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30.デート、それと、夏

今日は夏休みど真ん中で、

暑暑い時期が続いている。


そんな日に私は、仁村くんとデートをする。


『もうすぐ着くから! まってて!』


LINEが来る。



『いいよー』


最近幸せだとよく感じる。


やっぱり仁村くんはすごい。


「ごめーん! おまたせ!」


「いいよー今日どこいく?」


「ちょっと服みたいかも」



そして二人で服を買いに行く。


「島って、どんな服が好きとかある?」


考える。


どんな服が好きか?


……ない。


いや。


ない、というか。


私は今まで、

服とかを自分で選んだことがない。


他の人の好みに合わせてきた。


ずっと。

いつでも。


好かれるように。

変じゃないように。


「うーん……」


言葉を探す。


そして。


「仁村くんは、どんなのが好き?」


聞き返した。


「そーだなー」


仁村くんは店内を見回して、

一着の服を手に取る。


シンプルで、

少しシュッとした感じ。


「こういうのとか?」


「あー……」


なんとなく納得する。


「そういうの好きそう」


そして、

ほとんど反射みたいに言った。


「じゃあ、

 これにしようかな」


仁村くんが少し目を丸くする。


「いや、島の好きなのでいいよ」


胸が止まる。


……分からない。


好きなもの。


自分の好き。


そんなの、

考えたことあったっけ。


でも。


もし。


これが好きって言っておけば。


仁村くんから、

もっと好かれる?


頭のどこかで、

そんな考えが浮かぶ。


「いや、私もこういうの

 買ってみたかったんだよね」


少しだけ笑って言う。


仁村くんは、

服と私を見比べる。


「……そう?」


「うん」


一瞬だけ、

間があった。


でも。


「じゃ、試着してみる?」


そう言って笑った。


昼。


ハンバーガー屋。


冷房。

ポテトの匂い。

人の話し声。


向かいには、

仁村くん。


好きな人。


「今日さ」


ポテトを食べながら、

仁村くんが言う。


「俺の行きたいとこばっか行ってるけど、

 なんか寄りたいとこあったら行くよ?」


私はストローを指で弄る。


「私は、

 仁村くんの好きなとこ行きたいから」


言ってから、

少し胸が痛んだ。


……いや。


ちょっとあった。


本屋。

雑貨屋。


見たい場所。


でも。


でも。


なんでか、

怖い。


私の好きなもの。


趣味。


そういうのを見て、

仁村くんはなんて思う?


肯定してくれても。


それを、

疑ってしまう。


「島」


「ん? な、何?」


仁村くんが少し笑う。


「もしかして、

 気使わせてる?」


どきっとした。


そんなことない。


そう言いたかった。


でも。


なんか、

嘘もつきたくなかった。


「いや……えーと……その」


言葉が詰まる。


仁村くんは、

少し困ったみたいに笑った。


「島、

 分かりやす」


「え?」


「途中、

 行きたそうな店あっただろー」


目を見開く。


「……え?

 分かる?」


「うん」


当たり前みたいに言う。


「分かるよ」


胸が、

熱くなる。


……好き。


やっぱり、

好きだ。


見てくれる。


ちゃんと。


「……ありがとう」


声が小さくなる。


「そういうところが……好き」


仁村くんは、

少しだけ目を丸くした。


それから。


「……うん」


小さく笑った。


でも。


その笑顔を見ながら。



「そういやさ」


仁村くんが笑う。


「昨日、市ヶ谷がまじで意味わからんこと言ってて」


「え?」


「後藤さんと二人で帰ってたらしいんだけど、

 急に“俺って将来ヒモ向いてると思う?”とか聞いてきたらしくて」


思わず吹き出す。


「なにそれ」


「で、後藤さんに

 “まず働こう?”って真顔で返されたって」


仁村くんは楽しそうに笑う。


本当に楽しそうだった。


友達の話をしてる時の仁村くん、

好きだなって思う。


自然で、

嬉しそうで。










大丈夫だよね?


私は、好かれているよね?


夜風が吹く。


観覧車の灯り。

遠くの笑い声。

夏の匂い。


隣には仁村くんがいる。


ちゃんといる。


今日だって、

笑ってくれた。

楽しそうだった。

優しかった。


だから。


大丈夫。


私たちは大丈夫。


うん。


ちゃんと幸せ。




でも、

仁村くんには、

私以外にも、

いっぱい大切な人がいる。


三玉くん。

市ヶ谷くん。

後藤さん。


学校でも、

誰かと楽しそうに話してる。


当たり前だ。


仁村くんはそういう人だから。


優しくて、

人が好きで、

ちゃんと人を見てる。


だから、

好きになった。


……なのに。


私には、

何もない。


いや。


ある。


あるはずなのに。


頭のどこかで、

比べてしまう。


もし。


もし、

仁村くんから私がいなくなっても、

きっと生きていける。


でも。


私から仁村くんがいなくなったら?


胸が、

少し苦しくなる。


……いや。


だめだ。


こんなの。


めんどくさい彼女の代表じゃん。


重い。

依存。

束縛。


そういうの、

一番なりたくなかった。


考えちゃだめ。


考えちゃだめだ。


歩く。


夜風が、

少しだけ汗を冷やす。


そう。


これは、

わがままだ。


仁村くんは、

何も悪くない。


ちゃんと好きって言ってくれる。

優しい。

会ってくれる。

隣にいてくれる。


付き合えてる。


幸せなはず。


なのに。


なんで。


なんで不安が付き纏うの?


胸の奥に、

小さな棘みたいに残る。


取ろうとしても、

取れない。


嫌われたくない。


失いたくない。


そう思えば思うほど、

何かが、

少しずつ苦しくなっていく。

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