20.皆に聞く
放課後に、教室で。
「で?」
市ヶ谷が机に肘をつきながら言う。
「なんの話?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってさ」
頭をかく。
自分でも分かる。態度が変になってる。
「……珍しっ、仁村くんが相談なんて」
後藤が少しだけ首を傾げる。
「いや、そんな大したことじゃねえんだけど、
なんか最近さ、変なんだよ」
「……え? 変? 誰が?」
三玉が聞く。
隣では、六本木が静かに座っている。
少しだけ距離は近い。
でも触れてはいない。
それでも分かる。
前よりも近づいてる。
「島」
「……島?」
市ヶ谷が眉をひそめる。
「島って、よく行くファミレスの店員?
なんでお前が島の話してんの?」
「いや、なんか……
えーっと……最近、さ、
ちょっと話すようになってさ」
「は?」
三玉が素で声を出す。
「え、ちょっと待って」
「いつの間に?」
「いや、ファミレスで……」
そこまで言って、気づく。
全員の視線が集まっている。
「……え?」
「ファミレスって、あの?」
市ヶ谷が聞く。
「お前、あそこ一人で行ってんの?」
「いや、まあ……」
「で、島と話してんの?」
「……うん」
間が開く。やばい。言うべきじゃなかったか?
「いや聞いてねえって」
市ヶ谷が即座に言う。
「言えよ〜」
「いや別に言うほどでも……」
「別に気楽に言えばいいんだよ」
「……何話してんの?」
後藤が静かに聞く。
「いや、普通に……雑談とか。
最近やる気出てきたって話したら、なんか…
その、応援された」
「……なるほど」
六本木が小さく呟く。
「それで、変というのは?」
「……なんか、時々さ」
言葉を選ぶ。島を嫌に捉えてほしくない。
「急に止まるっていうか、
話してても、途中で……
なんか別のこと考えてる感じになる」
「で、聞くとなんでもないって」
三玉が少し考える。
六本木も視線を落とす。
「……それ、もともとそういう人じゃないの?」
「いや、でもなんか違うんだよ」
「前より、なんていうか……」
言葉を探す。
「……引っかかるんだよ。
でも、……心配すんのも迷惑かなって、
思って、余計なお世話かなって」
言う。
そんなことないって、
言ってほしかったのかもしれない。
それでも、口をついた。
「そんなことはねえって、まじで」
市ヶ谷が言う。
その声は、さっきよりもまっすぐだった。
「心配されて、思われて、嫌な奴いないって」
少しだけ間を置いて続ける。
「少なくとも、俺はそう思う……」
その言葉に、空気が少し変わる。
その顔を後藤が、市ヶ谷を見ている。
少し笑っていた。
市ヶ谷はそれに気づいていないふりをして、
少しだけ目を逸らす。
「……まあ、でも」
軽く言い直す。
「気になるなら、ちゃんと聞いていいと思う」
どこか、自分に言ってるみたいだった。
「……そう、だな」
仁村が頷く。
そのとき。
「仁村くん」
三玉が呼ぶ。
「ん?」
「……なんで、島さんと話すようになったの?」
シンプルな質問。
でも、少しだけ重い。
一瞬考える。そういえばなんでだろう。
皆でも問題なかったはずなのに。
「……なんとなく」
そう答える。
でも、それだけじゃなんか違った。
「……あいつ、なんか話しやすいんだよ」
それを聞いて。
三玉と六本木が、ほんの少しだけ目を合わせる。
後藤は何も言わない。
市ヶ谷は、ふっと笑う。
「……そっか」
その一言だけ。
でも、それぞれの中で、何かが動いていた。
まだ形にはならないけど。
確かに、変わり始めていた。




