第七話 初めての気付き
買い物を済ませ、午後の営業を開始する。
シルバも制服に着替えてきた。ドレス風の制服はよく似合っている。
飲み込みも早いし、工房に入っていても、何かあればすぐに呼びに来てもらえばいいだろう。
「シルバ、一人で接客してみるか? 何かあれば工房に呼びに来てくれればいい」
「お任せください、ご主人様。元貴族のプライドにかけて、粗相はいたしませんわ」
社交界にいた経験もあるし、こういった対応は得意らしい。
「じゃあ、頼む」
オレは工房に入り、商品の製作を始めた。
しばらくすると、冒険者が来店した。
「今日は稼ぎが良かったから、いい出物があれば武器を買い換えるか」
そんな会話をしながら、店内の商品を物色している。
「お客様、よろしければお手伝いいたしますわ」
「ああ。じゃあ、金貨五枚くらいで買える両手剣を探しているんだが……」
冒険者はそう言いながら、店員の顔をちらりと見た。
……めちゃくちゃ美人だな。しかも制服がよく似合っている。
「両手剣でしたら、こちらになりますわ」
シルバは商品棚から何本かの剣を選び、それぞれの特徴を説明していく。
鋼鉄製の大剣、モンスターの牙を加工した大剣、ミスリルを含有した鉄鋼製の大剣。
それぞれの長所や扱いやすさ、価格まで、丁寧に説明している。
「なるほどなぁ……」
冒険者は剣を手に取り、何度か振るように構えてみた。
「この獣牙の大剣がいいんだけどな。値段は金貨八枚か……ちょっと予算オーバーだ。それに、どうにも手に馴染まないんだよな」
「左様でございますか」
「うーん、今回はやめておくか。また来るよ、おねーさん」
そう言い残し、冒険者は店を出ていった。
それからしばらくして、別の冒険者が来店した。
こちらは革鎧のあちこちに傷がついている。
「店員さん、革の鎧ならどれがおすすめ?」
シルバは予算を聞き、いくつかの商品を紹介した。
しかし、冒険者が必要としている性能の鎧は予算を超えていた。かといって、安いものでは本人の希望に届かない。
「うーん、今すぐ買い換えるのは厳しいな……」
冒険者は悩んだ末、結局何も買わずに帰っていった。
午後の営業は、どうにも売り上げが伸びない。
閉店前にやってきた魔道士が新しいロッドを購入してくれたものの、午後の売り上げは金貨三枚だけだった。
普段なら、それでも十分な売り上げだ。一日で金貨五枚ほど売れれば悪くない。
だが、今はそうも言っていられない。
閉店後、シルバが夕食を作ってくれている間に、オレはシャワーを浴びた。
さっぱりして食卓につき、用意された料理を口に運ぶ。
「……このままだと、税金が払えないな」
思わず、独り言が漏れた。
「ご主人様、税金でお困りなのですか?」
シルバがこちらを見る。
「まあな。今はあまり詳しく話しても仕方ない」
「そうですか……」
シルバはそれ以上聞かなかったが、少し考えるような表情を見せた。
そして、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ご主人様。今日のお客様ですが、武器の握りが手に馴染まないとおっしゃっていた方や、傷ついた革鎧を買い換えようとしていた方がいらっしゃいましたわ」
「ああ、いたな。それがどうした?」
「どちらも、結局お買い上げにはなりませんでした」
「まあ、予算が合わなかったんだろう」
「それもあると思います。ただ……」
シルバは少し言葉を選んでから続けた。
「武器の握りなら、調整して差し上げることもできますわよね?」
「ん? ああ、もちろんだ。握りの太さを変えるくらいなら、すぐにできるぞ」
「革鎧も、傷んだ部分だけ交換できるのではありませんか?」
「それもできる。部品単位で売っているし、傷み具合によっては修理もできる」
答えてから、ふと気づいた。
そういえば、あの冒険者たちは、そこまで相談してこなかったな。
「ご主人様、失礼ながら、お客様の中には、ご自分からそのような相談をなさるのが苦手な方もいらっしゃるのではありませんか?」
「……そうかもしれんな」
確かに、カウンターには修理や部品交換についての案内も書いてある。
だが、全員がそこまで目を通すわけではないし、そもそも何を頼めるのか知らない客もいるだろう。
「とはいえ、オレが一人ひとりに聞いて回るわけにもいかないからな。今までは製作も接客も、全部オレ一人でやっていたんだ」
「でしたら、明日からはわたくしがお客様に確認いたしましょうか?」
「お前が?」
「はい。お客様のお話を伺って、修理や調整で対応できそうでしたら、ご主人様にお伝えしますわ」
ふむ。
接客を任せられるのなら、その分、オレは工房での仕事に集中できる。
もちろん、何でも引き受けていたら製作の時間がなくなってしまう。だが、握りの調整や簡単な部品交換なら、それほど時間もかからない。
使う素材もわずかで済む。
「……なるほどな。試してみる価値はありそうだ」
「お役に立てれば幸いですわ、ご主人様」
シルバはいつものように上品に微笑んだ。
明日から、少しやり方を変えてみるか。
そんなことを考えながら、オレは夕食の続きを口に運んだ。




