第三話 初めての食卓
ダンジョンで採取した、十五体分のメイルバッファローの皮。
これを加工して硬革にするわけだが、そこから先は革職人の出番だ。
バッファローの肉は、一体分だけ持ち帰った。今日の晩飯に使い、残りは干し肉にして保存しておくつもりだ。
「シルバ、家事はできると言っていたな? 晩飯を頼めるか?」
「もちろんですわ。他の食材はありますか?」
「キッチンの棚にあるから、好きに使っていい。調味料も一通りあるし、ハーブも置いてある」
こう見えて、オレは食事にこだわる方だ。
鍛冶は力仕事だし、塩分だって欠かせない。
「では、お任せください」
「頼んだ。オレは知り合いの革職人に加工を頼んでくる」
王都での移動は、基本的に徒歩だ。
さて、残っている資金は金貨五十枚ほど。
この国では、年間売り上げの五パーセントを税金として納める決まりになっている。
今年の通常売り上げに加え、帳簿上では宝剣の代金も売り上げに計上されている。だが、実際にはその代金を受け取れていない。
帳簿の上では売り上げがある。だが、手元に現金はない。
このままでは、納税に必要な金額に対して、手持ちの資金が金貨百枚ほど足りない。
……無理だ。どうする?
そんなことを考えながら、革職人の工房へ向かった。
いつも通り、加工代は素材の現物支給で支払う。皮の三分の一を職人に渡し、残りの三分の二をこちらで受け取る契約だ。
革の加工は手間がかかる。職人に渡す分を考えても、加工賃としては安いくらいだろう。
依頼を済ませ、職人と少し雑談してから帰宅した。
すると、家の外にまで、うまそうな匂いが漂っている。
……うちからだよな?
ドアを開けると、シルバが料理を作っていた。
食卓にはステーキにサラダ、スープ。それに焼きたてのパンとワインまで用意されている。
ワインは、何か祝い事があったときのために取っておいたものだ。
いや、何でも使っていいとは言ったが、まさかあれを見つけるとは。
「あ、お帰りなさいませ、ご主人様」
シルバは手を止め、こちらに向き直った。
「良いワインがありましたので、それに合わせて料理を作りました」
ああ、普段飲みするためのワインじゃなかったんだが……まあ、いいか。
「シルバとの出会い祝いってことにしておくか」
せっかくの料理だ。冷めないうちに食べよう。
……と思ったのだが、シルバはなぜか席に着こうとしない。
「どうした? 食べないのか?」
「わたくしは、残飯でもいただければ充分ですわ」
……いや、この量をオレ一人で食べろと?
もしかして、残飯を食べるつもりだったから、最初から二人分を作っていたのか?
「シルバ、一緒に食べるから座りなさい」
「ですが……」
「これは決まりだ。うちでは一緒に食べることにする」
会話もしたいし、一人で食べるのは居心地が悪すぎる。
だから、今日からそれが我が家のルールだ。




