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28.価値

夜。


コンビニの明かりが、

やけに白く見えた。


遠くで車が走っている音。

湿った風。

夏の匂い。


遥くんと並んで歩く。


でも、胸の奥はずっと落ち着かない。


見抜かれた。


無理してることも。

苦しいことも。


全部。

隠したかったのに。


「……私ね」


気づけば、

ぽつりと口にしていた。


遥くんが静かにこっちを見る。


「昔、いろいろ間違えたことがあって。

 正しくあろうって、

 そういう自分は絶対だって」


言葉が、少しずつ夜に溶けていく。


「ちゃんとしてれば大丈夫って、

 そう思ってた。

 嫌われないように、

 ちゃんとした人でいようって」


苦しい。

でも止まらない。


「その時、

 学んだはずなのに」


喉が少し震える。


「……全部失敗した


 何も、

 成長できてない」


蝉の声だけが聞こえる。


遥くんは、すぐには何も言わなかった。


否定しない。

遮らない。


ちゃんと、待ってくれている。

その優しさが。


やがて、遥くんが静かに言った。


「僕はね」


その声は、びっくりするくらい穏やかだった。


「響子さんが正しいから、

 強いから、

 今好きなんじゃないよ」


胸が少し揺れる。


「……でも、

 最初、私のこと強いって」


「言ったよ」


遥くんは笑う。


「響子さんは強い」


まっすぐな声だった。

でも。


「今は、

 それだけじゃないんだ」


夜風が吹く。

髪が少し揺れる。


遥くんは、

前を向いたまま言葉を続けた。


「響子さんが好きっていうのは、

 強い響子さんが見たい、

 じゃないよ」


「響子さんといたい、

 なんだ」


息が止まりそうになる。


「それは、弱くても、強くても。

 どんな時も、

 どんな響子さんも愛おしくて。


 見ていたくて、

 見てほしい」


涙が出そうになる。

駄目だ。


こんなの。


こんなの。


どうして、私の言ってほしいことが分かるの?


「だから、聞きたいんだよ」


遥くんが、少しだけこちらを見る。


「これは僕のエゴだけど。


 それでも、

 響子さんが思ってること、

 苦しんでること、全部」


胸の奥が、

ぐちゃぐちゃになる。


言いたい。


でも怖い。


もし。


もし、

本当の私を見て。


失望されたら。


嫌われたら。


震える声で言う。


「……失望しない?」


遥くんが目を瞬かせる。


「思ってる人と違ったって」


自分でも分かる。

すごく情けない顔をしてる。


でも。


遥くんは、

少し呆れたみたいに笑った。


「思うわけないじゃん」


その声は、

あまりにも即答だった。


「僕がどれだけ好きか、貴方が好きか、

 まだ分かってない? 響子さん」


涙が落ちる。


ぽろりと。


一回落ちたら、

もう止まらなかった。


慌てて顔を逸らす。


泣くつもりなんて、

なかったのに。


遥くんは、

何も言わなかった。


ただ、少しだけ歩く速度を緩める。


合わせるみたいに。


置いていかないように。


その優しさが。


その当たり前みたいな温度が。


胸が痛くなるくらい、

嬉しかった。


遥くんは、私が泣き止むまでそばにいた。







「大丈夫。ずっといるよ」

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