第十話 初めての洞窟探索
南の鉱山。
かつては鉱石の採掘が行われていたが、モンスターが住み着いたことで放棄された鉱山だ。
まだ採掘できる鉱石は残っているらしい。しかし、採掘を続ける危険性を考慮し、安全を優先して閉鎖されたという。
ふと、シルバの領地にあった鉱山のことを思い出した。
あそこも、危険を冒す前に放棄していれば……。
隣を歩くシルバに目を向ける。
特に変わった様子はない。
今、わざわざ触れることでもないか。
「さて、行くぞ」
オレたちは鉱山の入り口をくぐった。
中へ進むと、坑道は思った以上に狭かった。二人並んで歩くのが精一杯で、場所によっては一人ずつ進むしかなさそうだ。
「挟み撃ちには注意が必要だな」
「そうですわね。通路が狭い分、敵の数よりも位置取りが重要になりそうですわ」
さすがにシルバも分かっているらしい。
さらに奥へ進むと、坑道特有のひんやりとした空気が肌に触れた。
「思ったより明るいな」
壁に設置された魔法のランプが、坑道の先まで照らしている。
「探索が完了している十階層までは、魔法のランプが整備されていますわ」
「へえ。ずいぶんと親切なんだな」
「立ち入った者の魔力を少しだけ吸い取り、光る仕組みですの。おかげで、暗闇に潜む山賊などへの対策にもなりますわ」
「なるほどな」
洞窟型のダンジョンに入るのは初めてだ。
シルバの説明を真剣に聞きながら、周囲の様子を確認する。
こういう知識がすぐに出てくるのはありがたい。
一家に一人、シルバ様だな。
そんなことを考えながら歩いていると、前方の暗がりで何かが動いた。
「止まれ」
二つの影が、坑道の奥から姿を現す。
ゴブリンが二体。
「お約束だな」
ゴブリンはメイルバッファローより弱い。だが、ある程度の知能があり、武器を使ってくる厄介な相手だ。
狭い坑道で油断するわけにはいかない。
「雑魚だが、気を抜くなよ」
「もちろんですわ」
オレは片手剣を、シルバはレイピアを構えた。
ゴブリンたちが武器を振り上げ、こちらへ駆け寄ってくる。
一体目の攻撃をかわし、すれ違いざまに剣を振るう。
ほぼ同時に、シルバのレイピアがもう一体の急所を正確に貫いた。
二体とも、一撃で沈んだ。
「よし、次だな」
足元のゴブリンを見下ろす。
「素材として使えそうなのは……ゴブリンナイフくらいか」
落ちていた粗末なナイフを拾い上げ、軽く確認する。
これでは、武器の材料としても商品としても価値は低い。
「まあ、拾わなくていいか」
ナイフを戻し、再び坑道の奥へと視線を向ける。
今回の目的は、八階まで進むことだ。
一階で時間をかけて素材を集める必要はない。
「よし、先を急ぐぞ」
「かしこまりましたわ」
オレたちは足早に、坑道の奥へと進んでいった。
しばらく進むと、下の階層へと続く階段を見つけた。
「ここが二階か」
階段を下りると、そこには一階とよく似た坑道が広がっていた。ただ、通路は少し広くなっているようだ。
「先を急ぐぞ。だが、警戒は怠るなよ」
「かしこまりましたわ」
周囲に目を配りながら、坑道を進んでいく。
「ご主人様、止まってください」
シルバの声に、ノーブは足を止めた。
一瞬遅れて、前方の気配に気づく。
「ああ、お出ましだな」
坑道の先から現れたのは、オークだった。
ゴブリンよりも体格が大きく、力も強い。だが、今の二人にとっては、まだまだ余裕のある相手だ。
「オレがやる」
ノーブは片手剣を構え、オークへと踏み込んだ。
振り下ろされた武器をかわし、剣を叩き込む。オークはよろめいたものの、まだ倒れない。
「なかなか頑丈だな」
二撃目を加えると、ようやくオークは崩れ落ちた。
一方、シルバも別のオークと対峙していた。
レイピアを構え、相手の動きを見極める。攻撃をかわしながら急所を狙い、三度の突きで仕留めた。
危なげのない戦いだった。
「やっぱり、オークは体力がある分、少し面倒だな」
「ですが、脅威というほどではありませんわね」
「そうだな」
シルバは正確な攻撃で敵を仕留める。一方、ノーブは一撃の威力で押し切る。
戦い方は違うが、どちらも安定していた。
「素材は……オークの斧か」
倒したオークのそばに落ちていた斧を確認する。
使えないわけではないが、今は素材を集めることよりも、先へ進むことが優先だ。
「まだ拾わなくていい。先を急ぐぞ」
「承知しましたわ」
二人は再び坑道の奥へと進んだ。
一階はほぼ一本道だったが、二階では時折、通路が枝分かれしていた。
分岐の先を確認すると、行き止まりになっていることもある。とはいえ、少し進めば引き返せる程度の距離だった。
「この辺りは、まだ複雑というほどでもないな」
「ええ。探索済みの階層ですから、構造もある程度把握されているのでしょう」
道を選びながら進む途中、オークには何度か遭遇した。
だが、二人とも攻撃を受けることなく、手際よく倒していく。
そして、しばらく進んだ先で――。
「お、あったぞ」
三階へと続く階段が、坑道の奥に姿を現した。




