第五話 始めての接客
翌朝。
いつもより狭く感じるベッドで目を覚ました。
隣には、一糸まとわぬシルバが――いない。
……あれ?
起き上がって服を着ると、キッチンからいい匂いが漂ってきた。
そちらへ向かうと、テーブルにはすでに朝食が用意されていた。
「おはようございます。ご主人様」
シルバが笑顔で迎えてくれる。
朝日を浴びたその笑顔が、やけに眩しかった。
「ああ、おはよう。早起きなんだな」
「ご主人様より遅く起きる奴隷などおりませんわ」
……そういうものなのか?
ともあれ、二人で朝食をいただくことにした。
ふと、シルバの服装に目が留まる。
昨日と同じ服だ。
「シルバの生活用品も買う必要があるな」
「とんでもございません。わたくしはこのままで十分ですわ」
「いやいや、洗い替えもないだろう。タオルも下着も必要だし、服だって一着じゃ困るだろ」
「ですが……」
「いいものは買えないが、必要なものくらいは揃えないとな。ないと、こっちも困る」
シルバは少し驚いたように目を見開いたあと、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、ご主人様」
さて、買い物に行くのは昼休みだな。
朝は冒険者の来客が多い。午前中は店を開けて、昼休みを少し長めに取ることにしよう。
……しかし、女性用の服や生活用品なんて買ったことがないぞ。
「シルバ、どこかいい店を知っているか?」
「貴族が利用する店でしたら存じておりますが、奴隷向けの店となると……」
「わたくしにも分かりかねますわ」
奴隷用の店なんて、わざわざあるものなのか?
露店で買うことになるのだろうか。
「まあ、庶民向けの店なら商店地区にあるだろう。あとで探してみるか」
朝食を終え、開店の準備を進める。
「シルバには接客を頼みたい。今までは一人で全部やっていたからな。早く仕事を覚えてくれると助かる」
「かしこまりました。元貴族として、接客の教育は受けておりますわ」
……接客というより、社交や礼儀作法の教育だった気もするが。
まあ、細かいことはいいか。
「午前中はオレも店頭に立つ。分からないことがあれば、何でも聞いてくれ」
「承知いたしました」
こうして、シルバの初めての接客が始まった。
*
開店して間もなく、常連の冒険者がやってきた。
「いらっしゃいませ」
いつものように声をかける。
「いらっしゃいませ」
もう一つ、聞き慣れない声が続いた。
冒険者は店内を見回し、シルバに目を留めた。
「おい、ついに店員を雇ったのか? ……って、美人じゃないか!」
「まあ、そんなところだ」
オレは苦笑しながら、店頭に並べた装備品を指さした。
「新作もあるぞ。見ていくか?」
「おっ、新作か?」
「シルバ、こっちに来てくれ。装備の説明をする」
「はい、ご主人様」
オレは新作装備の特徴や性能を説明した。
シルバも隣で真剣に耳を傾けている。今後、自分で客に説明できるよう、商品知識を覚えてもらわなければならない。
「なるほどな……。いい装備だけど、今はちょっと手が出ないな。金を貯めて、また来るよ」
「ああ、待ってるぞ」
新作に興味を持ってくれたのはありがたいが、そう簡単に売れるものでもない。
その後も何人か客が訪れ、午前中の営業は無事に終わった。
売れたのは、壊れた片手剣の買い替えと、矢や投げナイフなどの消耗品がそれぞれ二十本。
売上は金貨二枚ほど。悪くはないが、特別よかったわけでもない。
昼休みになり、オレたちは一度店を閉めた。
昼飯は朝食の残りに、お湯を沸かして淹れたコーヒーを添える。
食事を済ませ、オレはシルバを見た。
「さて、買い物に行くか」
「はい、ご主人様」
こうして、シルバの生活用品を揃えるため、商店地区へ向かうことになった。




