31.水に浮く
水面がゆらゆらと揺れている。
そこから目を上げると、
人と人が行き交っていた。
ここはプール。
市ヶ谷が提案して、
みんなで来た。
いや、
当たり前だけど島はいない。
今日はバイトらしい。
だから俺たちは、
俺たちで夏を満喫しようと思った。
「あっっっつ!!」
更衣室から出てきた市ヶ谷が叫ぶ。
たしかに。
本当に暑い。
ビーチサンダルを履いてないと、
足の裏が焼けそうだった。
なんでこんなに暑いんだ。
毎年毎年、
温度が上がっている気がする。
「早くプール入ろーよー」
後藤が言う。
「まだ響子さんが着替え途中だからねー」
三玉もそう言った。
「ごめんね、お待たせ」
更衣室から六本木さんが出てくる。
その瞬間。
三玉と目が合った。
二人とも、
少しだけ照れくさそうに目を逸らす。
あー。
付き合ってるんだな。
なんか。
いいな。
そう思う。
俺も夏休み中に、
島とプール行こうかな。
「遥くんって意外と筋肉あるんだね」
六本木さんが言う。
「意外って何」
三玉が少し不満そうに返す。
「市ヶ谷ー、おんぶしてー」
後藤が言う。
「俺が言いたいよ」
「嫌です」
「即答!?」
皆が笑う。
そんなことを話しながら、
流れるプールへ向かった。
浮き輪を借りて。
水に足を入れる。
冷たい。
気持ちいい。
「生き返る……」
市ヶ谷がそう言いながら、
そのまま水に沈んだ。
「死んでたの?」
「毎日死んでる」
「大変だね」
後藤が呆れたように言う。
流れるプールに身を任せる。
空は青い。
雲は白い。
夏だ。
何もしなくても、
それだけで少し気分が良かった。
俺の隣には市ヶ谷。
向こうには後藤。
少し離れたところで、
三玉と六本木さんが話している。
二人とも楽しそうだった。
見ているこっちまで、
少し嬉しくなるくらいに。
「仁村ー」
市ヶ谷が浮き輪の上で言う。
「ん?」
「島と最近どうなん?」
「急だな」
「いや、付き合って結構経ったじゃん」
そう言われる。
どうなんだろう。
好きだ。
それは間違いない。
でも。
「……なんかさ」
言葉が漏れる。
「ん?」
「島、
最近ちょっと無理してる気がする」
風が吹く。
水面が揺れる。
市ヶ谷が少しだけ真面目な顔になった。
「無理?」
「うん」
浮き輪を見つめる。
「俺に合わせようとしてる感じ」
「別にそんなことしなくていいのにな」
言ってから、
少しだけ胸が重くなる。
後藤も、
静かに聞いていた。
「島さん、
優しいもんね」
そう言う。
「優しいっていうか、
頑張りすぎるタイプな気がする」
六本木さんも加わった。
三玉だけは少し黙っている。
何か考えているみたいに。
「でもさ」
市ヶ谷が言う。
「好きだから頑張るって、
普通じゃね?」
「まあな」
俺は笑う。
それもそうだ。
でも。
それだけじゃない気がする。
そんな気がしてならなかった。
流れるプールは、
何も知らないまま進んでいく。
俺たちもまた、
夏の中をゆっくり流れていた。




