25.仁村と
放課後のいつもの日に。
なんとなく教室に残って、
だらだら喋っていた時だった。
仁村が珍しく話があると皆を呼んだ。
急にどうしたんだ?
妙に真面目な顔してるし。
「どうしたどうしたー」
茶化す。
でも仁村は、
なんか落ち着かない感じで頭を掻いていた。
「……えーと」
仁村が咳払いする。
三玉はなんかもう察してそうな顔をした。
六本木さんも、
静かに仁村を見ていた。
後藤はジュース飲みながら、
なんだろうみたいな顔してる。
そして。
「島と付き合うことになった」
まじで教室の音止まった気がした。
「はああああ!? まじか!」
気づいたら立ち上がってた。
いや待て待て待て。
え?
仁村が?
あの仁村が?
「おおー、おめでとう」
三玉が普通に言う。
なんでそんな落ち着いてんだこいつ。
「え、知ってた?」
「なんとなく」
「なんとなくで分かるもんなの!?」
六本木さんも、
少し驚いたあと柔らかく笑った。
「おめでとう、仁村くん」
後藤も、よかったねって言う。
いやいやいや。
待て待て。
「お前ら反応薄くね!?
もっとなんかあるだろ!」
「市ヶ谷が騒ぎすぎなんだよ」
仁村が苦笑する。
でも。
その顔見た瞬間、
ちょっとびっくりした。
……なんか。
めちゃくちゃ嬉しそうだった。
ああ、
こいつこんな顔できるんだ。
「いやーでも意外だわ」
俺は椅子に座り直しながら言う。
「仁村って恋愛とか興味ないタイプだと思ってた」
「俺もそう思ってた」
「失礼すぎん?」
仁村は笑う。
「で? どっちから?」
聞く。仁村は目を逸らした。
「……同時、みたいな?」
「うわ青春だ」
思わず笑う。
観覧車とか乗ったんかな。
いや、
なんか乗ってそう。
三玉が言う。
「観覧車?」
「え、なんで分かった?」
「顔」
「顔?」
「観覧車っぽい顔してる」
「どういう顔だよ」
皆笑う。
くだらねえ。
でも、
なんかいいな、
って思った。
ちゃんと誰かを好きになって、
ちゃんと伝えて、
付き合って。
そういうの。
俺にはまだ遠いものだと思ってた。
ふと、後藤を見る。
後藤は静かに笑っていた。
柔らかい顔だった。
その瞬間。
なんとなく思う。
……うーん。
付き合うってなると、
今一番仲良いのって後藤だけど。
いや。
なんか違うんだよな。
後藤は、特別だ。
でも、
恋愛とかそういう感じじゃない。
多分。
いや知らんけど。
「市ヶ谷?」
「え?」
「聞いてる?」
「あー聞いてる聞いてる」
適当に返す。
でも。
仁村を見てると、
少しだけ羨ましかった。
ちゃんと誰かを好きになって、
ちゃんと変わっていく感じ。
皆、前に進んでる気がする。
三玉も。
六本木さんも。
仁村も。
じゃあ、俺は?
そこまで考えて。
やめた。
考えても、
すぐ答え出るわけじゃないし。
「まあでも、おめでと」
そう言う。
仁村は少し照れくさそうに笑った。
窓の外では、
夕方の光が教室をオレンジ色に染めていた。
青春だなあ、とか思う。
なんか、むず痒いくらいに。




