26.土俵
仁村くん。
遥くん。
市ヶ谷くん。
後藤さん。
みんな、すごい人だと思う。
関わって、
ずっとそう思う。
強い人たちだと。
私は。
私を知れば知るほど、
遥くんと向き合えば向き合うほど、
自分の弱さを自覚して、
恐れてる。
好きだと言ってくれて嬉しい。
でも。
それは私だから?
たまたま偶然そこにいたから?
遥くんの求めたものを、
持ってるように見えたから?
私は、
どうしたいんだろう。
放課後。
仁村くんと島さんの報告で、
教室は少しだけ騒がしかった。
市ヶ谷くんはずっと大袈裟に騒いでいて、
後藤さんは穏やかに笑っていて、
遥くんは静かに嬉しそうだった。
私はその空気を見ながら、
なんだか胸の奥があったかくなる。
いいな。
誰かを好きになって、
ちゃんと伝えて、
ちゃんと隣にいる。
そんなことが、
こんなふうに自然に起こるんだ。
帰り道。
たまたま方向が同じで、
市ヶ谷くんと後藤さんと三人で歩いていた。
夕方の空は少し赤くて、
夏の匂いがした。
「いやー、仁村まじで意外だったわ」
市ヶ谷くんが言う。
「なんかもっと、
一生ふらふらしてるタイプかと」
「それひどくない?」
後藤さんが笑う。
でも、
少し分かる気もした。
仁村くんって、
あんまり何かに執着する感じがなかったから。
「ていうかさ」
市ヶ谷くんが、
ふとこっちを見る。
「こういうの聞いていいか分かんないけど、
六本木さんって三玉のこと好きなの?」
「ぶっ」
後藤さんが吹き出す。
「市ヶ谷くん、直球すぎない?」
急にそんなこと聞かれて、
心臓が跳ねる。
好き。
……好き、だけど。
「……あの、二人とも」
気づけば、
口が動いていた。
「ちょっとだけいい?」
カフェ。
冷房の涼しい空気。
コーヒーの匂い。
小さく流れる音楽。
三人で窓際の席に座る。
市ヶ谷くんは珍しく静かだった。
後藤さんは、
何も急かさず待ってくれている。
その空気が、
少しありがたかった。
アイスティーの氷が鳴る。
私はストローを見ながら言った。
「……私って」
声が、少し震えた。
「遥くんに、釣り合ってるかな」
二人が黙る。
今さら何言ってるんだろう。
でも。止められなかった。
「付き合って、
皆に変に思われてないかな、とか」
「私、そんなに明るいわけでもないし」
「かわいいとか、そういう感じでもないし」
「……遥くんはさ」
口にした瞬間、
胸が少し熱くなる。
「優しいし、ちゃんとしてるし」
「だから、
私じゃなくてもよかったんじゃないかなって、
時々思って……」
言ってしまった。
最悪だ。
こんなの、
遥くんを信じてないみたいじゃないか。
俯く。
「いやいやいや」
市ヶ谷くんが、すぐ言った。
「何言ってんの?」
顔を上げる。
市ヶ谷くんは、
本気で意味わかんないみたいな顔をしていた。
「いや、
三玉めちゃくちゃ六本木さん好きじゃん」
「そうそう」
後藤さんも頷く。
「見てたら分かるよ」
「なんか、
三玉くんって普段落ち着いてるのに、
六本木さんといる時ちょっと浮かれてるし」
「え」
そんなふうに見えてるの?
「あと」
後藤さんが笑う。
「六本木さん、
三玉くんの前だとすごく柔らかい感じだからね」
「だから、
釣り合ってないとか、
そういうふうには見えないよ」
「普通に、お似合い」
その言葉が、
胸に落ちる。
じんわりと。
なんだか、
泣きそうになるくらいに。
市ヶ谷くんが言う。
「ていうかさ」
「好きなやつに釣り合うとか、
釣り合わないとか、
あんま考えなくてよくね?」
「三玉が六本木さん好き。
六本木さんも三玉好き」
「もうそれで最高だろ」
その言い方が、
なんだか市ヶ谷くんらしくて、
少し笑ってしまった。
後藤さんも笑う。
私も笑った。
窓の外では、
夕暮れが少しずつ夜に変わっていく。
少し後悔した。
二人に話して、
二人は優しいから、
そう言ってくれるって、
少し期待してた。
だから話したのかもしれない。
釣り合ってない、
なんて言うわけがないのに。
やっぱり私は弱い。
だめだ。
弱くちゃだめだ。
遥くんは、
私の強いところが好きなんだ。
だから。
弱い私でいちゃだめだ。
土俵に上がるために。
遥くんに、
誇れる自分であるために。




