表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

29.メランコリックな僕達。

響子さんの様子が変なのは、

少し前から気づいてた。


でも、聞かないことを選んだ。

きっと、甘えていたんだ。


何かあったら言ってくれる。

僕には話してくれる。


そんなふうに、

勝手に信頼を押し付けていた。


僕は。


だからその埋め合わせみたいに、

一緒にいる時間を増やした。


帰り道。

通話。

コンビニ。

図書室。


少しでも、安心できる時間になればって。


何とかしてあげたかった。


……でも。


「何とかしてあげたい」って、

結局、僕の自己満足なのかもしれない。


人の心は、

そんな簡単じゃない。


分かってる。


分かっているのに。


それでも。


苦しそうな顔を見ると、

放っておけなかった。


ファミレス。


窓の外では、

夕暮れが少しずつ夜に沈み始めている。


ドリンクバーの炭酸の音。

遠くの笑い声。

皿が触れる音。


そんな雑音の中で、

一人でコーヒーを飲む。


苦い。




……誰かに相談したい。


そう思った時だった。


「あれ、三玉じゃん」


顔を上げる。


後藤さんだった。


制服姿のまま、

トレーを持って立っている。


「あ、後藤......さんか」


「残念だったね。

 六本木さんじゃなくて」


「いや、何も言ってないけどね」


「顔に書いてある」


後藤さんはそう言って笑う。


向かいの席に座る。


なんとなく、なんとなくだけど、

少し安心した。


後藤さんなら、

何かわかるかもしれない。


同性だし。

響子さんの気持ちとか。


……いや。


そんなの、

迷惑かもしれない。


それこそ、僕のエゴだ。


黙る。黙って、

コーヒーを飲む。


後藤さんは、

そんな僕を少し見てから。


「……なんかあったんでしょ?」


そう言った。


「え?」


「そういう顔してるの、

 分かるよ」


ストローをくるくる回しながら、

後藤さんは続ける。


「二人ともね」


胸が少しだけ詰まる。


やっぱり、

隠せてなかったんだ。


「……そんな分かりやすい?」


「うん、結構」


後藤さんは苦笑する。


「三玉くんって優しいから」


「え」


「相手が苦しんでる時、

 自分も苦しくなるタイプでしょ」


図星だった。

何も言い返せない。


後藤さんは少しだけ視線を落とす。


「でもさ、

 優しい人って、

 自分の無力さも見えちゃうから」


静かな声だった。

まるで、自分に言ってるみたいな。


「助けたいのに、

 助けられない。

 何を言えば正解か分からない。

 そういうので苦しくなる」


窓の外。

車のライトが流れていく。


僕は小さく笑った。


「……後藤さん、

 経験者みたいなこと言うね」


「まあ、ね」


後藤さんも笑う。


でも、

その笑い方は少しだけ寂しかった。


少し沈黙が落ちる。


ファミレスの喧騒だけが遠い。


それから、

僕はぽつりと言った。


「僕さ」


「うん」


「響子さんに、

 無理してほしくないんだ」


言葉にすると、

やっぱり苦しかった。


「でも、

 僕が隣にいることで、

 逆に無理させてる気がして」


「……うん」


後藤さんは否定しなかった。


ただ、

ちゃんと聞いてくれる。


「好きなのに、

 苦しませてるなら、

 それってどうなんだろうって」


そこまで言って、

言葉が止まる。


後藤さんは少し考えてから、

ゆっくり言った。


「でもさ」


「好きだから苦しくなることって、

 普通にあると思う」


「え?」


「だって、

 相手が大事だから、

 嫌われたくないし、

 失いたくないし」


後藤さんは、

コーラの氷を揺らしながら言う。


「それって、

 悪いことでも何でもない」


「……」


「まあ、

 苦しすぎるのは良くないけどね」


少し笑う。


その笑い方が、

なんだか、すごいと


「三玉くんってさ」


「うん?」


「ちゃんと、

 六本木さんのこと見てるよ」


後藤さんは言う。


「だから、

 それだけでも、

 多分すごい意味あると思う」


胸の奥が、

少しだけ温かくなった。


ファミレスの窓の外。


夜が、

ゆっくり広がっていく。




「あ、そういえば」


「何?」


「後藤さんと市ヶ谷って付き合ってるの?」


「なわけないでしょ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ