32.私、それと、キー
付き合うってなんだろう、と
たまに考える。
恋人。
彼氏。
彼女。
そういう言葉は知っている。
漫画も読んだし、
映画も見た。
でも。
実際に自分がそうなってみると、
よく分からない。正解も。
だから、
私は雑貨屋にいた。
放課後の、
冷房の効いた店内。
小さなキーホルダー。
文房具。
スマホケース。
アクセサリー。
いろんなものが並んでいて、
仁村くんに何か買いたかった。
理由は分からない。
いや。
本当は分かっている。
喜んでほしいから。
それだけ。
そう、本当に、
それだけ。
……本当に?
棚に並んだキーホルダーを見る。
青色で、海みたいな色。
仁村くんっぽい。
手に取る。
戻す。
また手に取る。
変かな。
重いかな。
いやでもさ、恋人なんだし。
恋人なら、これくらい普通?
分からない。
何もかも。
「プレゼントですか?」
店員さんに声を掛けられた。
びくっと肩が跳ねる。
「え?」
「彼氏さんとか?」
顔が熱くなる。
「か、彼氏です」
言った瞬間、
少し嬉しかった。
彼氏。
仁村くんが、
私の。
その事実だけで、
胸があたたかくなる。
店員さんは笑った。
「優しいですね」
優しい。
私は笑う。
でも。
心のどこかで。
優しいのは私じゃなくて。
仁村くんだと思った。
結局、青いキーホルダーを買った。
高くない。
でも、
安すぎもしない。
ちょうどいい。
そう思った。
放課後の昇降口。
「仁村くん」
「おー」
いつもの笑顔。
好きだな、
本当に。
「これ」
袋を差し出す。
「え?」
「この前のお礼」
「なんのお礼?」
「いろいろ」
自分でもよく分からない。
でも、何かあげたかった。
仁村くんは袋を開ける。
青いキーホルダー。
少しだけ目を丸くした。
「え、これ俺?」
「うん」
「めっちゃいいじゃん」
笑う。
嬉しそうに。
本当に嬉しそうに。
胸がいっぱいになる。
よかった。
よかった。
「ありがとう」
そう言って、
すぐに鞄につける。
嬉しい。
すごく。
本当に。
でも。
仁村くんは少しだけ困ったように笑った。
「でもさ」
「うん?」
「島」
優しい声。
いつもの声。
「そんな気使わなくていいからな」
胸が止まる。
一瞬だけ。
「え?」
「いや、
普通に嬉しいんだけど」
「なんかさ」
仁村くんはキーホルダーを見る。
「島って、
頑張りすぎる時あるじゃん」
笑って言う。
責めてない。
本当に。
ただ心配してるだけ。
分かる。
分かるのに。
「気使ってないよ」
言葉が先に出た。
少し早すぎるくらいに。
仁村くんが瞬きをする。
「そっか」
そう言って笑う。
それ以上は何も言わない。
優しい。
本当に優しい。
だから。
余計に。
胸が痛かった。
帰り道。
スマホを見る。
仁村くんから写真が来ていた。
鞄についたキーホルダー。
『似合う?』
思わず笑う。
嬉しい。
本当に嬉しい。
なのに。
その写真を見ながら。
私は考えてしまう。
喜んでくれた。
よかった。
じゃあ。
これで少しは。
私は。
仁村くんにとって。
必要な人になれたかな。
その考えが浮かんでは、浮かんで。
自分で自分が少し嫌になった。
それでも。
その気持ちは、
気持ち?




