第六話 初めてのお買い物
昼食の片付けも終わり、二人で商店地区へと向かった。
まずは食器やタオルなどの生活用品を買いに行く。自分用のものも買っているので、店の場所も予算もだいたいわかっている。
「やあ、オヤジ。ちょっと見させてもらうぞ」
店に入ると、顔なじみの店主に軽く声をかけた。
「おう、ノーブ。今日は何を探しに来たんだ?」
「食器類と洗面用具、それから必要なものを見繕ってくれ。一応、オレも確認するからな」
「はい、ご主人様」
シルバは素直に返事をすると、店内を見て回り始めた。
その間に、オレは店主に声をかける。
「オヤジ、女性用の服を扱っている店で、いいところを知らないか?」
「女性用? ノーブ、誰だ? 嫁か? 美人だな」
質問の答えになっていないが、まあ、オレでもそう思うだろう。
「訳あって、店を手伝ってもらうことになったんだ」
「そうか。まあ、深くは聞かんが……女性用なら、通りを二つ西に行った角にある店がいいぞ」
「助かる」
軽く礼を言い、シルバの様子を見に行く。
すると、彼女は店内のある場所で足を止めていた。
「どうした?」
「いえ、なんでもありません」
そう言いながら、シルバは視線をそらした。
気になって彼女の見ていた先をのぞくと、そこには鏡が置かれていた。
……ああ、うちにはないものだな。
「必要なら買っていいぞ」
「いえ、大丈夫です」
きっぱりと断られてしまった。
値札を確認すると、金貨一枚。
「……高いな。鏡って、こんなにするのか」
今の懐事情では、気軽に買える値段ではない。
まだ買ってやれんな。
そう思ったが、それ以上は何も言わず、買い物を続けた。
必要な生活用品をそろえ、次は店主に教えてもらった服屋へと向かう。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、女性店員が出迎えてくれた。
「すまないが、女性が生活するのに必要な衣類を見繕ってほしい。予算は……」
シルバには聞こえないように、店員に予算を伝える。
彼女に選ばせると、遠慮して必要なものまで諦めてしまいそうだからな。
「かしこまりました。少々お待ちください」
しばらくして、店員が戻ってきた。
「必要な衣類は予算内でそろえられました。それと、シルバさんからお聞きしたのですが、武器屋で働かれるそうですね。制服はいかがなさいますか?」
「制服?」
そんなもの、考えたこともなかった。
店員を見ると、エプロンを合わせたワンピース姿だ。派手すぎず、仕事もしやすそうな格好をしている。
「ああ、そういうのも制服なのか」
「はい。普通のお店なら、制服を用意しているところも多いですよ」
言われてみれば、酒屋や八百屋、肉屋の店員も、いつも似たような服装をしている。
なるほど。店の制服か。
「ちょっと見せてもらえるか?」
女性店員に案内され、制服が並ぶ棚を見せてもらう。
メイド風のものからドレス風、動きやすそうな作業着風まで、種類はさまざまだ。
「……多すぎて、よくわからんな」
ひと通り眺めてみたものの、どれがいいのかさっぱりわからない。こういうときは、詳しい人間に聞くのが一番だ。
「武器屋なら、作業着風がいいのか?」
「それも悪くありませんが、武器屋のお客様は男性が中心ですよね? それなら、可愛らしさや清楚な雰囲気があった方が、お店の印象もよくなると思いますよ」
なるほど。確かに一理ある。
店員に勧められたメイド風とドレス風の制服を見比べる。
どちらも悪くない。だが、決め手に欠ける。
ふとシルバに目を向けると、こちらを見つめ返してきた。どうやら、完全にオレにお任せするつもりらしい。
「お前はどっちがいいんだ?」
「ご主人様のお好きな方で構いませんわ」
……まあ、そう言うと思った。
正直に言えば、オレの好みはメイド風だ。だが、シルバに似合うのはドレス風の方だろう。
かといって、両方買う余裕はない。
「……よし、こっちにするか」
選んだのは、ドレス風の制服だった。
やはり、着る本人に似合うものが一番だろう。
「かしこまりました。それでは、試着室でサイズを確認いたしましょう」
シルバは店員に案内され、試着室へと入っていった。
しばらくして、サイズの確認をするために姿を現す。
「お待たせいたしました、ご主人様」
そこに立っていたシルバを見て、オレは思わず息をのんだ。
予想以上だった。
もともと整った顔立ちをしているのだから、似合うだろうとは思っていた。だが、ドレス風の制服をまとった姿は、想像していた以上に美しい。
「……へえ。いいじゃないか」
思わず、そんな言葉が口から出た。
「お気に召しましたか?」
「ああ。よく似合ってる」
シルバは小さく微笑んだ。
結局、生活用品に加えて制服まで買うことになり、予算はまたしてもオーバーしてしまった。
だが、これから店を手伝ってもらうのだ。店の印象がよくなり、客が増えるなら、無駄な出費ではない。
……そう、これは先行投資だ。
オレは自分にそう言い聞かせ、会計を済ませた。




