29.メランコリックな僕達。
響子さんの様子が変なのは、
少し前から気づいてた。
でも、聞かないことを選んだ。
きっと、甘えていたんだ。
何かあったら言ってくれる。
僕には話してくれる。
そんなふうに、
勝手に信頼を押し付けていた。
僕は。
だからその埋め合わせみたいに、
一緒にいる時間を増やした。
帰り道。
通話。
コンビニ。
図書室。
少しでも、安心できる時間になればって。
何とかしてあげたかった。
……でも。
「何とかしてあげたい」って、
結局、僕の自己満足なのかもしれない。
人の心は、
そんな簡単じゃない。
分かってる。
分かっているのに。
それでも。
苦しそうな顔を見ると、
放っておけなかった。
ファミレス。
窓の外では、
夕暮れが少しずつ夜に沈み始めている。
ドリンクバーの炭酸の音。
遠くの笑い声。
皿が触れる音。
そんな雑音の中で、
一人でコーヒーを飲む。
苦い。
……誰かに相談したい。
そう思った時だった。
「あれ、三玉じゃん」
顔を上げる。
後藤さんだった。
制服姿のまま、
トレーを持って立っている。
「あ、後藤......さんか」
「残念だったね。
六本木さんじゃなくて」
「いや、何も言ってないけどね」
「顔に書いてある」
後藤さんはそう言って笑う。
向かいの席に座る。
なんとなく、なんとなくだけど、
少し安心した。
後藤さんなら、
何かわかるかもしれない。
同性だし。
響子さんの気持ちとか。
……いや。
そんなの、
迷惑かもしれない。
それこそ、僕のエゴだ。
黙る。黙って、
コーヒーを飲む。
後藤さんは、
そんな僕を少し見てから。
「……なんかあったんでしょ?」
そう言った。
「え?」
「そういう顔してるの、
分かるよ」
ストローをくるくる回しながら、
後藤さんは続ける。
「二人ともね」
胸が少しだけ詰まる。
やっぱり、
隠せてなかったんだ。
「……そんな分かりやすい?」
「うん、結構」
後藤さんは苦笑する。
「三玉くんって優しいから」
「え」
「相手が苦しんでる時、
自分も苦しくなるタイプでしょ」
図星だった。
何も言い返せない。
後藤さんは少しだけ視線を落とす。
「でもさ、
優しい人って、
自分の無力さも見えちゃうから」
静かな声だった。
まるで、自分に言ってるみたいな。
「助けたいのに、
助けられない。
何を言えば正解か分からない。
そういうので苦しくなる」
窓の外。
車のライトが流れていく。
僕は小さく笑った。
「……後藤さん、
経験者みたいなこと言うね」
「まあ、ね」
後藤さんも笑う。
でも、
その笑い方は少しだけ寂しかった。
少し沈黙が落ちる。
ファミレスの喧騒だけが遠い。
それから、
僕はぽつりと言った。
「僕さ」
「うん」
「響子さんに、
無理してほしくないんだ」
言葉にすると、
やっぱり苦しかった。
「でも、
僕が隣にいることで、
逆に無理させてる気がして」
「……うん」
後藤さんは否定しなかった。
ただ、
ちゃんと聞いてくれる。
「好きなのに、
苦しませてるなら、
それってどうなんだろうって」
そこまで言って、
言葉が止まる。
後藤さんは少し考えてから、
ゆっくり言った。
「でもさ」
「好きだから苦しくなることって、
普通にあると思う」
「え?」
「だって、
相手が大事だから、
嫌われたくないし、
失いたくないし」
後藤さんは、
コーラの氷を揺らしながら言う。
「それって、
悪いことでも何でもない」
「……」
「まあ、
苦しすぎるのは良くないけどね」
少し笑う。
その笑い方が、
なんだか、すごいと
「三玉くんってさ」
「うん?」
「ちゃんと、
六本木さんのこと見てるよ」
後藤さんは言う。
「だから、
それだけでも、
多分すごい意味あると思う」
胸の奥が、
少しだけ温かくなった。
ファミレスの窓の外。
夜が、
ゆっくり広がっていく。
「あ、そういえば」
「何?」
「後藤さんと市ヶ谷って付き合ってるの?」
「なわけないでしょ」




