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24.上に行く

いつからだっただろう。

島を、島のことをはっきり見るようになったのは。


あの夜。


「この時間が好きだ」


そう、俺は好きだったんだ。

島と話すこの時間が。


だから、島のことを知りたい。

好きなもの。嫌いなもの。


そして島が苦しそうな顔をした時、

俺は、なぜか苦しかった。


助けたいとか、傲慢なことは思わない。

でも、島が寂しい時、苦しい時、

誰かいてくれたら、そう思った時。


そこに、俺が、俺の顔を浮かべてくれたら。

どれだけ嬉しいだろう。





『島ー。遊園地行こうー』


我ながら恥ずかしい。

こんな風を装っていて、内心鼓動が鳴り止まない。


まあ今は確かバイトだし、

もう少ししたら返信くるだろ。


通知音が鳴った。え、誰から?

島だった。


『行きまーーす!』


ああ、嬉しい。嬉しい。嬉しい。

一人で拳を握る。


六月の終わりだった。


夕方なのにまだ少し暑くて、

でも風だけは涼しい。


遊園地なんて久しぶりで、

最初は正直ちょっと舐めてた。


でも島が想像以上に楽しそうで。


ジェットコースターで叫ぶし、

お化け屋敷で袖掴んでくるし、

変なキャラクターのカチューシャまで買ってた。


「いやそれ絶対似合わんって」


「失礼だなあ」


とか言いながら、

結局ずっと付けてる。


なんか、見てるだけで楽しかった。


前を歩く島を気づかれないように写真を撮った。

もしかして俺キモイか?


昼過ぎ。

ベンチでジュース飲みながら休憩してる時。


島がストロー咥えたまま、

ぼーっと空を見ていた。


「疲れた?」


「ちょっとだけ」


「じゃあもう帰る?」


そう聞くと、

島は首を振った。


「まだいたーい」


その言い方が、

なんか子どもみたいで笑ってしまう。


「なに笑ってんの」


「いや、かわいいなって」


そう言うと島は顔を逸らした。

やばい、流石に今のはキモすぎた。


彼氏でもないのにかわいいとか気軽に言うもんじゃないな。


今日は浮かれすぎだ俺。ちょっと落ち着こう。


夕方。


観覧車のライトが点き始める。

空がオレンジから群青色に変わっていく。


「あ」


島が観覧車を見上げる。


その顔が、なんか綺麗だった。


「ねえ、あの観覧車乗らない?」


そう聞くと、島は少し驚いてから頷いた。


ゴンドラに乗り込む。

ゆっくり扉が閉まる音。

ふわっと体が浮く感覚。


最初は普通に景色の話をしていた。


「うわ、高っ」


「まだ全然だろ」


「いや普通に怖いんだけど」


「島、高いのダメなタイプ?」


「だめっていうか、なんか落ちそうで……」


言いながら、

こっちの袖を掴んでくる。


無意識なんだろうけど。


その小さな力が、

やたら心臓に悪い。


夜景が少しずつ広がっていく。


街の灯り。

車の流れ。

遠くのビル。


全部が小さく見える。


でも。


横を見ると、

島がいた。


その景色より、

そっちのほうが目に入る。


島は窓の外を見ながら、

静かに笑っていた。


その顔を見た瞬間。


なんか、

胸がぎゅっとなった。


ああ、

好きだ。


ちゃんと、

好きなんだ。


スマホが震える。


見る。


三玉からだった。


『今日デート?』


『まあ』


『落ち着け!』


「…………」


思わず笑う。


「どうしたの?」


「いや、友達から」


「なんて?」


「落ち着けって」


島は少し不思議そうな顔をしてから、

ふっと笑った。


その笑い方が、

めちゃくちゃ柔らかかった。


……いや、ほんと、落ち着け。


三玉はよく分かってるな。


でも。


ああ、そうだよ。


分かってる。


好きなんだよ。


観覧車は、ゆっくり頂上へ向かっていく。


静かだった。


遊園地の音も、なんだか遠い。


その時、

ほぼ同時だった。


「あのさ」


「ねえ」




「あ、ごめん」


「いや、そっち先でいいよ」


譲り合って、また被って。


なんかおかしくて、

二人で笑う。


そのあと。


島が、少し俯いた。


「……私さ」


小さい声で、でも、

でも、

ちゃんと聞こえた。


「仁村くんといると、

 すごく楽しい」


「うん」


「なんか、安心する」


島は言葉を探すみたいに、

少し止まる。


そして。


「……好き」


その瞬間。


頭より先に、

口が動いていた。


「俺も、島のこと好き」


島が顔を上げる。


泣きそうな顔だった。


でも、

ちゃんと笑っていた。


「ほんと?」


「うん」


「……夢じゃない?」


「だったら俺も同じこと思ってる」


そう言うと、

島は小さく吹き出した。


観覧車が頂上に着く。


夜景が、一番綺麗に見える場所。


でも、

多分、人生で一番綺麗だと思ったのは。


その時、泣きながら笑ってた島の顔だった。







そう、この瞬間は、

この瞬間みたいな時間がずっと続くって、

そう思っていたんだ。


俺は。

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