33.告白
今日という今日に、
私は遥くんに告白する。
そのための完璧なデートプランも考えた。
映画を見る。
お昼ご飯を食べる。
雑貨屋さんを歩く。
ゲームセンターに寄る。
そして、最後に観覧車。
一番高いところで、
ちゃんと目を見て、
「好きです」
そう言う。
そのために今日がある。
鏡の前で何度も練習した。
服も選んだ。
髪も整えた。
何を話すかも考えた。
完璧。完璧すぎる。
そう、今日はきっと、大丈夫。
「お待たせ」
「ううん。私も今来たところ」
まったくの嘘。
三十分前には着いていた。
でも、そんなこと言ったら重いかなって。
思って。
だから笑う。
「じゃ、行こっか」
「うん」
歩いて。
映画を見る。
笑って。
ご飯を食べる。
雑貨屋さんで変な置物を見つけて笑って。
ゲームセンターでは二人とも全然取れなくて。
「もうこれ絶対取れないよ」
「意外と負けず嫌いなんだね」
「いや、ここまで来たら取りたいでしょ」
そんなことを言いながら笑った。
全部。
全部楽しかった。
考えていた通り。
ううん。
考えていたよりずっと。
夕暮れが空に満ちる。
空が少しずつ橙色から藍色へ変わっていく。
ライトが一つずつ灯る。
「じゃあ次は観覧車行こうか」
「うん」
予定通り。
ここまでは全部予定通り。
ゴンドラがゆっくりと動き始める。
まだ、まだ言わない。
頂上で。
一番景色が綺麗な場所で。
そう決めていた。
そのために今日を考えた。
デートコースも。
話す順番も。
告白の言葉も。
全部。
全部決めてきた。
遥くんが窓の外を見ながら笑う。
「今日、すごい楽しかったな」
その笑顔を見た瞬間に、
胸がいっぱいになる。
嬉しくて。
幸せで。
好きで。
「好き」
口からそう零れた。
自分でも止められないくらい自然に。
「ん?」
遥くんがこちらを見る。
私は思わず口を押さえた。
いや、違う。
今じゃない。
まだ、
もっとちゃんと。
頂上で言うつもりだったのに。
でも、もう止められない。
ゆっくり息を吸う。
震える。
怖い。
怖いけど。
ちゃんと伝えたい。
「私、遥くんが好き」
目を見る。
逃げない。
「付き合ってください」
とてもありふれていて、
とても単純な言葉。
なんで、
こんなにも簡単な言葉を言うのに、
こんなにも勇気がいるんだろう。
なんで、
こんなにも時間がかかってしまったんだろう。
それでも。
でも。
これが。
私の本心。
静かな時間が流れる。
観覧車はゆっくりと頂上へ辿り着く。
遥くんは少しだけ笑った。
優しく、いつもの笑顔で。
「うん」
その一言だけで、
胸がいっぱいになる。
「僕も、響子さんが好き」
涙が滲む。
「こちらこそ、お願いします」
世界が止まったような気がした。
嬉しかった。
安心した。
苦しかった胸の奥が。
少しだけほどけていく。
「……よかった」
気づけば泣いていた。
「泣いてる」
遥くんが少し困ったように笑う。
「……だって」
涙を拭きながら笑う。
「嬉しい」
遥くんは照れくさそうに頭をかいた。
そして。
そっと私の手を握る。
一瞬だけ驚く。
でも、その温もりが嬉しくて。
少しだけ握り返した。
観覧車はゆっくりと下り始める。
夜景が広がる。
街の灯りが星みたいに輝いていて、
世界は何も変わっていない。
私の世界は、この今日に大きく変わった。




