勘違いをしていて」
「勘違い、ですか?」
「"今が特別"なだけですぐに前のような生活に戻れるなんて」
母親を助けて、また妖精の森のあの小さな家で。
魔女と、叶うなら母親と3人で暮らしながら、休みの日にはクラウドが遊びに来る、そんな生活を描いていた。
「貴女は、森に戻りたいですか?」
「お城はとても息が詰まるような気がします。でも本当に大したことではないんです。何故か今日の謁見が終わったら公爵家のお屋敷に戻れるのだと、勝手に思い込んでいて…」
それで少し動揺しただけなので、大丈夫です。
リディアナは胸に残る寂しさのような感情を押し殺して、心配をかけないように笑顔をつくる。
ふと、リディアナと目を合わせるようにクラウドが床に膝をつく。
「無理して笑わなくていいんですよ。…貴女を王都へ連れてきてしまったのは、わたしです。辛いなら、私にぶつけてください」
そういうクラウドの方が、辛そうな顔をしているのを見て、リディアナは慌ててその言葉に首を横に振った。
「クラウドさんのせいではないです。むしろ、手っ取り早くお母様をあの塔から出すことが出来るかもしれないので、良かったと思うんです」
紛れもなく、リディアナの本心だ。
ただ、国王陛下が、想像もしていなかった現在が、そして未知のこれからが、恐ろしいだけ。
リディアナは自分の手をきゅっと握り、俯く。
「ただ、嫌な予感というほどではないですけど、なんだか…少し落ち着かなくて」
"恐ろしい"という言葉は使わなかった。
クラウドはそんなリディアナの心を読み取ったように、大丈夫と言い聞かせる。
「誰が相手だとしても、命を懸けて必ずわたしが貴女を守ります。だから安心して――」
「そんなのは、私は嫌です!」
リディアナは思わずクラウドの言葉を遮って声をあげた。
クラウドは驚いたように目をぱちぱちとしている。
「…そんなの、嫌です。大好きなお友達を犠牲にして、幸せになんてなれるはずない。命をかけるくらいなら、一緒に逃げてください。守ると言ってくれるなら、心も一緒に守ってほしいです」
リディアナは自分でも無茶を言っている、ということは理解していた。
クラウドは騎士なのだ。
誓いを結び、王族に心臓を捧げているうえ、クラウドに至っては血の契約まで行っている。
そんな相手に、死ぬなら一緒に逃げて!だなんて横暴なのかもしれないけれど…
先程のクラウドを見下ろす国王陛下の目を思い出す。
あれは、人を人とも思っていないような、冷たい視線だった。
嫌な感覚がそれと重なる。
「無茶を言ってるってわかってるけど、私…」
滲む視界に握っていた手に力を入れると、その手を温かな両手にそっと包まれる。
「貴女が望むのならば"否"はないと言ったでしょう?」
「クラウドさん…」
2つのアメジストが優しく細められる。
「もちろん、危険がない限り、という条件はつきますが」
「…じゃあ、私も危険にならないように頑張ります」
リディアナがはにかむように笑うと、クラウドもつられるように笑顔になった。




