29 (クラウド視点)
パレードに間に合ったクラウドは、馬上で歓声を浴びていた。
それを無表情で聞き流しながら、思い返す度に腸が煮え繰り返るような苛立ちを押し殺していた。
それは任命式が終わり、さあ着替えを!と別室に連れていかれていたときのこと。
リディアナに渡していたピアスの片割れが燃えるような熱を持った。
その瞬間、クラウドは心臓を鷲掴まれたような嫌な感覚に、すぐさま踵を返した。
後ろからクラウドを呼ぶ声などまったく耳にはいらなかった。
すぐに魔力を探知し居場所を探って、ぎりっと歯を噛み締めた。
"リディが城下で危険な目に合っている"
(何故、リディが城下にいる?)
何故、何故、と同じ疑問が頭の中で繰り返される。
指笛に呼ばれて駆けてきた愛馬に跨がり、その場に向かう。
薄氷を踏んでいるような恐怖感に、息ができない。
「っ、は」
やっとの思いでリディアナを見つけたとき。
男2人に押さえつけられ"やめて!"と叫んでいるのを聞いたとき。
頭に血が上り、真っ白になる。
なのに感覚は妙に鋭敏で、冷たさを感じるほどに冴え渡る。
(リディの前で、殺してはいけない)
一瞬の判断で昏倒させ、異変に付いてきていた騎士の一人にすぐに捕縛させた。
リディアナの顔を覗き込んで見えた金色をみてブレスレットが外れていることに気付くが、それも最早どうでもいい。
「怪我はないですか?」
その問いに呆然としながらも何度も頷く姿をみて、ようやく息ができた。
少しだけ震えている体に自分の上着をかけて、すぐさま公爵家へと向かう。
体温を分けるように抱き締めるとそれまで強張っていた力が抜けた。
首に顔を埋めるように抱きつかれたときは不覚にも体が震えけれど。
屋敷に入り、飛んできたメイドから簡単に経緯を聞き、後悔した。
(やはり害悪は面倒臭がらずに処理しておくべきだった)
元々身内の情があったわけでもない。
自分の判断ミスのせいで、主が危険に晒された。
それが、腹立たしい。
一度リディアナを休ませるため部屋へ運ぼうとすると、一緒に応接間に行きたいと言う。
まるで離れるのを嫌がっているように首に回っていた両腕に力が込められ、思う。
(このまま、わたしがいなければ駄目になってしまえばいいのに)
一人では
立つこともできず
呼吸さえもままならない
そうなればいい
いや、そうなるように……?
(この醜くも甘美な感情はなんなのだろう)
過った疑問は頭に残らなかった。
これが愛でも執着でも、たとえ狂気であっても。
クラウドはなんでも構わない。
重要なのは、一番近くにいる、ということなのだから。




