プロローグ
カン、カン、カン。
槌を叩く音が響き渡る。その傍らには、作業を見つめるダークエルフの女性がいた。
オレの名前はノーブ。見ての通り鍛冶師で、王都の片隅で武器屋を経営している。
年齢は三十五歳。鍛冶仕事のおかげで身体つきは鍛えられており、背も高い。黒髪の短髪で、顔立ちは少々ワイルドだと自分では思っている。
そして、隣にいるダークエルフの名前は、シルヴァルデ・エアレンヴァルト。
長くて覚えにくいので、普段はシルバと呼んでいる。
浅黒い肌に、肩へ流れる銀色の髪。薄い赤色の瞳と長い耳が、彼女がダークエルフであることを物語っている。見た目は十八歳ほどだが、長寿の種族である彼女の実年齢は、もはや本人に聞かなければ分からない。
女性らしい豊かな体つきながら、立ち姿にはしなやかな力強さも感じられる。優雅な所作も相まって、どこか気品のある女性だった。
そんな彼女と暮らすようになって、十年が経つ。
今日はその記念日。夜には高級レストラン『竜の巣亭』を予約しているため、店をいつもより早く閉める予定だ。
普段は他の仲間たちもいる我が家だが、今日は気を利かせて、みんな出かけてくれている。
おかげで、今夜は久しぶりにシルバと二人きりだ。
「さて、そろそろ閉店の準備をするか」
オレはシルバに声をかけた。
「ええ、どうせもうお客様も来ませんわ」
優雅ながらも皮肉の利いた返事が返ってくる。
「せっかくの食事だ。正装して行こう」
「あら、そんな気遣いができたのですのね」
そう言いながらも、シルバの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
店を閉めたあと、オレたちはそれぞれ正装に着替えた。
オレはタキシード。シルバは、ダークエルフの浅黒い肌によく映える赤いドレスだ。
肩を大胆に露出したビスチェタイプのドレスで、スカートの丈は膝まで。足元には黒いヒールを合わせている。普段の優雅な立ち居振る舞いも相まって、まるで貴族の令嬢のようだった。
この関係が始まった頃を思い返すと、こんな日が来るとは夢にも思わなかった。
十年前のあの日。
納品を終え、報酬として金貨千枚を受け取るはずだったオレが、まさか一人のダークエルフを引き取ることになるとはな。




