第一話 金貨1000枚の代わりに
オレがシルバと出会ったのは、十年前の冬だった。
ある貴族から依頼されていた、最高級の宝剣を納品したときのことだ。
その貴族は宝剣を受け取ると、代金の代わりだと言って、一枚の奴隷契約書と一人のダークエルフを差し出してきた。
オレが宝剣の報酬として請求したのは、金貨1000枚。それなのに……。
「ダークエルフの奴隷は金貨2000枚の価値がある。取っておけ」
その貴族は、さも当然といった顔でそう言った。
差し出されたダークエルフは、見た目だけなら十八歳ほどだろうか。
身長は百七十センチほど。女性らしい豊かな体つきながら、立ち姿にはしなやかな力強さも感じられる。
浅黒い肌に、肩へ流れる銀色の髪。そして、薄い赤色の瞳。
ダークエルフ特有の長い耳と整った顔立ちも相まって、どこか人間離れした美しさがあった。
身にまとっているのは、上質な生地を使ったドレス風の普段着だ。ただ、裾や袖口をはじめ、あちこちが傷んでいる。元はかなり高価な服だったのだろう。
そして、首元には奴隷であることを示す首輪。
服装や立ち居振る舞いには、今の境遇とは不釣り合いな気品が残っていた。
奴隷などに興味はなかったが、金貨2000枚の価値があるという言葉を信じ、オレはひとまず引き取ることにした。
ところが、奴隷商館へ転売しようと連れて行くと、まさかの買取不可。
聞けば、シルバは元貴族。それどころか、王族の許可がなければ売買すらできないらしい。
確かに、金貨2000枚でも安いとは言われた。しかし、一介の鍛冶師であるオレに、王族への伝手などあるわけがない。
結局、シルバを連れて帰るしかなかった。
奴隷契約書の上では、オレが主人ということになっている。
そう。売買はできなくても、譲渡ならできるらしい。
あの貴族にまんまと嵌められたわけだが、嘘をつかれたわけでもない。貴族相手に問題を起こすわけにもいかなかった。
「さて、どうするか……。宝剣の代金は未払いのまま、奴隷は増えた。おまけに生活費まで増えることになる」
困った。
「シルバ、何か得意なことはあるか?」
オレが尋ねると、シルバは顔色一つ変えずに答えた。
「貴族として、一通りの教育は受けております。各種魔法、剣術、家事。そして……夜伽も」
「夜伽は、実技はまだですが……」
小さな声で付け足し、シルバは目を伏せた。
よ、夜伽?
何を言っているのかと思ったが、貴族の務めは家を存続させること。一般家庭以上に重要なことなのだろう。
「こほん。恥ずかしい話だが、宝剣の製作に資金を使い切ってしまってな。手持ちの資金がない。ダンジョンにでも入って素材を集めないと、仕事もできない」
オレは少し考えてから、シルバに尋ねた。
「一緒に入れるか?」
すると、シルバはほんの少し笑顔になった。
「喜んで、ご主人様」
……ん?
ダンジョンに入るのが、そんなに嬉しいことなのか?




